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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える

2026.3.18 NEW

AIは語学の先生の代わりになるか? 筋トレと語学の意外な共通点 – 歩きながら考える vol.250

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、AIで語学を勉強するという話について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は夜寝る前に、最近ちょっと新しく発見したことを話そうと思います。僕は普段、通勤の歩き時間を使ってAIと英語で会話するっていうのをやってるんですけど、ずっとメインで使ってたGrokが、共同創業者12人中9人が離脱するという状況で、開発がちょっと心配になってきた。それで久しぶりに他のサービスも見直してみたら、Claudeの音声機能がめちゃくちゃ良くなっていたんです。

あくまで個人の使用感ですが、音声機能に関しては、今のところClaude >Sesame> Grok > Geminiという感じ。ChatGPTのAdvanced Voice Modeは一般的にバランスが良いという評価のようですが、僕は最近使っていないので比較できません。会話の自然さだけならSesameが圧倒的なんですが、時間制限があるのとデータを何に使われてるのかわからない気持ち悪さがあるので、マイクなどとの接続の問題はあるもののClaudeがいちばんしっくり来ています。Claudeは会話の内容が自然だし、息継ぎや一瞬口ごもるようなテンポが人間っぽい。気づいてなかったけど、いつの間にかかなりアップデートされていたようです。

もう語学アプリはいらない?

で、こうやって各社の音声AIを使っていて思うのは、専用のスピーキングアプリにお金を払う必要が本当にあるのか? ということです。

今のAIは、頼めばロールプレイもしてくれるし、自分の表現の修正もしてくれる。クイズも作ってくれるし、お互いに3文ずつ交互に話を作っていくストーリーゲームみたいな遊びもできる。つまり、語学アプリがカリキュラムとして用意しているようなことは、ほぼすべてネイティブのLLMでできてしまう。しかも定額制で、何度繰り返しても嫌な顔をしない。英語の先生を雇うことを考えたら、はるかに安い。

もう、AIさえあれば語学学習は十分じゃないか。正直、そう思いかけたんですけど、ちょっと立ち止まって考えると、そう単純でもないかもしれません。

語学は筋トレに似ている

最近思うのは、語学の上達って筋トレとすごく似てるということです。

筋トレって、自分の体に対する細かい意識がないとなかなかうまくいかないように思うんですよね。なんでそう思うかっていうと、身体の感覚や状況の観察ができないと、結局種目・回数・時間みたいな外形的な目安を頼りにやることになっちゃうから。僕もそうなんですけど、それだとフォームが崩れているのにも気づかないし、どこまで追い込むのが効果的かもよくわからないまま、やみくもにやることになってしまう。で、思ったほど効果が出ない。

そこでトレーナーをつけると、確かに効果的になる。でもそれって、自分の体への意識を外部から補ってもらっているということなんですよね。だから、プログラムが終わった後に自分で継続的にトレーニングできるかというと、ちょっと疑問が残る。

語学も同じ構造だと思うんです。自分の語学運用力を正確に把握して、どこにどう負荷をかけるかを考える。たとえば僕の場合だと「この構文パターンばかり使ってるな」という表現の癖に自分で気づいて、それが本当にナチュラルに聞こえるのかをAIに確認して、修正していく。しかも、癖って1回指摘されたら直るものじゃない。何度も何度も繰り返す中で、少しずつ上書きしていくしかない。その変化を自分でモニタリングできるかどうかが、大人になってからの語学ではものすごく大事だと感じています。

つまり、AIは万人向けの魔法の道具ではなくて、自分で自分のトレーニングを設計できる人にとってのパワーツールなんだと思います。

AIは「能力格差」を広げるかもしれない

この「AI時代になっても結局、自分に対する観察力と意識的なトレーニングができるかどうか」というポイントは、語学に限った話じゃなさそうです。

Khan AcademyのAIチューター「Khanmigo」は、答えを直接教えずにソクラテス式の問答で考えさせるという設計で注目されていて、ユーザー数は140万人を超えているとのこと。しかし、教育テクノロジーの世界では「5%問題」と呼ばれる現場的知見があるそうで、AIチューターを使って実際に学習成果が上がるのは、印象ではあるものの5%位の高いモチベーションを持つ層だけなのではないかということが議論されているそうです。

Khanmigo開発側自身もこの問題に言及しています。Khan Academyの最高学習責任者であるKristen DiCerboは、学生とKhanmigoのチャットログを分析した結果について、理想的なやりとりをしている学生がいる一方で、多くのチャットでは”I don’t know”としか返していないと語っているそうですさらに、そもそも自分が何を知っていて、何のサポートが必要で、弱点に対処するためにどう質問を組み立てればいいかを認識するスキルが、学生の側にないケースが多いとも指摘しています。

これ、まさに筋トレの話と同じ構造ですよね。最高のトレーニング器具を渡されても、自分の体を観察し、弱点を把握し、メニューを組める人は伸びるけど、「とりあえずマシンを使ってトレーニングしてみた」だけの人は効果が出ない。AIが普及すればするほど、自分の学びを自分で設計できる人とそうでない人の差が開いていく。AIがなかった時代よりも格差がむしろ拡大する可能性があるんじゃないかと思います。

逆に言えば、AIの時代にこそ「自分の学びを自分で設計する力」の価値が上がっている。では、その力はどうやって身につくのか? それこそAIが手伝える領域なのか、それとも人間にしかできない部分なのか。そんなことも、また歩きながら考えてみたいと思います。

ちなみに、僕は大学の研究室やコワーキングスペースまで片道30〜40分歩くんですけど、その時間にAIと英語で話しています。ウォーキングで心肺機能の維持、英語のスピーキング練習、交通費の節約一石三鳥なんで、すごくおすすめです。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしていただけると励みになります。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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