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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える

2025.9.24

立ち飲み屋で見えてきた「席がない時代」の生き方 – 歩きながら考える vol.133

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、立ち飲み屋から考える関係流動性と中年男性の生き方について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は仕事帰りに寄った立ち飲み屋から帰る道なんですけど、最近飲み屋で飲んでて思っていることを話してみようと思います。

立ち飲み屋にハマる理由

最近、立ち飲み屋に行くことが多いんですよ。別に経済的な理由だけじゃなくて、まあ確かに安く済むのも魅力なんですけど、いろんな人の話を聞けるのが面白くて。

特に選挙の時期なんかは、政治に関してみんながどう思ってるのか聞きたくて立ち飲み屋に行くんです。別に議論するわけじゃないんですけどね。ただ、隣に立ってる人が何を思ってるのか、どんな期待や不満を持ってるのか、そういう生の声を聞きたくて。

立ち飲み屋って不思議な空間で、座席がないから、自然と人が入れ替わるじゃないですか。30分もいれば、隣の人が3回くらい変わったりして。近所の郵便局のおじさんの次は、スーツ姿のサラリーマン、その次は企業に勤めている女性、みたいな。で、それぞれ違う話を聞けるんですよね。

この間なんか、たまたま隣になった人と政治の話で盛り上がっちゃって、気づいたら2時間も話し込んでて、店主に「そろそろちょっと・・・」って言われてしまいました。すみません、って感じで(笑)。

でも、こうやって立ち飲み屋で過ごしてて、ふと気づいたんです。これって、まさに「関係流動性」の話じゃないかって。

関係流動性って何だろう

関係流動性っていうのは、北海道大学の結城雅樹先生のグループが中心になって研究している概念で、簡単に言うと「どれくらい自由に人間関係を選べるか」っていう社会の特徴のことです。

結城教授らの2018年の研究では、39カ国を比較調査して、関係流動性は欧米やオセアニア、中南米で高く、アジアや中東で低い傾向があることが分かったそうです。

で、面白いのは、これが単なる文化の違いじゃなくて、歴史的な背景があるってことなんですよね。日本みたいに農村社会が長く続いた地域では、村の中で調和を保って生きることが重要だったから、関係が固定的になりやすい。一方、商業都市みたいなところでは、いろんな人と新しい関係を作ることが商売のチャンスにつながるから、関係が流動的になる。

考えてみると、普通の居酒屋と立ち飲み屋の違いって、まさにこの関係流動性の違いなんじゃないかと思うわけです。

居酒屋の座敷に座ったら、基本的に2時間はその席で、同じメンバーと過ごすじゃないですか。席順も重要で、上司の隣に誰が座るかとか、気を使いますよね。これは関係流動性の低い環境。

でも立ち飲み屋だと、誰と話すかは自分で決められる。話が合わなければ、さりげなく場所を移動すればいい。気の合う人がいれば、そこで長く話せばいい。これは関係流動性の高い環境ですね。

「席がある」世代の私たち

ここで思い出したのが、私の世代(40代以上の世代)って、生まれてからずっと「席がある」環境で生きてきたんだなってことです。

小学校を思い出してください。クラスに入ると、自分の席が決まってましたよね。朝から夕方まで、その席に座って、同じクラスメイトと授業を受ける。席替えはあっても、「自分の席がある」という状態は変わらなかった。

中学も高校も同じ。大学に入っても、サークルの飲み会やゼミの打ち上げは、だいたい着席形式の居酒屋でした。考えてみると、あれって小学校からずっと続いてきた「クラスの席がある」という環境の延長だったんじゃないかと思うんです。

会社に入っても同じでした。自分のデスクがあって、部署という固定されたチームがあって、飲み会も着席の居酒屋。「参加します」って言えば、ちゃんと自分の席が用意されてた。

でも最近、その「席」自体がなくなりつつあるんですよね。

中年男性の新しい生き方戦略

会社を見渡してみると、フリーアドレスのオフィスは普通にありますね。毎朝、自分で席を選んで座る。転職も当たり前になって、一つの会社に定年まで「席がある」なんて保証もない。自分の強みを活かして、場所を流動的に変えていくというスタイルが徐々に拡大している。

で、固定席がある環境で長年過ごしてくると、それに適応的なこころの状態になるんだと思うんです。中年になってから、一度固定化されたこころの状態を変えるのは難しいのかもしれないけど、そうは言っても、ここでちょっと考え方を柔軟にして、流動性が高い時代へ適応できるようにした方がいいんじゃないかと思うんです。

「世の中が立ち飲み屋っぽくなってきた」って考えるくらいがちょうどよいかもしれません。

地位や社内の関係で話をするんじゃなくて、趣味の話、美味しいものの話、楽しいことの話、たまには政治の話もいいでしょう。釣りが好きとか、最近読んだ本が面白かったとか、子どもの野球チームの話とか、なんでもいい。

そういう共有の関心を結節点として、人と素早くつながれる能力が重視される時代。これを花開かせることができるかどうかが、もしかしたら中年の人生の分かれ目なのかもしれません。

まとめ

というわけで、今日は立ち飲み屋から見えてきた関係流動性と、中年男性の生き方について考えてみました。

「席がなくなる時代」って不安に感じるかもしれませんが、逆に考えれば、自分で好きな場所を選べる時代でもあるんですよね。小学校から始まった「固定席の人生」から、立ち飲み的な「流動的な人生」へ。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。もうすぐ家に着くので、今日はこの辺で。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

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