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今日のテーマは、日本で働く人が家庭を持って家族を作れるようにしないと、次世代の働き手が再生産されないことに関して。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日は移動時間を使って、8月5日の日経新聞の記事から浮かんだことを話してみようと思います。「企業『カネ余り』25兆円、11年ぶり高水準」という記事を見て、投資先をどうするか、ちょっと思ったことがあるんです。歩きながら、これについて話してみたいと思います。
海外で儲けて海外に投資する、現代の日本企業
まず最初に、現状の日本企業って「海外で儲けて海外に投資する」というのが一般的になってきてるんですよね。記事によると、2024年度の企業の資金余剰は25.6兆円で、対外直接投資は22.2兆円と過去最高。つまり、海外投資は大きくするものの、国内では余剰状態になっています。理由はシンプルに、国内市場は大きく成長が見込めないからだと思います。日本の人口が年間100万人規模で減っていく中で、人口が増えている海外市場に投資する方が儲かる。
これ、市場の大きさを考えると合理的な判断ですよね。でも、この状態で本当にいいのかなって思うことがあります。長期的に考えたときに、企業の投資行動ってこれで本当に合理的なのか、と。その懸念の原因というのは、人材の問題があるからなんです。

国内労働市場の再生産が難しくなっている現実
実際に何が起きているかっていうと、国内の労働市場の再生産が難しくなってきているんですよ。日本の賃金って、この20年以上ずっと伸びてこなかった。多くの働き手が、次世代を育て、家族を作り、子どもを育てるのに十分な水準ではなくなってしまっているケースがある。
その中の極端な例として、早稲田大学の橋本健二先生が指摘する「アンダークラス」という層があります。約930万人、平均年収はわずか200万円程度。男性の3分の2が未婚という状況。橋本先生は『新・日本の階級社会』で、この賃金水準を「次世代を生み育てるには遠く及ばず、自分の労働力の再生産すら、困難な水準」だと指摘しています。
共有地の悲劇としての労働市場
これってまさに、経済学でいう「共有地の悲劇」の話じゃないですか。共有地の悲劇っていうのは、みんなで使える牧草地があったとして、それぞれの農家が自分の利益だけを考えて羊を増やしていったら、最終的に牧草地が荒れ果てて、みんなが損をしちゃうっていう話です。
今の日本の労働市場でも同じことが起きているのではないでしょうか。短期的に利益を上げるために人件費を抑制することが、国内の働き手の再生産にはうまく機能していなくて、長期的に見ると日本企業にとってもマイナスになる。
多くの日本企業にとって、日本国内の優秀な人材を優先的に確保することで事業の優位性や継続性を担保してきたというのは否定できないと思います。だから、国内で優秀な働き手がいなくなるということは、全ての日本企業にとって決してプラスには働かない。

長期的ビジョンと制度設計の必要性
本当は個別企業、特に大手企業っていうのは、昔の松下幸之助さんみたいに、より長期的なビジョンに基づいて考えるべきなんじゃないかと思います。パナソニック(当時の松下電器)には「250年計画」っていうのがあったんですよ。25年を1節として、10節で250年。今働いていない将来の従業員のことも想像しながら、社会とどう関わっていくかを考えていた。
フォード社のヘンリー・フォードも、労働者の日給を倍増させた。労働者自身がT型フォードを買えるようにして、働き手が消費者にもなり、家庭を築いて次世代を育てるという好循環を作ろうとしたんです。
パソナが淡路島に本社機能を移転して、社内にインターナショナルスクールなどの教育施設も作ったような例もあります。従業員が働きながら、子どもを質の高い教育環境で育てられる仕組み。こういう取り組みも参考になるかもしれません。
ただ、こういう経営哲学とか経営者の考え方にアプローチするというのは難しい部分もある。だから、政府の制度設計というものが大事になってくるんじゃないでしょうか。最低賃金の引き上げや、非正規雇用でも生活が安定するような制度設計。個々の企業の善意に期待するだけじゃ、この「共有地の悲劇」は解決しない。
記事の最後には、トランプ政権への対米投資約束(80兆円)の話も出てきました。海外への投資はさらに加速しそうです。でも、その前に、日本で働く人たちが家族を持って、次の世代を育てられる環境を作ることも、同じくらい重要な「投資」なんじゃないでしょうか。
まとめ
というわけで、今日は「企業の資金余剰25兆円」から始まって、投資先として「働き手の再生産」という視点を考えてみました。個々の企業が短期的利益を追求すると、回り回って長期的に損をするっていう矛盾。これを解決するには、企業の長期的視点と政府の制度設計、両方が必要なんじゃないかと思います。
もしこの記事を読んで「うちの会社でもこんなことやってるよ」とか「こういう解決策があるんじゃない?」って思った方がいたら、ぜひSNSでシェアして、コメントで教えてください。みんなで知恵を出し合って、この問題を考えていけたらいいなと思います。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。もうすぐ目的地に着くので、今日はこの辺で。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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