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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える
2025.10.9
自分のキャリアは「どのリーグで戦うか」を決めることから始まる – 歩きながら考える vol.144
渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)
今日のテーマは、キャリア構築を考えるときに「どの会社に行くか」と「どの領域に行くか」のどちらを重視するかということについて。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日は寝起きでコーヒーを淹れながら、ちょっと考えたことを話してみたいと思います。抽出に5分ぐらいかかるので、その時間で「仕事とキャリア」について、スポーツのメタファーを使って考えてみようかなと。
最近、自分のキャリアをどう見立てるか、どう作っていくかって、すごく大事だなと思うんですよ。で、それを考える時の1つのメタファーがあって、今日はその話をしたいなと思います。
「リーグがあってこそ、チームがある」
これ、割と有名な話なんですけど、昔からシリコンバレーのテック企業で働く人たちを理解するための比喩として、「プロバスケットリーグの選手みたいなもんだ」って言われることがあるんですよ。
どういうことかっていうと、プロリーグの選手って、個人事業主みたいなもんですよね。1人1人の選手が各々の力量を持っていて、そのポジションとして求められる能力があって、それに対してスキルやアビリティを磨いていく。で、アビリティを上げれば、より良いチームで年俸も上がるし、より給料の高いチームに移動して、そこでチームのパフォーマンスに貢献する。
基本的に、プロフェッショナルであることと、流動性が高いっていう特徴があるわけです。
で、ここからが大事なんですけど、このシリコンバレーの比喩で言われていたのは、さらに「リーグがあってこそ、チームが存在する」っていう話だったんですよ。
子供の時に、例えば「自分はプロサッカー選手になりたいんだ。将来はヨーロッパのリーグに行きたい、プレミアリーグで活躍したい、いっぱいお金を稼ぎたい、世界中のファンに自分のプレーを見せるんだ」って考えるじゃないですか。そもそも、どの競技のどのリーグで自分はやっていくのかっていうのを決めて、その競技をやっていくために、日々の鍛錬、練習っていうのをしていくわけですよね。
プロ選手にとって、所属するチームを選ぶことはもちろん大事です。でも、その前に「どのリーグで戦うのか」を決めないと、そもそも話が始まらない。

リーグは消滅する―そしてそのスピードは加速している
で、なんでリーグを意識することが大事かっていうと、実は選手のキャリアにとって一番怖いのが、そのリーグが消滅することですよね。
だって、もうずっと、例えばサッカーの練習を人生かけてやってきたわけですよね。そしたら、ある日突然、「サッカーは最近は人気が無くなって、このリーグは先細りです」と言われる。これが一番怖いわけです。
で、これは実際に起こりうるんです。しかも、リーグが消滅するスピードが上がってると思うんですよ。
どうしてそのリーグが成立してるかっていうと、その競技に人気があるからなんだけれども、世代がちょっとずつ変わってくる中で、例えば「90分も試合見てらんない。サッカー自体が面白くない」っていう世代が多くなってきちゃうと、それはもうリーグとして成立しないじゃないですか。
で、実際にそういう動きが出てきてるんですよ。たとえばキングスリーグみたいな動き。
キングスリーグは2022年に元FCバルセロナのジェラール・ピケが創設した7人制サッカーリーグなんです。試合時間は前後半合わせて40分。従来のサッカーの90分と比べて、かなり短い。しかも、試合中に人数が増えていくとか、シークレットカードっていう特殊ルールがあって、ゴールが2倍になったり、相手を退場させたりできる。もう完全にエンターテインメント重視で、40分の試合で5点以上入るゲームが多くて、「サッカーの間延びしたつまらない時間がない」ように設計されてる。
フットサルもそうだし、もっと短いフォーマット、エンターテインメント要素を入れたような競技の方が面白いっていう風になっちゃうと、リーグが変わっちゃうんですよ。競技が変わっちゃう。そうすると、その新しい競技に合わせたトレーニングをしてきた人の方が優位に立つっていうことは、全然起こり得るわけなんですよね。
これ、ビジネスの世界でも同じことが起きてます。たとえばGoogleの場合で言えば、ドキュメントやスプレッドシートなどのアプリだとMicrosoftが競合だったかもしれないけど、最近だとAIになって、OpenAIやClaude、Xといった全く違うプレイヤーと競い合っている。つまり、異なるいくつかのリーグに参加しているわけですよね。しかも、テクノロジー領域だと、そのリーグの立ち上がりが劇的なんですよ。数年前にはなかった市場が、突然巨大なリーグになったりする。
技術変化が激しい今、業界そのものが衰退したり、AIに仕事が奪われたり、スキルが陳腐化したりするスピードは、昔よりずっと速くなってます。ある業界が10年前は花形だったのに、今はもう斜陽産業になってる、なんてことはザラにあるじゃないですか。

日本人は「チーム選び」ばかり気にしていないか?
で、ここで日本のことを考えてみると、ちょっと怖いなーと思うわけです。
日本の場合は、メンバーシップ型(vsジョブ型)の意識が伝統的にあったこともあって、どこの会社に属するかはとても大事な話ですよね。「ああ、あそこの会社入ったんだ、凄いねー」とは言われます。
でも、どこの領域でキャリアを打ち立てようとしているか(どのリーグに入るか)は、ちょっと意識が薄くなると思いません?「ああ、あそこの領域でキャリア構築するんだ、凄いねー」とは、ちょっと言われにくいじゃないですか。
リーグの選択っていうのは組織が行うことで、自分はその組織という船に乗っていることが大事、みたいな意識があるんじゃないでしょうか。
これ、実際に組織がリーグを選ぶという要素があるのは事実です。会社が「うちはこの事業領域に注力する」「この市場から撤退する」って決めるわけで、大きな方針は組織が決める。
でも、どのリーグに参加するかが個人のキャリアに大きく影響を及ぼすのに、そのハンドルを他人に渡すのって、怖くないですか?
昔だったら、1つの会社が1つの領域でずっと安定して事業を続けていたから、「この会社に入れば安心」っていうのが成り立ったかもしれない。でも今は、会社の事業領域自体がどんどん変わっていくし、リーグそのものが消滅するスピードも上がってる。
だからこそ、「自分が参戦しているリーグは、この先も成長するのか」っていう視点を持つことが、キャリアを考える上での最初の一歩になるんじゃないかと思います。多くの人は「どのチームに入るか」「どんなスキルを磨くか」は考えるけど、「そもそも自分はどの市場(リーグ)で戦うのか」っていう一段上のレイヤーで考えることって、意外と少ないように思います。
というわけで、今日は「リーグを選ぶ」という視点から、キャリアについて考えてみました。コーヒーも淹れ終わったので、今日はこの辺で。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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