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「私の仕事は○○です」と言いにくい
今日は少し個人的な話。
「お仕事何されているんですか?」と聞かれますね。で、色々と説明をするんですが、どういう言い方をしても、どうもしっくりこない。
独立してから、仕事は大変楽しいんですね。大きな会社の看板が無いので、そもそも仕事を取るのは難しく、またパフォーマンスが悪ければ次は無い、というプレッシャーはありますが、それでも独立した後の方が仕事は格段に楽しい。まあ、天職だと思います。その楽しさとは裏腹に、人に自分の仕事を説明するのが大変難しい。
原因は、仕事の種類が一見バラバラなこと。
今年に入ってからの仕事を見ても、「インド市場の市場規模推計をしてプロモーション戦略を作るマーケティング」の仕事もあれば、「ベンチャーの組織デザインの仕事」もある。はたまた、「日本人・外国人混合チームのチームビルディング」の仕事もあれば、「プロジェクトマネジメント」や「交渉術」の研修仕事もある。さらに、「エグゼクティブコーチング」もしている。
仕事内容がバラバラだと、「私の仕事は○○です」という説明をするのが難しいんですね。
「研修講師」にしては、ティーチング以外の要素が大きすぎる。
「ワークショップデザイナー」にしては、ワークショップ以外の仕事が多すぎる。
「コーチ」や「ファシリテーター」にしては、場で話されている内容(コンテンツ)に対して、自分の意見をはっきり言う割合が多い。
仕事の内容から考えると、「コンサルタント」で、かつ「プロセス寄りのアプローチを取っている」というのが一番近い説明に思います。
しかし、そういう説明をして「あー、なるほど」とわかってもらえることはないですね。
「組織開発の領域で、プロセス重視のコンサルテーションをしています」と言うと、相手の目が虚ろになり、「??」マークが頭の上に浮かぶのが見て取れます。
そもそも、自分が「組織開発の領域で、プロセス重視のコンサルテーションしています」と説明をすると、どうもその説明に自分自身がしっくり来ない。
「トロイの木馬」でメッセージを伝える
前に、東京都市大学の枝廣淳子さんが「トロイの木馬作戦」ということを言っていました。
枝廣さんは、持続可能な社会に向けた社会的取り組みを行ってらっしゃいますが、同時に「朝2時起きでなんでもできる」のような本を書いたり、またシステム思考の書籍の翻訳もされています。
枝廣さんは、環境メールニュースのメールマガジンを発行していらっしゃいますが、スタート当初、このメルマガの購読人数がなかなか伸びなかったそうです。
確かに、「環境」とか「持続可能性」というキーワードに興味を持つ人は少数派かもしれません。最初からこのキーワードで読者を集めるのは難しいかもしれない。
よって、「朝2時起きでなんでもできる」みたいな多くの人が興味を持つテーマで本を書き、読者になってもらって、繋がりを作る。その中の一定数の人は「環境」とか「持続可能性」のようなテーマにも興味を持つ。
人に何かを伝える時に、相手が「扉を開いてくれる」内容で相手との関係性を作り始める。その関係性を軸に、相手はすぐには興味を示さないかもしれないけれど、伝えたい内容(環境)を伝えていく。
仕事の内容を伝える2つのアプローチ
たぶん、人に自分が取り組んでいることを伝えるには、アプローチが①直球での伝達と②トロイの木馬式の伝達の2つあるんだろうと思います。①で行くなら、自分が本当に熱を持ってやっていることをそのまま伝える。②で行くなら、相手にとって分かりやすく、興味を持つことを伝えて、まず関係性を作る。
そして、取り組んでいる内容が、概念的だったりして、理解されにくいものの場合は②のアプローチを取った方が良いのだと思います。
ただ、大事なことは、例え②のアプローチを取るのだとしても、それは自分が好き/大事だと思っていることの1つである必要があるんだろうと思います。
違和感の正体
ここに自分の違和感の正体があったのだと感じます。
つまり、自分が「組織開発の領域で、プロセス重視のコンサルテーションをしています」と言った時、この説明は自分にとって①でも②でもないんですね。なぜなら、この説明って、あくまでアプローチの話でしかないから。
自分が本当に大事だと思っていることは、
- 社会が「持続可能」な状態になることであり、
- その為に人々の「意識変容」が進むことであり、
- それを支援する「仕組みや道具」を作ること
これをそのまま①として説明をすると、自分が仕事の領域としている企業の人にとっては分かりにくくなる。なぜなら、ほとんどの企業人にとっては「持続可能性」も「意識変容」も、会社業務に直結する話には聞こえないから。
何か社会活動のような印象を得てしまう。
しかし、本当に社会の持続可能性の為に「人々の意識変容」を目指すなら、「職場」を題材にそれを進めて行くことは筋の良いアプローチだと感じます。なぜなら、社会人は非常に長い時間を職場で過ごすから。
自分のキャリアを問い直すこと、人生と仕事の関係を考え直すこと、周囲の人との関係性を作る技を身に着けること、そして実際に仕事を通じて社会を変えていくこと。企業活動は現代社会システムを作る最も重要な要素であり、その変容を支援することは大変重要だと感じます。
とは言え伝わりにくいこの内容、②の「トロイの木馬」アプローチを取るのが良いのだろうと思います。
機能するトロイの木馬であるためには?
「トロイの木馬」であるためには、それが、
- 具体的で
- 何の役に立つのか分かりやすく
- かつ、「他には無い」と思う
ことが必要。枝廣さんの「朝2時起き」は、正にこのパターン。
自分の場合、「質問する力」とか、「合わない人と、それでも協働する方法」とか、「今さら聞けない仕事の基礎力」といった、ワークショップを作ることがあります。こういう個別のワークショップを作る時は、なるべく具体的で、何の役に立つのか分かりやすく、かつアプローチに捻りを入れて「他には無さそう」に見えるように知恵を絞ります。
そして、ワークショップのテーマはそれぞれバラバラであっても、根底に流れている大きなテーマは実は同じ。それは「意識変容の為の場作り」であるということ。その大きなテーマを分かりやすく伝えることが必要なんだろうと思います。
「組織開発の領域で、プロセス重視のコンサルテーションしています」は、具体的でもないし、何の役に立つのかもわからないし、「他には無い」と思うものでもないですね。
折角の自分が熱を持って取り組める仕事、見つけるのも大変なんだけど、それを上手く伝える仕組みをきちんと作ることも大切なんですな。
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立し、現在は「人と組織が変わること」に焦点を絞ったコンサルティングに取り組んでいる。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。 株式会社かえる 代表取締役。
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