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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える
2025.9.11
日本の改革は「自己変革」から始まる話 – 歩きながら考える vol.125
渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)
今日のテーマは日本で改革をしたいなら、「社会を変えるんだ」と言うより「あなたが変わるんだ」と言ったほうが良いんじゃないかと思う件について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日は移動時間を使って、最近読んだ新聞記事から考えたことを話してみようと思います。2025年9月5日の毎日新聞に「リベラル層も取り込む参政党」という記事があって、そこから日本における改革運動の独特なパターンについて、歩きながら考えてみます。
参政党がリベラル層まで取り込んでいるという話
まず、この毎日新聞の記事なんですけど、参政党が2025年7月の参院選で14議席を獲得した背景を分析していて、興味深いことが書いてあったんです。
参政党といえば「日本人ファースト」を掲げる保守的な政党で、安倍元首相の支持者を取り込んだという見方があるんですが、実は立憲民主党やれいわ新選組といったリベラル政党の支持者からも票が流れていたそうです。共同通信の出口調査によると、れいわの支持者で他党に流れた人の中で、参政党を選んだ人が最も多かったとか。
記事では、オーガニック食品へのこだわりや、食料自給率の向上といった政策が、リベラル層にも響いているんじゃないかという分析をしていました。でも、これを読んでて思ったのは、もっと根本的なところで共通点があるんじゃないかということなんです。
オーガニックって、要は「身体に良いもの、害のないものを食べたい」「大切な家族や子どもにも安全なものを提供したい」という、すごく身近で切実な願いですよね。食料自給率の話も、「自分たちで作って自分たちで食べる、人任せにしない」という、生活の主体性を取り戻したいという思いが根底にある。
つまり、「ちゃんとした暮らしをしたい」という、すごく身近で個人的な生活改善の願望を、参政党がうまく取り込んでいるんじゃないかと思ったんです。
記事の中で、党創設者の一人で元共産党員の篠原常一郎氏が、既存政党は議員が決めた政策を支持者が受け入れる「上から降ってくる」構造だけど、参政党は党員から出てくるものが政策になる仕組みを作りたかったと語っています。つまり、党員一人一人、個人から始まる政治改革運動ということなのかなと。

個人から始まる改革といえば、JALの稲盛さん
この「個人から始まる改革」というパターン、どこかで見たことがあるなと思って、思い出したのがJAL再生での稲盛和夫さんのアプローチなんです。
2010年に経営破綻したJALに会長として就任した稲盛さんが最初にやったことは、事業戦略の見直しでも、リストラでもありませんでした。まず徹底的にやったのが「JALフィロソフィー」の浸透でしたよね。
このフィロソフィーの中身がすごく興味深くて、「人間として何が正しいかで判断する」「謙虚にして驕らず、さらに努力を」「感謝の気持ちを持つ」といった、ビジネスというより人としての生き方、心のあり方についての内容が中心なんですよね。
稲盛さんは全社員を対象に、このフィロソフィーの勉強会を何度も何度も開催しました。パイロットから客室乗務員、整備士、事務職まで、全員が参加。そこで議論されたのは「お客様のために何ができるか」の前に、「自分はどういう人間でありたいか」「仕事を通じてどう成長したいか」という、極めて個人的な自己改革の話でした。
結果的に、この一見遠回りに見えるアプローチが、JALの劇的な業績回復につながったわけです。自己改革から始まった意識の変化が、サービスの質の向上、組織文化の変革、そして収益改善へと波及していったんですね。

プライマリーコントロールとセカンダリーコントロール
ここで興味深いのが、心理学者のロスバウムらが1982年に提唱した「プライマリーコントロール」と「セカンダリーコントロール」という概念です。
プライマリーコントロールは、環境を自分の意志で変えることで制御を維持しようとすること。例えば「社会を変革する」「相手に影響を与える」といった、外側・相手側に働きかけるアプローチです。
一方、セカンダリーコントロールは、自分自身を環境に合わせて変えることで制御を維持しようとすること。「自分が環境に合わせる」「相手に合わせる」といった、内側・自分側に働きかけるアプローチです。
欧米の改革運動を見ると、「Change the world」とか「Make America Great Again」みたいに、明らかにプライマリーコントロール的なアプローチが主流に見えますよね。大きなビジョンを掲げて、社会や組織を変えていく。つまり、外部を変えるのが改革だと。
でも、参政党が伸びた現象や、JAL改革が特筆される理由は、セカンダリーコントロール的なアプローチ、つまり「まず自分を変える」ことから始めている点にあるのではないでしょうか?つまり自分を変えるのが改革だと。
「多様性のある社会を」より「今日、私は親切にできただろうか」
実は、既存のリベラル政党が伸び悩んでいるのも、このあたりに原因があるんじゃないかと思うんです。
「多様性を尊重する社会にしましょう」「差別のない社会を作りましょう」という主張は、もちろん大切です。でも、これってすごく欧米的なプライマリーコントロール的アプローチなんですよね。社会を変えることで問題を解決しようとしている。
でも日本人にとっては、「今日一日を振り返って、弱い立場の人やちょっと違う人にも、自分は親切にできただろうか?」という日々の自己点検の方が、心に響くんじゃないでしょうか。
これは企業組織でも同じです。「ダイバーシティ&インクルージョンを推進します」という経営方針より、「今日、同僚の困っていることに気づいて、助けることができただろうか」「後輩の成長のために、自分は何ができただろうか」という日々の振り返りの方が、日本の組織では実効性があるかもしれません。
参政党が「オーガニック」や「丁寧な暮らし」から政治を語るのも、JALが「人として正しく生きる」から経営改革を始めたのも、この日本的な「まず自分の行動から」というアプローチだからこそ、多くの人の共感を得られたんではないかと思うのです。

日本における改革は「自分を変える」ことから
考えてみれば、これって日本の文化的な傾向にすごく合っているんですよね。
日本を始め東アジアには「まず隗より始めよ」という言葉があります。大きなことを成し遂げるには、まず身近なところから、自分から始めなさいという意味です。また、儒教の「修身斉家治国平天下」という考え方も、まず自分を修めることから始まって、段階的に影響範囲を広げていくという発想です。
欧米型の「ミッション・ビジョンを掲げて組織を変革する」というアプローチを日本企業に導入しても、なんだかピンとこない、社員が動かない、ということがよくありますよね。それは、日本人にとって「自分がどう変わればいいのか」が示されないと、具体的な行動に結びつきにくいからかもしれません。
まとめ:日本型改革の可能性
というわけで、今日は参政党の躍進を報じる新聞記事から、日本における改革運動は「自分を変えることで対応する」という文化的傾向に則ったものの方が、実は効果的なんじゃないかという話を考えてみました。
これは決して、欧米型のアプローチが悪いという話じゃありません。ただ、日本には日本の、文化に根ざした改革の形があってもいい。むしろ、セカンダリーコントロール的な「まず自分から」というアプローチこそが、日本では強力な変革の原動力になりうるということです。
政治改革も組織改革も、日本では「自分を変える」ことから始める。一見遠回りに見えるこのアプローチが、実は最も確実な変革への道なのかもしれません。
もし、この記事を読んで「確かに、日本の改革って個人の意識改革から始まること多いな」と思った方がいたら、ぜひSNSでシェアして感想を聞かせてください。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。もうすぐ目的地なので、今日はこの辺で。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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