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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える

2025.9.9

AI時代だからこそ、日本型雇用に意味がある?早期退職1万人時代に考える新しい働き方 – 歩きながら考える vol.123

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマはAI時代の次世代の雇用における当たり前を探る件について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は駅に向かいながら、最近の雇用に関するニュースから考えたことを話してみようと思います。

日経新聞の9月5日の記事を見て、ちょっと立ち止まって考えてしまいました。2025年の早期退職募集が既に1万人を超えて、前年の年間実績を早くも上回ったそうです。製造業を中心に管理職年代の大規模削減が目立つとのこと。トランプ関税や人工知能(AI)時代を見据えた構造改革の動きが、日本でも本格化してきたということなのかもしれません。

早期退職の対象となる中高年

日本の大企業で早期退職といえば、やっぱり中高年が対象の中心になります。理由はシンプルで、年功序列の賃金制度だと年齢が高い人ほど給与が高いから。コスト削減を考えると、どうしても人件費が高い層から手をつけることになりますよね。

一方、ジョブ型雇用の場合はもっと単純な仕組みです。事業内容を縮小したり、事業構造を変える時、それに紐づいたポジションそのものがクローズされる。そうなると、そのポジションにいた人は年齢に関係なくリストラ対象になる。ポジションと人がセットになっているから、ある意味わかりやすいといえばわかりやすい。

事業環境の変化が激しくて、イノベーションに向けて事業体を大きくフレキシブルに変える必要がある今の時代、雇用とポジションが紐づいているジョブ型の方が、透明性が高く公平っちゃ公平なのかもしれません。

ポジションに応募して採用されて、ポジションがクローズされたので会社を去る。いきなり失職させられる方はたまったもんじゃありませんが、失職の理由はポジションが無くなったことであって、自分の人格や仕事ぶりに対する否定的な評価というわけではないので、そういう意味では受け入れやすいかもしれない。

でも、ここでAI時代になって、話がちょっと変わってきたように思うんです。

AIが奪う「初職」という学びの場

何が変わったかというと、AIが主に「初職」を奪い始めているということです。

コンサルティング会社を例に考えてみましょう。新入社員がアソシエイトとして最初にやるリサーチワーク、データ分析、資料作成。こういう仕事の多くをAIが代替できるようになりました。その結果、ジョブ型だとそういうポジションの数自体が少なくなってしまう可能性があります。短期的には、それによって少ない人数で同じ事業を回せるので、生産性が上がるかもしれません。

でも、ちょっと待ってください。今のミドルやシニアコンサルタントだって、キャリアの最初はそういう下積みから始まったはずです。リサーチを通じて業界を学び、資料作成を通じて論理的思考を身につけ、そうやって一人前になっていった。

ジョブ型で「このポジションはAIで代替可能だから不要」となったら、若手が経験を積む場所自体がなくなってしまう。短期的にはコスト削減になっても、中長期的には人材が育たず、枯渇してしまうんじゃないでしょうか。

実際、欧米ではAIの進展とともに若年失業率の上昇が懸念されています。エントリーレベルのポジションがなくなれば、若者がキャリアをスタートさせる場所がない。

そう考えると、日本のメンバーシップ型雇用が持つ「人を育てる」という機能が、AI時代にむしろ価値を持つ可能性があるんじゃないでしょうか。近い将来、もしかしたら日本企業は意外に海外の人から人気になるかもしれません。

「AIと共に学ぶ」期間としてのメンバーシップ型

メンバーシップ型なら、最初の2-3年を「AIを活用しながら経験を積む教育期間」として位置づけられます。

確かに、その期間の若手のアウトプットは少ないかもしれない。でも、それは長期的な育成の中での最初にそういう時期があるという話であって、中長期では力をつけて仕事でパフォーマンスを発揮してもらうということが暗黙の前提になっているモデルです。

これって、AI時代の人材育成として、実はすごく合理的なんじゃないでしょうか。確かに、初職の簡単な仕事は既にAIが代替できるかもしれないけれども、それを使いこなしながら力をつけていく時期というものが最初に設定されていて、ポテンシャルがある若手であれば仕事を得て生活を支えながらキャリアを積んでいくことができるということです。

ただし、この制度、つまりメンバーシップ型をAI時代でしかもグローバルに機能させるためには、条件というものがあります。それは、少なくとも中期で働き続けてもらう必要があるということです。

なぜかというと、今でも日本の企業でよく見られるのは、海外から来た人が日本の企業に職を得るものの、3年ぐらい経つとみんな辞めてしまうという状況があります。それは、日本の企業で経験を積んだら、それに基づいてより条件のいい他の外資系の企業にステップアップしていくというのが合理的だからです。

