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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える

2025.11.7

AIリストラの本質:「10人分の仕事をする1人」が生み出すスキル格差 – 歩きながら考える vol.163

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、AIによる雇用喪失の根本には、AIによるスキル格差の爆発的な拡大がありそうだという話。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日はオフィスの屋上で休憩しながら、最近読んだ日経新聞の記事について考えていたことを話そうと思います。11月4日の記事で、「迫る『AIリストラ』の現実」というタイトルだったんですけど、読んでいてすごく気になることがあったんです。

記事では、アメリカで企業が2025年1〜9月に約95万人の人員削減を表明したという話が出ていて、AIを直接要因とした削減は全体の4%程度なんですが、「AIによる効率化を見越した合理化」が始まっているという内容でした。アマゾンのアンディ・ジャシーCEOが「AIの効率化により従業員が減っていく」と発言したことも紹介されています。

で、この記事を読んで、多くの人は「AIに職を奪われる」という話に注目すると思うんですけど、僕がもっと気になったのは別のことなんです。それは、AIをうまく使いこなせる人と使いこなせない人の間で、スキル格差が凄まじく大きくなり、だから雇用が減るという話。今日はこの視点から考えてみたいと思います。

「10人分の仕事を1人でやる人」が、既に出始めている

まず最初に、今何が起こっているかという話から。

AIをうまく使える人と使えない人の差が、もう想像以上に開き始めてるんですよね。特に若い人で、AIへの適応が早かった人の中には、各種のツールをうまく組み合わせて使って、かつてだったら「これ、スタッフ10人ぐらいいないとできないよね」みたいな仕事を1人でやっちゃう人が出始めています。

僕の場合、研究や執筆、コンテンツ作成といった分野で、AIが統合されてワークフローがどう変わったかに興味があり、状況を見ているのですが、これがもう顕著で。

今の所、AIが0から100まで全部自動でコンテンツを作るわけじゃないですね。そうではなくて、AIによって強化された人が出すアウトプットの質と量が、もう桁違いになってるんです。

で、ここで企業の経営者の立場で考えてみてください。10人分の仕事を1人でできる人がいるなら、わざわざ10人雇う必要ありますか?当然、スキルや能力の差が、そのまま雇用の安定性や評価の差に繋がってきます。

日経の記事でも、ホワイトカラーの削減が目立つとありました。コンサルティング大手のアクセンチュアが世界で約1300億円規模のリストラ計画を発表したり、マイクロソフトが計1万5000人の削減を発表したりしているのは、こうした背景があるんだと思います。

求められるのは「AIワークフロー全体を統御する力」

じゃあ、その”AIをうまく使える人”って、何ができる人なのかというと。

昨年あたりまでは”プロンプトエンジニアリング”つまり”どう指示を出せば良い結果が得られるか”という話が多かった。ただ、今はもうそれだけでは十分ではない。

今求められているのはむしろ、AIを含むワークフロー全体を設計・統御できる力だと思います。具体的にはこういうこと:

  • 複数のモデル・ツールをどう組み合わせるか(例:各種LLMや専門特化AI、更にそれと統合・連携するプラットフォーム)
  • どんなデータ/背景情報/過去成果をどう準備・読み込ませるか(データパイプライン設計)
  • どこに向かって、どのようなアウトプットを得るか(目的設計+指示設計)
  • その結果をどう確認・批判的にレビューし、別オプションも検討しながら最終版にまとめるか(人+AIの役割分担)

つまり、従来10人程度の人間チームをまとめていたプロジェクトマネージャーの仕事に近いんです。ただ異なるのは、今その”チームメンバー”の多くがAIモデルであるということ。

各モデルには得意・不得意があり、ハルシネーション(誤出力)や単純な間違いも起き得る。だからこそ、どのモデルをどの段階でどう使い分け、最終的に信頼できる成果物に仕上げるかというマネジメントが重要になってきています。

この能力を持っている人と持っていない人の差が、もうすごく開いちゃってるんですよね。

これから激化する「スキル獲得競争」と報酬格差

で、ここからが本題なんですけど、この状況を踏まえると、これから何が起こるかっていうと、このワークフロー設計型のAI活用スキルを獲得する競争が、めちゃくちゃ激化するんじゃないかと思うんです。

だって、考えてみてください。従来は、プロジェクトマネージャー1人 + チームメンバー10人が必要だったのが、今は、AIをマネジメントできる人材1人だけで済むわけです。その分の価値を生み出せるなら、給与が数倍になる可能性がある。これ、めちゃくちゃ大きなインセンティブじゃないですか。

一方で、そのスキルを獲得できなかった人は、AIに置き換えられてしまうリスクがある。同じ会社にいても、「AIチームをマネジメントできる人」と「単純作業しかできない人」という格差が、もう無視できなくなる。

これは、そのリスキリングみたいな話の中で、AIを前提にしたプロジェクトマネジメント能力にどう対応していくかっていうのが、もう避けて通れない大きなテーマになっているということです。

ちなみに、日本の場合はエッセンシャルワーカー(介護、運輸、建設などの現場労働)の不足が深刻なので、ホワイトカラーからエッセンシャルワークへの労働力移動が適切に起これば、アメリカほど深刻な失業問題にはならない可能性もあると思います。

AIプロジェクトマネジメント能力が、これからの分かれ道

というわけで、今日は「AIリストラ」の記事から考えた、AIによるスキル格差の話をしてみました。

最後に一つ言っておきたいのは、これは単なる「新しいツールの使い方を覚える」という話じゃないということです。ワークフロー全体を設計し、複数のツールやデータを統合し、人とAIの役割分担を適切に行う―こういうAIを前提とした新しいプロジェクトマネジメント的な能力が問われているんだと思います。

どのツールをどう組み合わせて、どういうデータを準備して、どのタイミングで確認して、批判的に考えながら最終的な成果物に仕上げるか。このプロセス全体をデザインできるかどうか。これが、これからの「仕事ができる人」の定義になっていくんじゃないでしょうか。

もし、この記事を読んで「最近はAI前提でワークフローはこうなっているよ」という知見がある方がいたら、ぜひSNSでシェアして、コメントで教えてください。みんなでこの大きな変化を乗り越えていけたらいいなと思います。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。そろそろオフィスに戻るので、今日はこの辺で。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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