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今日のテーマは、若い留学生が日本に定着してくれない問題について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日は土曜日の朝、いい天気なので散歩しながら話をしたいと思います。昨日、研究室の留学生が無事に博士号を取ったお祝いで食事に行ってきたんですけど、話を聞いていて、またか、となんだかなあとモヤモヤしたので、その話をしてみようと思います。
「またか」というのは、この5年ぐらい研究室にいて、海外からの留学生が日本には定着しないという状況を繰り返し見てきたからです。日本は国費を使って世界から優秀な若い人を招いて、奨学金を出して、学位を取ってもらう。これは将来のタレントパイプラインへの先行投資のはずなんですけど、学位を取った人がそのまま他の国に行っちゃうなら、いったいどういう投資設計をしてるんだ?とモヤるわけです。
「待遇で負けてるから仕方ない」は本当か
まず、よくある説明から考えてみます。「日本は給料が安いし、研究環境もポストの数もアメリカや中国に負けている。だから優秀な人が流出するのは仕方がない」という見方です。
確かに、待遇面で他国に見劣りする部分はある。日本のアカデミアでは、少子化の影響もあって大学の数は増える方向にないし、テニュア(終身雇用)のポジションはかなり限られている。給与水準も、アメリカや中国のトップ大学と比べると厳しい。
ただ、昨日の飲み会で留学生たちの話を聞いていて感じたのは、問題は給料そのものという話じゃないということでした。特に若い研究者にとっては、給料以外の要素──プロセスの透明性とか、スピード感とか、将来の見通しの明るさとか──の比重が結構大きいんじゃないかと感じるんです。そして、お金で勝てないなら本来そういうところで頑張るべきなのに、そこでも他国に後れを取っているように見えてしまっている。

「見えない評価基準」が不信感を生む
もう少し具体的に言うと、こういうことです。
一流のジャーナルに論文を出せるような研究力。これはもちろん日本でも評価される。問題は、研究力以外の評価要素のうち、不透明な部分の割合が他国に比べて圧倒的に高く見えるということなんですよね。
大学などの各組織でポストの空きが出れば公募にはなる。でも、どういう基準で最終的に選ばれているかが外からはよく見えない。研究業績だけでなく、学内の人間関係や、内輪ネットワークの中でのポジショニングが大きく影響しているように映る。市場からベストな人を取ってくるというよりは、関係性ができている人のプールの中からポジションに当てはめていく──つまり純粋な能力主義ではない。そういう風に見えてしまう。
職を得て経済的に自立するというのは、20代から30代にとって大変重要なことで、能力主義に基づいた見込みが不透明なところにとどまり続けるのは時間の無駄に見えてしまう。だから日本を離れるというのは、個人としては極めて合理的な選択です。

「出口」のない人材パイプライン
日本政府は2033年までに40万人の受け入れを目指していて、卒業後の国内就職率を60%にするという目標も掲げています。「来てもらう」ところまでの仕組みは、それなりに作られてきた。
でも、パイプラインの「入口」だけ作って「出口」を設計していないなら、それはパイプラインとして機能していないということです。
研究者であれば、トップジャーナルでの論文、教育経験の評価、学会でのネットワーク構築。そういう能力主義に紐づいた項目の評価がどの程度の重みをもつのか、評価プロセスそのものの透明性を上げる。手続きをシンプルにして、スピード感を持って対応する。待遇で勝てないなら、せめてプロセスの質で選ばれる努力をする。
そこの競争になってきているのに、日本はまだそこに手をつけられていないんじゃないか。昨日の飲み会で感じたモヤモヤは、結局そういうことなんだろうなと思います。
まとめ:投資を投資として機能させるために
というわけで、今日は留学生のお祝いの飲み会で感じたモヤモヤから、日本のタレントパイプラインの設計ミスについて歩きながら考えてみました。
優秀な研究者が日本を去る理由は、待遇だけの問題ではない。評価基準の不透明さ、プロセスの非効率さ、将来展望の見えにくさ。お金以外の部分で選ばれる努力をしないまま、入口だけ広げても、パイプラインとしては機能しない。
なんとかならんもんかね、と悶々とした飲み会でした。
この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてもらえると励みになります。最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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