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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える

2025.9.30

高齢者医療費と幸福度のU字カーブ:なぜ「奪い合い」から始めてはいけないのか- 歩きながら考える vol.137

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、現役世代の社会保険料負担が非常に重い件について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は駅から家に向かいながら、最近読んだ日経新聞の記事から考えたことを話してみようと思います。9月25日の記事で、健康保険組合の高齢者医療制度への拠出金が過去最大の3兆8591億円になったという話がありました。前年から5.7%増えて、保険料率も上がったそうです。しかも、健保組合の経常支出のうち、高齢者医療向けの拠出金が4割も占めているとのこと。給与明細を見るたびに、健康保険料の引かれ具合に驚いている人も多いんじゃないでしょうか。

「得してる奴から奪え」という考えにはまらないために

記事では、この世代間負担の現役世代に対する厳しさにフォーカスが当たっていて、構造改革は待ったなしという論調でした。世代間の不公平さというところに焦点があるんですよね。

実際、先日の参議院選挙でも、日本維新の会は高齢者の医療費窓口負担を上げることを明確に主張していましたし、チームみらいも似たような話をしていました。

こういう議論になるのは、気持ちとしてはすごく分かります。自分たちが納めた保険料が、本来なら自分たちのために使えるはずなのに、その多くが上の世代のために使われている。この不平等感というのは、直感的に納得しがたいものがありますよね。感覚として、不公平さに対する苛立ちを感じやすい話題なんだと思います。

実は、幸福度もU字カーブ

別の観点からも世代間の不平等を見てみましょう。

実は幸福度にも世代間ギャップがあって、これは「U字カーブ」と呼ばれています。20代はそこそこ高く、30、40、50代でぐっと谷底に落ちて、60、70、80代でまた上がっていく。これ、何度調査しても同じような形が出てくるんですよ。

この幸福度のU字カーブを見ると、「ほら、高齢者は幸せじゃないか、恵まれているじゃないか」と考えたくなります。だから「高齢者はもう少し負担してもらって、苦しい現役世代に回してほしい」という発想になるのも、自然な思考の流れかもしれません。

でも、ここで考えてみてほしいんです。なぜ「恵まれている人から奪って、苦しい人に回す」という発想になってしまうのか。恵まれている人はそのままでいて、幸福な人は幸福なままでいい。そうじゃないでしょうか。

問題は30〜50代の谷底が深すぎることなんです。だったら、高齢者の幸福度はそのままキープで、現役世代の谷底を底上げしていく。そういう考え方をするべきじゃないでしょうか。

高齢者の幸福は「未来への希望」として残すべき理由

ここで大事なのは、物事を考える順番です。高齢者の幸福を削って現役世代に回すという発想は、一見合理的に見えますが、長期的に見るとどうでしょうか。

年を取っても幸せになれない社会になってしまったら、現役世代はどう感じるでしょう。「老後も結局苦しいのか」と思えば、ますます将来不安が増して、保守的になってしまう。そうなれば、子どもを持つことにも躊躇してしまい、少子化がさらに進む悪循環に陥ります。

だからこそ、高齢者層の高い幸福度は、そのまま維持すべきなんです。それは「年を取れば幸せな人生が待っている」という希望になるから。安定した老後があるから、今は頑張ろうという気持ちになれる。そういうメッセージが信じられる社会でなければならないと思うんです。

一方で、特に30〜50代は、家庭を作り、子どもを育て、社会を再生産していく最も重要な時期です。この世代が「とても家庭なんて持てない」「子どもなんて無理」と感じるような社会では、持続可能性がありません。

まず考えるべきは「全体の底上げ」

では、どうすればいいのか。まず考えるべきは、現役世代の底上げをどう実現するかです。他の財源から持ってこれないか、予算配分全体の中で工夫できないか。資産課税等考えられないか。東アジア共通の問題なんだから、地域協定を結んで軍事費を削減できないか。そういった可能性を第一に探るべきだと思います。

理想は、U字カーブを「薄底の皿」のような形にすること。全世代がそれなりに幸福を感じられる社会を目指す。そのための努力を尽くした上で、どうしても必要なら負担の再配分を考える。でも最初から「誰が得をしているか」という犯人探しから始めるのは、順番が違うと思うんです。

この問題は政治的に「どん詰まり」になりやすいテーマです。だからこそ、発想の転換が必要なんじゃないでしょうか。

というわけで、今日は高齢者医療費の話から、幸福度と社会設計について歩きながら考えてみました。みなさんはどう思いますか?もし共感したり、違う意見があったりしたら、ぜひSNSでシェアしてコメントで教えてください。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

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