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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ女性性・男性性(MAS)歩きながら考える
2026.3.19 NEW
トランプ・アメリカの「男性性」はいつまで続くのか? – 歩きながら考える vol.251
渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)
今日のテーマは、世界の価値観が「男性性」に振れている今、この先どうなるのかという話。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日もオフィスに向かいながら、最近ずっと気になっていることを話してみようと思います。テーマは男性性と女性性。トランプ政権のアメリカを見ていると、なんでこんなに「力こそ正義」な感じになっちゃったんだろう? っていう疑問が湧いてくるんですよね。で、その先に何が来るのかっていうことを、歩きながら考えてみます。
今のアメリカ、男性性が際立っている
男性性と女性性っていうのは、オランダの社会心理学者・経営学者ヘールト・ホフステードの文化次元の1つです。成功すること、達成すること、強いことに価値を置くのが男性性。一方、他者へのケア、調和のとれた社会、包摂を重視するのが女性性の価値観です。
で、今のトランプ政権を見ると、アメリカの強さを強調し、力でものごとを動かすことに躊躇がない。参考までに、ホフステードの指標ではアメリカの男性性スコアは62で、もともと男性性スコアが高い国ではあるんです。過去にも力の論理で動く政権はありました。でも、ここまで強烈に「力でねじ伏せる」姿勢が前面に出てくるのは、ここ20年くらいの中ではやっぱり際立っていると思うんですよね。
じゃあ、なぜ今このタイミングで、こんなに男性性が全開の政権が生まれたのか。大統領個人の資質の話じゃなくて、もうちょっと構造的な話として考えてみたいんです。

「強さ」を求める自然な感覚
男性性・女性性の価値観の起源って何なのかという問いは、実は非常に難しくて、ホフステード自身も明確な説明が難しいという趣旨の言及をしています。ただ、ヒントになる話はあります。
ホフステードがもともとIBMの調査データを因子分析した際、この次元は「自我的(EGO)」な仕事価値観と「社会的(SOCIAL)」な仕事価値観の対比として現れました。収入、承認、キャリアアップ、挑戦——こういう自分の達成・成功のための項目が一方にまとまり、対極に人間関係や生活の質のための項目が来た。つまり、もともとこの次元は「自分の達成・成功」と「人間関係・生活の質」の間の対比関係と考えることが出来ます。
これを踏まえると、1つの仮説が浮かんできます。つまり、男性性と女性性は、経済状況によって変化する部分があるのではないか、ということ。
どういうことか。
今の状況よりもっと豊かに、もっと快適な状況になりたい——これは人間にとって極めて純粋な欲求だと思うんですよ。出世したい、もっとお金を稼ぎたい、社会的な評価を受けたい。特に貧しい状況にあったら、なおさらそう思うのは自然ですよね。そもそも人に良くし人間関係を築くにも資源が必要なんじゃないかとも思う。
政治学者のロナルド・イングルハートはこのメカニズムを欠乏仮説として理論化しています。人は足りないものに最も高い優先順位を置く。経済的・身体的安全が脅かされていれば、競争し、勝ち、資源を確保することが最優先になる。
で、この話に乗っかると、逆も言えるわけです。豊かになって余裕が出てくると、他者に対する配慮をする余裕も出てくる。社会全体への目くばせもできるようになる。欠乏しているときは自分と家族を守るので精一杯で、見ず知らずの他人に気を遣う余裕はないのが自然。でも、豊かになってくると分けられるパイが増えるから、見ず知らずの他者にも、少数派にも配慮できる。ホフステードの因子分析で「自分の達成・成功」↔「人間関係・生活の質」の対比が出てきたのも、こういう話が関係しているのかなと思うんです。
さて、ここでアメリカの話に戻ります。スタンフォード大学のRaj Chettyらの研究によると、アメリカでは1940年代生まれの90%が親より高い収入を得ていたのに、1980年代生まれではその割合が50%にまで低下しているのだそうです。親世代を超えられるかどうかがコイントスと同じ確率。製造業の衰退、実質賃金の停滞、「親世代のような暮らし」が手に届かない感覚。
