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コンピテンシーと効果的なOJT

2019.4.20

OJTでは「ものの見方」を変える支援をする

渡邉 寧 | 株式会社かえる 代表取締役

4月は嫌な時期

4月というのは私にとっては嫌な時期でして。新入社員の記憶を思い出すわけです。私はこれまでキャリアの中で2社の会社員を経験しましたが、両社とも入社時期が4月でした。そしてどちらの会社でも立ち上がりに苦労しました。

1社目の会社では、入社してから1年くらいは自分が何をしているのかよく分からず、毎日転職することを考えてました。2社目の会社は入社してから1年くらいは仕事のアウトプットがイケてなくてマネージャーに詰められまくり、このまま行くと死ぬんじゃないかと思ってました。

特に2社目の会社は、30歳過ぎてからの転職で、それなりに社会人経験を積んでいたにも関わらず、「会議ではこういう発言をすると良い」とか「顧客にはこういう対応をすると良い」と自分で考えて行動すると、「ちょっ・・・・渡辺さん、それ違います」と言われる。

違うと言われても、自分にはそうとしか思えないので途方に暮れる。自分から行動すると「あーーーーー・・・・」と言われ、やっちまった感満載の反応が返ってくるので、自信を持って行動することが出来ず、悩みに悩んだ記憶があります。

結局はパターン認識の話

どうすれば良いのかわからず悩んでいた30代前半の2社目の会社で、当時のパートナー(マネジメント)に言われたのが「大丈夫だよ。たかだかパターン認識の問題だから」ということ。

パターン認識というのは、例えば、クライアントの課題を見たときに、「ああ、これはあのパータンの話か」と思えるということです。パターン認識が出来ると、瞬時にそのパターンに関連した情報が頭に浮かんで、「このパターンと言うことは、もしかしたら○○の辺りが××になっているかもしれない。また△△は□□になっているかもしれない」と、調べたり検討したりする重要ポイントが自動的に頭に浮かんできます。

要は、認識の自動化の問題で、ここが自動化されていると認知エネルギーを別の所に回すことが出来るので、より複雑でより大きな問題を考えることが出来るようになる。

これ、ニューロンの話だと思うのです。おそらく頭の中ではニューロン結合が起こっていて、ある神経細胞が興奮すると、自動的に他の神経細胞も興奮するという反応が自動化されているのだと思います。ニューロン結合が進むとパターン認識の自動化が出来るようになり、楽になる。

つまり、ある領域に関してパターン認識をするようになった人とそうでない人では、脳の構造が違うので見えている世界が違うのだと思います。

最初から自転車に乗れる人はほとんど居ないと思いますが、何度も何度も練習していると多くの人が難なく自転車に乗れるようになります。それと一緒で、ある領域において何度も何度も経験を積んでいくと、ニューロン結合が進んでいくので誰しもが一定のパターン認識をするようになる。そして、一度あるパターン認識をするようになると、パターン認識の組み合わせで世界を見るようになるので、ものの見え方が変わる。

そうなるまでは、初学者は社内の経験者とは見えている世界が違う。だから「渡辺さん、それ違います」と言われる。そういう話だからめげずに頑張ってね、というのが当時のパートナーが言っていた話だと思います。

ものの見方を支援する事が人材育成では必要

企業の中で人が伸び悩んでいる時、その原因の1つはこの「ものの見え方」問題だと思います。知覚する情報が適切でなければ、それに対する判断や行動が適切になるわけがない。

そして、悲劇的なのが「自転車に乗れる人は、自転車に乗れない人がなぜ自転車に乗れないのかが分からない」ということ。OJTなどで先輩が後輩に向かって「なんで出来ないの?」「なんでわかんないの?」と詰めていることがありますが、この詰めは意味がない。見えている世界が違うのだから「なんで?」と言われても説明しようがありません。詰められても「スミマセン・・・」としか言いようがない。

初学者を支援する際に行うべきは「ものの見方」を教えること、すなわち知覚の支援だと思います。初学者にとっては、見慣れない領域の出来事は意味のある一連の流れとしては知覚されません。例えば、組織の中での人の行為は意図を持った行為の連鎖で出来ているわけだけれど、初学者にはその意図は見えないので、ランダムなバラバラの動きにしか見えない。その状態で適切に行動しろと言われても、それは無茶な話です。

逆に、バラバラの現象を一つのまとまりのある流れとして認識できるようになると、ここにパターン認識が確立します。一度パターン認識が確立すれば、どう反応するのが適切かということに注意を払うことが出来るようになる。そして、少しずつ認識できる領域が広がると、適切に反応出来る領域が広がり、熟達者になっていきます。

OJTでは新人の「成果(アウトプット)」よりも「ものの見方(プロセス)」に着目を

OJTなどの人材育成の局面で、こうした「ものの見方」(=知覚)をどう支援するかは、その組織の組織能力の向上に直結する問題だと感じます。

新人が即戦力になってくれることは、それはとても理想的ではあります。しかし、即戦力となって優れた成果(アウトプット)を出すためには、適切な知覚プロセスを持ち、正しく状況を認識することが必要です。

成果に着目して「どうして出来ないのか?」と詰めるのは、着目点が違うのではないかと私は思っています。そうではなくて、出来ない背景には「ものの見方」の熟達度がある可能性があるのだから、

・新人の目から見ると状況はどう見えているのか?
・どの部分がパターン認識されていて、どの部分はされていないのか?
・そうした知覚の仕方をどのように獲得しているのか?
・適切な知覚支援をするにはどのようなサポートが必要なのか?

ということを、経験者側が良く観察・熟慮し、必要なサポートをしていくことが必要だと感じます。

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立し、現在は「人と組織が変わること」に焦点を絞ったコンサルティングに取り組んでいる。プライベートではアシュタンガヨガに取り組み、ヨガインストラクターでもある。 株式会社かえる 代表取締役

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