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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える

2025.9.19

農業の大規模化から見える、日本の「粗利率問題」という根っこの話 – 歩きながら考える vol.130

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマはメガファーマーが増えているという記事から考える、大規模化と粗利問題という日本の産業共通の問題について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は移動時間を使って、「農業の大規模化」から見えてきた日本経済の構造的な問題について話してみようと思います。きっかけは9月6日の日経新聞の記事。福井県で100ヘクタール超の「メガファーム」が増えているという話から。農業も、中小企業も、製造業も、みんな同じ構造的な課題を抱えている。今日はその話を、歩きながら考えてみます。

福井のメガファームが教えてくれること

まず、ちょっと驚いたデータから。

日経新聞の記事によると、福井県では2015年から2024年の9年間で、農家1軒あたりの田の平均面積が2.4倍に拡大。100ヘクタール以上のメガファームは24事業者と、9年間で12倍に増えたそうです。

これ、すごい変化だと思いません? 農業って、日本では「小規模な家族経営」のイメージが強いじゃないですか。でも、福井では様相が変わってきている。GPS搭載の自動運転農機を導入したり、データ分析で収穫量を最適化したり。まるでIT企業みたいな農業経営が始まっているとのこと。

で、なんでこんなに大規模化が進んでいるのか。記事で紹介されていた坂井市の田中農園の社長の言葉が印象的でした。「高性能農機に投資するためにも事業拡大は欠かせなかった」。やっぱり規模の問題なんですよね。小さい農地でも大きい農地でも、トラクター1台の値段は同じ。DXするためのシステム投資額も同じ。だったら、規模を大きくして、その投資を回収できる体制にする必要がある。

「粗利率が低い」という日本の宿痾

この構造って農業だけの話じゃないですよね。

日本って、生産性が低いとよく言われます。でも「生産性」って言葉、ちょっと抽象的じゃないですか? もっと端的に言うと、「粗利率が低い」ってことなんです。粗利率が低いと何が困るかって、給料上げられないんですよ。だって、人件費って粗利の中から出すものだから。粗利が少なければ、当然、従業員に回せるお金も少なくなる。

で、なんで粗利率が低いかっていうと、規模が小さいから。大企業でも中小企業でも、必要な機能って基本的に同じじゃないですか。人事も経理も営業も必要。でも、売上規模が10分の1だったら、それらの機能にかかるコストの比率は相対的に高くなっちゃう。固定費負担の話ですよね。

中小企業基盤整備機構のデータによると、日本の企業の99.7%が中小企業で、従業者数の約70%が中小企業で働いています。つまり、日本で働く人の大半が、この「規模が小さくて粗利率が低い」環境で働いている可能性があるということかもしれませんね。春闘で大企業の賃上げがニュースになっても、7割の人にはあまり関係ない話なのかもしれません。

あらゆる産業で必要な「まず大規模化」という発想

じゃあ、どうすればいいのか。

ここで大事なのは「順番」だと思うんです。まず大規模化。これが第一。その後で、他の経営効率化策を考える。この順番が重要なんじゃないかと。

確かに、農業の場合は土地に制限があります。アメリカやオーストラリアみたいに、見渡す限りの大平原で農業をやるなんて、日本では物理的に無理。でも、福井が証明したように、集落営農や農地集約で100ヘクタール規模までは行ける。まずはそこまで行って、粗利を稼げる体制を作る。その上で、品種改良とか、6次産業化とか、付加価値を上げる施策を考える。

これ、他の産業でも同じだと思うんですよ。例えば、地方の小さな製造業。1社だけでDXしようとしても、システム投資が重すぎる。でも、同業他社と統合したり、業務提携したりして、実質的な規模を大きくすれば、投資余力が生まれる。そうすれば、自動化も進められるし、新しい設備も導入できる。

最近、M&Aが中小企業でも増えているのは、この「規模の経済」を求める動きなんだろうと思います。事業承継の問題も重要ですが、生き残るために必要な規模を確保する、という側面もあるんじゃないでしょうか。

まとめ:個人の頑張りより、構造を変える勇気を

というわけで、今日は農業の大規模化から始まって、日本経済の構造的な問題まで考えてみました。

粗利率が低い→給料が上がらない→消費が増えない→経済が成長しない→少子化も進む。この負のスパイラルを断ち切るには、まず「規模」の問題に正面から向き合う必要がある。農業がメガファーム化で示した道筋は、実は日本のあらゆる産業が参考にすべきモデルケースなのかもしれません。

統合だけが答えじゃないけど、「まず大規模化でどこまで行けるか」を真剣に考える。その上で、次の一手を打つ。この順番を間違えないことが、今の日本にとってすごく大事なんじゃないかと思います。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

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