今の社会の競争環境では豊かになれない。でも、生活の厳しさから抜け出して、より豊かに、より快適な暮らしがしたい——これは男性性の価値観と整合する。だったら、そういう自分たちの欲求を体現し、ガラッと状況を変えてくれるリーダーに任せたい。トランプ政権の支持の背景には、こういう構造があるんじゃないかと思うわけです。

Z世代が女性性に変える?——話はそう単純じゃない
じゃあ、今後はどうなるのか。
よく言われるのは、Z世代やアルファ世代は女性性的な価値観を持っているから、あと10年、20年すればこの世代が社会の中核になって、女性性への揺り戻しが起こるんじゃないかっていう見立てです。確かに、勝つことだけが人生の目的じゃない、家族や友人との調和を大事にしたい、環境問題への関心が高い、マイノリティの権利への配慮——こういう価値観は、日本を見ていても感じるところです。
でも、これ、ちょっと単純すぎるかもしれない。いろいろな調査を見ると、若い世代がすべて同じような女性性の価値観を持っているわけではないようなんですよね。
心理学者のJean Twengeが、アメリカの高校生を対象に毎年約5万人規模で実施されている大規模調査「Monitoring the Future」のデータを分析しています。この調査は1975年から継続している学校ベースの確率標本調査で、Twengeの分析が示したのは、Z世代のイデオロギー、特にリベラルの自認に関して女性の方が男性よりも強く持つ度合いが拡大しているということ。また、大学に進学しない若い男性の保守化傾向も指摘されています。
つまり、女性性の価値観への動きは、主に若い女性の価値観の変化によってドライブされている。一方で、若い男性は変わらないか、もしかしたら逆に保守化している可能性がある。性差のデータ分析に関しては、データセットによって若干結論が違うところもありますが、Monitoring the FutureやGallupのデータなど、こうした性差を示す大規模データセットが複数存在しているのは確かです。
じゃあ、若い女性の価値観はなぜ変わったのか。これもちょっと難しくて、正確なことはまだ言い切れないんですが、いくつか考えられることはあります。
1つは、女性の社会進出と経済的自立。アメリカでは現在、25〜34歳では女性の47%が学士号を持つのに対し男性は37%なんだそうです。教育を受け、経済的に自立する女性が増えたことで、自分の生存以外のこと——社会全体のこと——に目を向ける余裕が生まれた、ということはあるかもしれません。
もう1つは、女性はもともと社会の中でマイノリティの位置づけだったということ。自分自身がマイノリティとしての経験を持っている以上、マイノリティの権利拡張の立場を取るのは自然なことだと思います。中絶の権利、LGBTQ+の権利、環境問題——これらの社会的・文化的な争点で若い女性が動いているのは、こういう背景があるのかもしれません。
経済的安全が鍵を握っている
ここまで考えてくると、男性性・女性性の価値観の揺れの背後にあるメカニズムが見えてきます。つまり、各世代や性別などのサブグループで見たときの経済格差や将来に対する希望感の有無。
世代の分析から見えることは、女性性への揺り戻しが本当に来るかどうかは、Z世代以下の人たち(特に男性)が経済的に安定し将来に希望を持てるかどうかにかかっているということではないかと思います。
もちろん、男性性は「悪い価値観」ではありません。ただ、社会がピラミッド型で、勝ち続けられる人がほんの一握りになってしまう(例えば、会社における出世競争を考えてください)のであれば、一握りの成功者の背後には膨大な数の「うまくいかなかった感覚」を抱える人が出ることになります。これは社会不安につながる。是正するべきだと思います。
というわけで、今日は「なぜ今のアメリカはこんなに男性性なのか」から始まって、Z世代の中で起きている分極化まで、歩きながら考えてみました。世界がどっちに向かうのか、引き続き考えていきたいテーマです。
この記事が少しでも面白い、役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしていただけると励みになります。最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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