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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える
2025.10.1
AI活用の格差とコンサルビジネスの不思議な関係 – 歩きながら考える vol.138
渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)
今日のテーマは、AI格差に関してコンサルティングビジネスが大きくなりそうな件について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日は朝の準備時間を使って、最近読んだ新聞記事から浮かんできた考えごとを話してみようと思います。9月28日の日経新聞で「G20、AI格差是正へ」という記事を見かけて、国際会議でもAI格差が議題になってるんだなと。でも同時に、もっと身近なところでも、AIを使いこなしている人とそうでない人の差が広がっているような気がして。今日はその辺りを、ゆるく考えてみます。
政府レベルでも議論されるAI格差
日経新聞の記事によると、G20が29日に南アフリカで開催するデジタル経済相会合で、AI格差の是正に向けて合意する見通しだそうです。人材育成や技術協力を想定していて、国際電気通信連合(ITU)などに協力強化を要請する方針とのこと。
ただ、AIモデルの開発レベルで格差を埋めるのは、現実的には厳しいと思うんですよね。というのも、モデル開発って結局、どれだけ資本を投下できるかで決まる部分が大きい。米中の2大国が圧倒的な投資額で先行していて、他の国がその差を埋めるのは容易じゃない。特定の領域に絞るとか、独自のアプローチを模索するしかないのかもしれません。
記事では「デジタル植民地」という表現も使われていました。グローバルサウスのデータが吸い上げられて、その恩恵が元の地域に還元されないという構造への懸念。こういう問題意識が国際会議で共有されるのは非常によくわかります。
でも実は、もっと身近なところにも、割ともったいない格差があるんじゃないか。そんなことを最近、実感する機会がありました。

論文査読で見えてきた活用格差
個人的な話になりますが、僕は研究者として論文の査読を頼まれることがあります。この間博士号を取ったばかりなので、僕の所にまわってくるのは、欧米以外の、研究がそれほど盛んでない地域からの論文が多いですね。人口が多い分、投稿数も意外と多いんでしょうね。
で、査読していて気づくのが、基本的なところでAIを活用している論文とそうでない論文の差が歴然としているということ。AI使ってないのはすぐわかります。
誤字脱字とか、統計記号の表記ミスとか、人間だから間違えるのは当然です。でも今なら、ChatGPTに「この文章、学術論文として問題ないかチェックして」と頼めば、瞬時に指摘してくれる。なのに、明らかにそういう基本的なチェックにAIを使ってない論文が少なくないんです。
これ、投稿者にとってもったいないだけじゃありません。査読する側としても、正直もやもやします。内容を評価したいのに、形式的なミスが多すぎると、そこに気を取られて本質的な議論に集中できない。結果として「この状態から掲載可能なレベルまで持っていくのは大変だな」と判断して、「この論文はちょっと厳しいと思います」という通知になってしまう。
双方にとって不幸な結果です。AIを使えば簡単に防げることなのに。
こういう「使えば便利なのに使わない」という状況、ビジネスの現場でも頻繁に起きているんじゃないでしょうか。競争に勝つためにAIを使うというのも重要かもしれませんが、組織全体の生産性を上げるために、AIによる基礎的な底上げが必要な領域って、実はたくさんあるような気がします。
繰り返される情報格差ビジネス
こういうAI活用の格差を埋めていくことは大事です。ただ、ここで一つ気になることがあります。おそらく、これがまた大きなコンサルティングビジネスになるんだろうな、という予感です。
振り返ってみると、新技術が登場するたびに同じパターンが繰り返されてきました。DXブーム、クラウド化の波、そして今度はAI。「新しい技術が登場」→「使える企業と使えない企業の格差が発生」→「その格差を埋めるお手伝いをします」という、お馴染みの流れです。
情報の非対称性を利用したアービトラージビジネス。それ自体は悪いことではありません。知識の移転にはコストがかかるし、専門家の支援が必要な場面も確かにあります。日本企業の多くが、自前で学ぶより外部の専門家に頼る傾向があるのも、理解できなくはありません。

AIの場合、何かが違う
でも、AIに関してこのパターンが成立するのは、どこか奇妙な感じがするんです。
DXやクラウド化の時は、確かに専門的な知識が必要でした。システムアーキテクチャの設計、セキュリティの確保、移行プロセスの管理。こういった領域では、経験豊富な専門家の支援に価値がありました。
しかしAIは、本質的に「情報格差を埋めるツール」です。わからないことがあれば聞けばいい。「うちの業務をどう改善できる?」と問えば、かなり詳細でかつ具体的な使い方や導入プロセスを提示してくれる。
それなのに「AIの使い方を教えます」というビジネスが成立するとしたら、それはAIの本来の価値を活かしきれていない証拠かもしれません。自分で試して、失敗して、学ぶ。そういう基本的な学習プロセスを、また外注しようとしているのだとしたら。
もちろん、ビジネスとして成立するなら、それを提供する側を責めることはできません。需要があるところに供給が生まれるのは自然なことです。ただ、もしこれが日本で大々的に展開されるとしたら、私たちの「学習する力」ってどうなってるのだろうか、と思ってしまいます。
まとめ
というわけで、今日はG20のAI格差是正のニュースから始まって、身近で感じるAI活用格差、そしてそれをめぐるビジネスの不思議さまで、歩きながら考えてみました。
もしこの話題について何か思うところがあったら、ぜひSNSでシェアしてコメントください。みなさんの職場では、AIとどう向き合っていますか?
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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