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神戸大学三品先生の「経営戦略を問い直す」を読んでの読書メモです。5章立ての新書ですが、章の名前が「1.誤診」「2.核心」「3.所在」「4.人材」「5.修練」と漢字2文字。渋い本でした。
戦略とは何か?
仮に、あなたの会社の事業部長が
「我々の戦略は、競争環境が激化するグローバル市場においてナンバーワンポジションを確立することだ」
と経営会議でプレゼンしたとしたらどう感じるか。「なるほどそうなんだ」と思うのか「なんか変だな?」と思うのか。
「特になんとも思わない」という人が多いのかもしれませんが、一方で違和感を感じる人もいると思います。
「戦略」って何なんだ?という話ですね。「ナンバーワンポジションを確立する」っていうのは戦略ではなくて目標と呼ぶのではないか?と。
個人的には、「そもそもどの市場を狙うのか?」とか「その市場を狙うとしたら、市場をどのように捉えるのか?」とか「その捉えた市場にどのようにアプローチするのか?」とか「そのために、どのような組織体系を組むのか?」とか。そういう問いに対する答えの総体のことを戦略と呼ぶのではないかと思うわけです。
「戦略」という言葉は概念用語なので、指し示す対象が何なのかをつかみにくく、その為多様な解釈で理解されているというのが現状だと思います。
戦略とは「立地」「店の構え」「均整」
三品先生は、戦略とは、
変わりにくい長期利益、それを10年単位でいかにシフトアップさせていくか、それが本当の戦略だと私は考えています
と述べています。そのうえで、戦略で検討すべきは
「立地」「店の構え」「均整」
の3つに凝結すると指摘しています。
これは分かりやすい。小売店のメタファーで捉えられます。
小売店を出店する場合、「立地」を間違えると集客に苦労します。どこに店を出すのかはとても大切。そして、良い立地でも「店の構え」をどう作るかで、どのようなお客さんが来るかは変わるし売上も変わりそうです。さらに、「均整」の取れた店舗運営の仕組みがないと、例えばお客さんは沢山来ているけど商品供給が間に合わないといった事態になりそうです。致命的なボトルネックを作らないようにするために均整を考えることは大切。
アメリカの言語学者ジョージ・レイコフは人間はメタファーを通じて世界を認知している、と述べました。「戦略」とは掴みにくい概念であるけれど、小売店のメタファーを使うと、「立地」「店の構え」「均整」という3つの側面は記憶に残りやすく、それをもって戦略の本質的な思考・議論をすることが出来そうです。
「計画」が不要になっても「戦略」は不要にはならない
昨今、「計画」づくりに時間をかけるのは効果的ではないのではないか?という議論が出てきています。特に不確実性の高い業界では、計画を作っても途中変更の可能性が高いので、時間をかけて計画を作るよりは、小さく試して都度やり方を変えていく方が効果的だろうという考えです。
この考え自体は一理あります。個人的にも、年がら年中計画づくりをしている現場に遭遇したこともありました。当年の改定予算計画を作りながら、翌年の新予算計画を作る、というもはや何をやっているのかわけがわからない状態で、「これはPDCAじゃなくてPPPPだな」と思ったものでした。
一方で、例えば自分の事業の「立地」「店の構え」「均整」を考えずに、兎に角実行するというのはとても危険だと思います。一度出店してしまったら立地を変えるのは大変だし、店の作り直しをするのも大変です。
よって、不必要に計画作りに時間をかけることは効果的ではないのですが、同時に「立地」「店の構え」「均整」という戦略を考える必要性は無くならないということなのだと思います。
三品先生は、戦略作りはトップの責任であると言います。確かに現場を取り仕切ることで認知エネルギーを総動員させているミドル~シニアマネジメントに全体像を踏まえた上で「立地」「店の構え」「均整」を考えろというのは認知的負担が重すぎるのかもしれない。
組織デザインとしては、意思決定と実行を垂直分業すると、モチベーション問題が発生しやすいようにも感じますが、戦略を「立地」「店の構え」「均整」として捉えると、大きな戦略を考える際の役割分担は考えざるを得ないのかな、とも思います。
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立し、現在は「人と組織が変わること」に焦点を絞ったコンサルティングに取り組んでいる。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。 株式会社かえる 代表取締役。
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