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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える
2025.10.3
グレーター東京3700万人時代の幸福論- 歩きながら考える vol.140
渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)
今日のテーマは、鉄道網の発達に伴って東京圏が拡大したという話について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日は移動時間を使って、最近気になっていることを話してみようと思います。テーマは、東京の鉄道網の拡大と、これからの暮らし方について。10月2日の日経新聞で「グレーター東京」が3700万人規模になっているという記事を読んで、色々考えちゃったんですよね。
グレーター東京3700万人、鉄道が変えた通勤圏
僕、子供の時は横浜市の二俣川あたりで育ったんですけど、当時は横浜から東京まで行くのって結構大変だったんですよ。高校受験で都内の高校に願書を取りに行った時、初めて山手線に乗って、五反田駅の下を通る桜田通りを見て「めっちゃでけえ!」ってびっくりしたのを覚えてます。渋谷なんて、もう卒倒しそうなくらい華やかで遠い場所でした。
でも今、実家があった横浜の駅から渋谷まで30分で行けちゃうんですよね。なんでかっていうと、2023年に相鉄・東急新横浜線が開業して、相鉄線と東急東横線、そして副都心線が繋がったから。渋谷はもちろん、新宿、池袋、さらには和光市の方まで乗り換えなしで行けちゃう。完全に通勤圏になってるわけです。
日経新聞の記事によると、東京圏は1都3県で3700万人という世界最大の都市圏で、これを支えたのが鉄道網への投資だそうです。つくばエクスプレスの開業で茨城のつくば市から東京・秋葉原まで最速45分。流山市の人口は10年で23%増加。鉄道網が広がることで、ベッドタウンがどんどん外へ広がっていったんですね。

都市集約のジレンマ:ソウルが示す未来
で、ここからが今日の本題なんですけど、この「都市への集約」って、実は結構難しい問題を抱えてると思うんですよ。
インフラの効率性を考えると、都市に人口を集約させるのは理にかなってる。日本の国力を考えても、地方に分散したインフラを維持していくのは、この先厳しいでしょう。それに、都市は便利で魅力的じゃないですか。仕事も、文化も、エンターテインメントも集まってる。
でも同時に、都市って労働人口の再生産、つまり出生率の維持が難しいんですよね。現状でも東京の出生率は全国平均より低い。で、この現象がもう一歩進んでいるのが韓国のソウルなんです。
韓国は国全体の人口の約半分がソウル圏に住んでいて、2024年のデータではソウル特別市の合計特殊出生率は0.58まで下がってます。都心に行けば行くほど出生率が下がる。大きな理由と考えられるのが、土地が高くて、物価が高くて、生活コストがかかりすぎるから。結婚や出産のハードルがものすごく高くなっちゃっいますよね、大都市だと。
これ、対岸の火事じゃないですよね。グレーター東京も、このまま都心への過密化が進めば、同じ道をたどる可能性がある。インフラの効率化のために都市に集約させる必要がある一方で、人口の再生産が大丈夫なのか、という不安があるわけです。
幸福度の方程式:周縁部が持つ可能性
じゃあ、どうすればいいのか。僕が考えるのは、グレーター東京の「周縁部」や「中核都市」をもっと活用することなんじゃないかと。
最近の幸福度の実証研究を見てて思ったんですけど、幸福の前提条件って、割と生活基盤に関わるところの影響がすごく大きいんですよね。具体的には、所得と貯蓄と家の快適さ。それと、これはもしかしたら地域によって差があるかもしれないけど、都市の独自の魅力とか、近所の人とのつながり、助け合い。あと、多様な人と知り合って成長できるようなコミュニティがあるかどうか、ってことなんです。
で、大事なのは、所得、貯蓄、家。この3つに関しては、周縁部の方がいい条件になる可能性が高いと思うんですよ。
都心から離れた郊外なら、土地が安いから、広くて機能的な家が建てられる・借りられる。物価も都心よりは安い。固定費が下がれば、同じ収入でも貯蓄に余裕ができる。生活の質が上がる。ソウルみたいに都心に集中させて生活コストが上がっちゃうと、逆に幸福度が下がって、少子化が進んじゃう可能性が高くなると思います。
それと、周縁部に行くと、この間別の記事で書いたみたいなエディブルランドスケープ、つまり食べられる景観みたいな、街の中で何かを共有するからこそ、近所の人たちと緩くつながりができる可能性があるんじゃないかと思うんです。都心の匿名性とは違う、適度な距離感のコミュニティ。これも幸福度にとって重要な要素ですよね。
東京周辺の甲府、高崎、宇都宮、小田原、川越、水戸みたいなところは、これから「幸福度を上げる中核都市」として存在感を上げていくと思うんですよ。そこに住んで、快適に通勤できる環境があれば、生活コストを抑えながら、都心の仕事にアクセスできる。

「着席できる通勤」が変える未来
ただ同時に、その周縁部の中核都市で暮らすってなると、今度はやっぱり都心部までの通勤時間が長くなるじゃないですか、っていう話になりますよね。通勤時間の長さは幸福度を大きく下げるってことも分かってる。だから、ここが肝心なんですけど、電車の中での快適さがすごく重要になってくるんです。
ここで注目したいのが、最近の鉄道サービスの変化なんです。
2025年3月15日から、中央線快速・青梅線にグリーン車サービスが導入されました。東京から大月・青梅間で、座って快適に通勤できるようになった。座席があって座れる環境があれば、パソコン開いて仕事できちゃいますよね。移動時間が業務時間になる。
関西でも、京阪電車の有料座席指定席「プレミアムカー」みたいなサービスがあって、そこまで高くない料金で居心地のいい移動ができるようになってます。こういう着席サービスが広がっていくことが、周縁部での暮らしを現実的にしていくんじゃないかと思うんですよ。
僕自身、京都に住んでて、仕事がある時だけ東京に行くんですけど、新幹線のS Work席に座ると、車内で普通に仕事できちゃうんですよ。Webミーティングや電話もOKだし、キーボードの打鍵音も「お互い様」として許容される車両。だから、移動時間っていう感覚がない。業務時間として捗る。
それもあって、大学の先生から「ワタナベさんって東京の人ですよね」ってもう5年も言われ続けてるんです(笑)。いやいや、京都に住んでますけどって話なんですけど、多分、意識が東京寄りになってるんでしょうね。

まとめ
大事なのは、「無理も負担感もない」ってことなんです。単に「可能」じゃダメで、「快適」じゃないと続かない。座って仕事ができる鉄道環境、フレックスタイムや週3出社みたいな働き方、リモートワークとの組み合わせ。
そして、そのためには通勤時間や移動時間を分散させる必要があるんですよね。朝一で出社しなきゃいけない働き方だと、どうしてもラッシュに巻き込まれて座れない。でも、10時出社でもいいとか、週3出社でいいとかなら、グリーン車も座れる確率が上がるし、快適に通勤できる。こういうのを、個人の工夫じゃなくて、社会全体の仕組みとして作っていく必要があるんじゃないかと思うんです。
というわけで、今日は「グレーター東京と幸福度」について、歩きながら考えてみました。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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