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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える
2025.11.6
AIを使いこなせない人は、部下もマネジメントできない? – 歩きながら考える vol.162
渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)
今日のテーマは、AIを使うスキルの高・低は、部下マネジメントの高・低と関係するのではないか、と言う話。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日は移動時間を使って、最近読んだ日経新聞の記事から気になったことを話してみようと思います。テーマは「AIとマネジメントの意外な関係」。10月31日に「仕事で使うAI、丸投げはダメ」という記事を読んで、ちょっと思ったことがあったんですよね。歩きながら、ゆるく話してみます。
AIに「丸投げ」、上司の「丸投げ」
記事によると、AIを業務で活用するのが当たり前になった今、その習熟度には大きな差が生まれているそうです。AIをまるで優秀な部下のように使いこなして生産性を飛躍的に向上させている人がいる一方で、「いまいち良いアウトプットが出てこない」「結局、自分でやったほうが早い」と感じている人も少なくないと。
この両者を分けるものは何か?記事では、AIをうまく使いこなせていない人ほど、AIに仕事を丸投げしようとしていると指摘していました。
これ、「上司と部下の関係と全く一緒じゃん」って思うわけです。
一緒に仕事するとストレスが溜まる上司っているじゃないですか。ストレスの原因は色々あると思いますが、結構多いのが、何を期待しているのかも自分の頭の中で漠然としていて、「とりあえずやっといて」「いい感じにしといて」みたいな丸投げをしてくる人。こういう上司の下で働くと、何度も手戻りが発生して、結局すごく時間がかかるんですよね。
最悪なのは、最終段階になって「いや、そうじゃない!」って言い出すパターン。だったら最初からそう言ってくれよ、と思ったりしますね。これ、本当にストレスフルじゃないですか?
一方で、マネジメントが上手い人は違いますね。この手のマネージャーは完成に至るまでのプロセスをしっかり念頭においているんです。そして、仕事の性質によって、プロセスマネジメントの型を使い分けている。
例えば、アウトプットが明確で、タスクに落とし込めば完成するような仕事であれば、「この順番でこれをやって、ここで確認」という具体的な指示を出せます。でも、クリエイティブ系の仕事や企画職みたいに、アウトプットのイメージが固く決まっていない仕事もあるじゃないですか。
こういう探索的な仕事でも、実は「探索的な進め方のプロセスマネジメントの型」みたいなものがあるんですよね。「一旦こっちの方向で」「この段階で方針転換するかどうか確認しよう」「じゃあ方向修正して、また次の段階で見よう」という風に、どのタイミングで何を確認するのかを適切に設計する。これがないと、メンバーは「いい感じに」と言われても動きにくいし、全然違う方向に進んでしまって、最後に「違うじゃない」となる。
AIを使うのが上手い人と下手な人の違いって、そのまま部下に対するマネジメントが上手い人と下手な人の違いとほぼほぼ一緒だと思うんですよね。

プロセス管理はマネジメントの重要要素
ここで重要なのが、プロセス管理という考え方です。
効果的なマネジメントをする人に共通してみられる特徴に、完成に至るまでのプロセスを適切に区切って、どのタイミングで何を確認する必要があるのかを見極める力があります。
定型的な仕事であれば、具体的な手順を示して、チェックポイントを設ける。一方、探索的な仕事では、方向性の確認と修正のサイクルを適切に設計する。どちらにしても、「丸投げ」にはならない。
AIを効果的に使う時も、まさにこれと同じことだと思います。指示出し、確認、フィードバック。このサイクルをどれだけ適切に回せるかが、AIから良いアウトプットを引き出せるかどうかの鍵になると思います。
欲しいアウトプットが明確な場合は、細かいプロンプトを書いてAIに投げればいい。「この資料を参照して、これとこれを比べて、こういう風に出してください」って手順を細かく書けば、AIは確実にその通りやってくれます。