例えば、外国の企業でなかなか若者が就職できない時に、日本企業は受け入れてくれると。最初の経験だけ積んで、その後は外資でいくというのであれば、何のためにコストをかけてトレーニングをしているのかよくわからなくなってしまいます。

だから、中期で働き続けることが経済的に合理的であるようなインセンティブ設計をする必要があります。すなわち、年功序列的に給与が上がっていくことが見えているような設定にしておく。5年経ったら例えば給与がこれだけ上がりますよ、みたいなことが見えている設計にする必要があるわけです。

でも、これを従来型の終身雇用・年功序列にすると、今起きているような問題が出てきます。中高年で、なかなかベストパフォーマンスで活躍できるわけではないんだけれども給料だけ高いという人が出てきてしまう。

だから、ここを解決する必要があるんです。

「15年限定」年功序列という現実解

例えば、「15年限定の年功序列」という現実解はどうでしょう。

20代前半で入社して、30代半ばから40歳くらいまでの10-15年間は年功序列で給料が上がる。この期間で、企業は教育投資を回収し、従業員はスキルを身につける。そこから先は、賃金カーブがフラットになるか、次のキャリアを検討するのが当たり前になる。

こうすれば、若手には成長のインセンティブがあるし、海外人材にも「日本企業で中期的に働く価値」が見えるし、企業も中高年の高コスト問題を回避できる。終身雇用でも完全なジョブ型でもない、AI時代に適応した雇用モデルになるんじゃないでしょうか。

でも、40歳以降の人たちはどこに行くのか。ここで重要になってくるのが、仕事の「意味」と「社会的価値」の再定義です。

ブルシット・ジョブからエッセンシャルワークへの大転換

人類学者のデヴィッド・グレーバーは「ブルシット・ジョブ」という概念を提唱しました。「クソどうでもいい仕事」、つまり社会的に無意味だけど存在している仕事のことです。

日本の大企業って、「仕事のための仕事」を作りがちなところがありますね。みんな必死になって長時間労働して作ってるけど、「これ、本当に意味あるプロセスなんだろうか?」と常々思ってしまう書類作成、形式的な管理業務、意味のない会議。酷い場合は、現在の年次計画を修正しながら次年度の年次計画を作ってたりする。一体、いつ実行するのよ、と。給料はもらえるけど、本質的な価値を生み出さない。

一方で、介護、保育、医療、物流などのエッセンシャルワークは慢性的な人手不足。社会にとって本当に必要不可欠な仕事なのに、賃金が低いという矛盾があります。

だったら、ホワイトカラーのブルシット・ジョブから、エッセンシャルワークへ、人材移動が、無理なくスムーズに進むように社会的なインセンティブ設計をしていく。これが今日本で必要なことなのではないでしょうか。

テクノロジーで変える「人にしかできない仕事」の価値

ここで重要になるのが、テクノロジーを活用した生産性の向上なんじゃないかと思います。

介護を例に考えてみましょう。感情的なケア、コミュニケーション、微妙な状況判断は人間じゃないとできません。でも、あらゆることをすべて人力でやっていると、生産性が上がりません。生産性が上がらなければ、賃金を上げる余地が生まれません。

例えば、移動の補助、身体を支える作業、物品の運搬などは、ロボットやパワースーツで支援するなどして、一人の人が身体に無理をかけずに、本当に大切な人間にしか出来ないピンポイントのケアの部分のしごとを受け持つ。機械化できる部分は積極的に機械化して、人間は「人間にしかできない仕事」に集中する。

そうすれば、一人あたりの生産性が上がり、結果として賃金を上げる原資が生まれます。「本当はやりがいがある仕事なのに給料が安い」という問題を解決しないと、やっぱり人は集まらない。これをテクノロジーで解決する可能性を考える。

エッセンシャルワークの労働力不足は、これまで移民を受け入れてなんとかしようとしてきましたが、どうやら日本でもこの方向性は難しくなりそうです。そんな難しい時代だからこそ、世界に先駆けて「テクノロジー支援型エッセンシャルワーク」のモデルを作れるチャンスじゃないでしょうか。

まとめ:AI時代の新しい労働モデルを描く

というわけで、今日は早期退職1万人のニュースから始まって、AI時代の雇用のあり方まで、歩きながら考えてみました。

AIがエントリーレベルの仕事を奪う時代だからこそ、メンバーシップ型の「教育投資」機能が重要になる。ただし、それは15年程度の期間限定で、中期的なインセンティブ設計をしっかりして、その後はブルシット・ジョブからテクノロジー支援型のエッセンシャルワークへの移動を促進する。

これが、日本の強みを活かしたAI時代の新しい労働モデルになるんじゃないかと思うんです。そんな簡単な話じゃないよ、という社会課題であることは重々承知ですが、この問題を解決しないと社会の持続可能性がおかしなことになりそうです。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。駅に着いたので、今日はこの辺で。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

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