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ブログ歩きながら考える

2025.8.27

AIエージェントの現在地:極めて優秀な部下であり、理想の上司でもある – 歩きながら考える vol.114

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、今年サービス開発が凄い勢いで進んでいるAIエージェントに関して。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は移動時間を使って、AIエージェントの現在地について考えてみようと思います。最近読んだ日経新聞の「「社長はAIエージェント」の現在地」という記事で、Anthropicが行った興味深い実験が紹介されていました。AIに無人店舗を1ヶ月間経営させたら赤字になってしまったという話なんですが、これって私たちがAIとどう付き合うべきかを考える上で、とても示唆的な事例だと思うんです。今日はこの実験から見えてくる、AIを「部下」として使う場合と「上司」として使う場合の現在地について、歩きながら考えてみます。

AIを部下として見るなら、天才的に優秀な新人という現在地

日経新聞の記事では「社長はAIエージェント」という見出しでしたが、Anthropicの「Project Vend」のおけるAIは部下の立ち位置ですよね。だって、マネジメントの立場でAIエージェントに店長を任せたわけでしょう。それは部下ってことですよね。

実験では、Claude Sonnet 3.7をベースにした「Claudius」が、品薄商品の補充はできたけど、社員に説得されて大量の値引きコードを発行しちゃったり、タングステンキューブを大量に仕入れちゃったり。結果、赤字経営になってしまったそうです。

これ、Sonnet 3.7で実験したそうですが、おそらくOpus 4.1とかGPT-5とか、より新しいモデルを使っても状況はそんなに変わらないと思うんです。私も実際にClaude Opus 4.1とGPT-5を使ってますけど、確かに処理速度は人間の比じゃないくらい速い。でも、1発でOKな成果物が出てくることはほぼなくて、必ず数回のフィードバックが必要なんですよね。

要するに、天才的に優秀な新人って感じなんです。ポテンシャルは高いんだけど、どのような成果物をどこまでのレベルで出すとOKかっていう基準値、つまり相場感がまだ分かっていない。

皆さんも、若手のポテンシャルが高いからといって「これやっといて」という丸投げの指示の仕方はしませんよね?そういう指示の仕方をするマネジメントの方がやばいじゃないですか。

AIも同じで、タスクを細かく分解して、「まず作業プランを考えて」「次にこの部分の情報を集めて」みたいに、1つ1つ指示を出していく。で、それぞれのアウトプットに対して「ここはもうちょっとこうして」ってフィードバックする。すると数秒で改変したものを出してくる。この二人三脚のやり取りを経て、ようやく期待値に合うものができあがる。

一方、AIを上司として見たらどうなるか

それでは一方で、AIを上司として見たら、AIの現在地はどのように見えるでしょうか。

考えてみれば、人間の上司って結構大変じゃないですか。感情の浮き沈みがあったり、忖度しなきゃいけなかったり、時にはとんちんかんな指示を出してきたり。「できる部下」って、そういう上司の言うことをそのまま鵜呑みにせずに、参考情報として聞きながら、最終的にみんながハッピーになる結果を出すように調整してるわけです。

それと比べると、AI上司って実はかなりリーズナブルなんですよ。感情的なブレはないし、ハルシネーションで時々嘘は言うけど、人間の上司の無茶ぶりに比べれば全然マシ。しかも「もうちょっと違う視点がないかな」って聞けば、素直に別の角度からの意見を出してくれる。変にプライドもないから、フラットな対話ができる。

博識であることは間違いないし、24時間いつでも相談に乗ってくれる。相当ストレスなく、手間かからずAI上司の下で働けるという感覚なんじゃないかなと思います。

AIとの付き合い方の現在地

現状のAIエージェントの現在地をまとめると、部下として使うなら、めっちゃ優秀な新人が来たという感覚で接するのがいいと思います。基準値をプロセスを細かく分けて、各プロセスのアウトプットの基準値をすり合わせる。こちらがフィードバックすれば、それに対して数秒で改変したものを出してくるから、今でももう十分優れた部下としてAIは振る舞えます。そういう意味ではAIエージェントの機能は、まだ「部下AI」には危うい。

AIエージェントは他のアプリケーションに自律的にインプットしたりすることができるんですが、正直そういう使い方はちょっと危ないんじゃないかなと思います。Anthropicの実験でも、顧客(社員)との交渉で簡単に値引きしちゃったように、外部とのやり取りや判断を伴う調整業務を丸投げするのは、今の段階ではリスクが高いと思います。同じ理由で、アシスタントとしてAIエージェントを使うのも怖いですね。

一方で、上司として使うのであれば、いろんな情報を取ってきて、そのAI上司なりの判断を示してもらう。でも、その判断で出てきた指示自体の裏を僕らは読むわけだから、割と今のAIエージェントでも使えるんじゃないかなと。つまり、最終的な意思決定と実行は人間がやるけれど、情報収集と判断材料の提供はAIに任せる。これなら、今でも十分実用的です。

部下として使うんだったら、外部との調整や自律的な判断が必要な業務は気をつけた方がいい。上司として使うんだったら、判断材料を提供してもらって、最終判断は自分でする。これが今のAIエージェントの現在地ではないでしょうか。

というわけで、今日は「AIエージェントの現在地」について、部下と上司、2つの視点から考えてみました。みなさんはAIをどう使ってますか?ぜひSNSでシェアして、感想を聞かせてください。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

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