でも、そこまで欲しいアウトプットがわかっていない時もあるじゃないですか。そういう場合は、フェーズを切って細かくアウトプットを出してもらって、それに対して確認とフィードバックをして修正してもらい、その修正されたアウトプットを発射台にして次の指示を出していく。つまり、AIが確実に出来ることと、怪しいアウトプットを出してきそうなことを見極めて、細かくタスクを刻みながら、確認とフィードバックを高頻度で回していく。今のAIの性能を見ると、このプロセス設計こそが重要だと思います。
これ、まさに人間のマネジメントと一緒ですよね。多分、AI使うのが上手い人っていうのは、人間のメンバーに対する指示出しも、ベースの部分はすごくスキルの高い人だと思います。
PM理論で見るAIマネジメントの光と影
ここで思い出したのが、古典的なリーダーシップ理論である「PM理論」です。
PM理論とは、三隅二不二先生が提唱した理論で、リーダーシップは「P機能(Performance:目標達成機能)」と「M機能(Maintenance:集団維持機能)」の2つの能力要素で構成されているという考え方です。
P機能は、目標設定や計画立案、メンバーへの指示などにより目標を達成する能力。M機能は、メンバー間の人間関係を良好に保ち、集団のまとまりを維持する能力。理想のリーダーは、両方が高い「PM型」(大文字のPM)だとされています。
で、今日話しているプロセス管理って、まさにこのP機能の中核なんじゃないかと思うわけです。適切な目標設定、計画立案、進捗管理、そして建設的なフィードバック。これらはすべてP機能に含まれる要素です。
AIとの付き合い方は、P機能(目標達成能力)を磨くのに良い指標になると思うんですよ。どのタイミングで何を確認すべきか、どんなフィードバックが効果的か、どう方向修正すべきか。AIとの対話を通じて、これらのスキルを鍛えることができます。
と同時に、ここに大きな落とし穴がありますね。
人間のマネジメントでは、P機能だけじゃなくてM機能(集団維持能力)も必要なんですよね。感情の動物である人間に対しては、モチベーションをどう保ってもらうか、人間関係をどうケアするかという部分が不可欠です。
ところが、AIとの付き合いでは、M機能はほとんど必要ありません。AIは感情を持たないし、冷たい言い方をしても文句を言わない。むしろ、AIとばかり付き合っていると、Mがどんどん小さくなっていってしまう可能性があるんじゃないかと思うんです。
そうすると、AIに対する仕事のプロセスマネジメントを人間にも同じように適用してしまって、うまくいかない。「やっぱり人間よりもAIだ」という人が量産されてしまうリスクがあるんじゃないでしょうか。
だから、AI時代には、P機能を磨くだけでなく、M機能を別の形で補完していく必要があると思うんです。例えば、人間関係のケアやモチベーション管理に特化したトレーニングを意図的に取り入れるとか。AIでは鍛えられない部分を、どうやって育てていくかを考えないといけない時代になってきたんじゃないかと思います。

まとめ:AIで磨くスキル、AIでは磨けないスキル
というわけで、今日は「AIとマネジメントの意外な関係」について、歩きながら考えてみました。
AIを使いこなせない人と、部下をマネジメントできない人。この両者に共通するのは、プロセス管理の能力不足だと思うんです。完成に至るまでに、どのタイミングで何を確認する必要があるのか。どんなフィードバックをすれば、より良いアウトプットに近づけるのか。この見極めができないから、結局「丸投げ」になってしまう。
日本の組織に多い「丸投げ型マネジメント」の問題が、AIという新しいツールを通じて可視化されてきた。これは自分のP機能を見直し、磨くチャンスでもあると思います。
でも同時に、AIばかりと付き合っていると、M機能が衰えてしまうリスクもある。AIは感情のケアを必要としないからこそ、人間に対する配慮や思いやりのスキルが鈍ってしまうかもしれません。ここはちょっと注意ポイントかもしれません。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。もうすぐ目的地に着くので、今日はこの辺で。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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