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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える

2025.9.16

少子化対策の「お手本」が崩れた日:北欧・フランスの出生率急落から考える – 歩きながら考える vol.127

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは少子化対策に成功したと言われてきたフランスや北欧の国で再度出生率が下がっている件について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は移動時間を使って、ちょっと衝撃的なニュースについて考えてみたいと思います。

先日、2025年9月10日の日経新聞を読んでいて、思わず「えっ」と声が出ちゃったんです。日本の少子化対策の「お手本」として長年参照されてきたフランスや北欧諸国の出生率が、軒並み過去最低水準まで落ち込んでいるっていうんです。

フィンランドなんて2024年に1.25まで下がって、日本の1.15とそんなに変わらないレベル。スウェーデンも1.43、フランスですら1.62。かつて2.0近くあったフランスが、ここまで落ちるなんて。

これって、もう「日本だけの問題」じゃないんですよね。先進国全体が直面している、もっと根深い構造的な問題があるんじゃないかって、歩きながらずっと考えてしまいました。

手厚い支援でも止まらなかった「2番底」の現実

面白いのは、これらの国々って、すでに一度少子化を経験して、そこから回復した「成功例」だったってことなんです。

1990年代から2000年代、女性の社会進出に伴う「キャリアか家庭か」の二択問題で出生率が下がった。でも、その後、育児休業制度とか所得補償、保育サービスなど、手厚い支援策を導入して、一時は回復してたんですよね。

それなのに、また落ちてきちゃった。これが「2番底」と呼ばれる現象です。

記事では「教育期間の長期化」が理由として挙げられてるけど、ちょっと違うんじゃないかなって思うんです。教育期間の長期化って、要は女性の高学歴化の話ですよね。確かにそれは現象としては有るのかもしれませんが、じゃあ、なんで女性が高学歴化するかというと、様々なキャリアの選択肢を広げる必要があるからですよね。

そこには、女性の社会進出とか、男女平等の価値観もあるでしょう。でも、今の状況を見ると、もっと単純に「稼ぐことが必要」っていうのが本質なんじゃないかとでしょうか。

日本だと特にそうですよね。夫婦共働きじゃないと家計が回らない。少しでも余裕のある家計を回したかったら、二人とも正社員で稼いだ方が良い。片働きで子ども2人、3人なんて、もう夢物語。平等がどうこうっていう理念の話じゃなくて、純粋に「豊かな生活の為」っていう切実な問題になんじゃないでしょうか。

AIが奪う初職、築けない生活基盤

で、これに追い打ちをかけてるのが、AIによる若年層の雇用の不安定化です。

AIが若年層の仕事を奪う、特に「初職」を奪うって話、最近よく聞きますよね。データ入力、簡単な事務作業、カスタマーサポート…これまで新卒が最初に任されてた仕事がどんどんAIに置き換わってる。

そうなると、若い世代は生活基盤を確立することに不安を感じるようになると思います。まず自分が食べていくことで精一杯。子どもなんて、考える余裕すらないんじゃないでしょうか。

子育てって20年かかるじゃないですか。その間、安定して養育費を払い続けられるか。「この先、今の会社がどうなるかわからない」「5年後、この仕事があるかもわからない」っていう状況で、20年先まで責任を負うなんて、無理ですよね。

「社会全体で子育て」って具体的にどういうこと?

こうなってくると、もう個人や家族に子育てを任せる従来モデルは限界なんじゃないかって思うんです。社会として子供を育てる体制に本格的に変わらないとならないかもしれない。

「社会全体で子育て」って、具体的にどういうことか。

例えば、子どもが生まれたら、0歳から18歳まで、基本的な養育費・教育費は全額国が負担する。

保育園や学童保育は完全無償化して、朝7時から夜8時まで預けられるようにする。教育費のお金の問題と、実際にケアをする人手の問題も社会が負担する。ただ預かるだけじゃなくて、宿題のサポートから習い事まで、全部そこで完結する。親は仕事に集中できて、子どもも充実した時間を過ごせるよにする。

「そんなの財源どうするの?」って思うかもしれません。でも、考えてみてください。少子化って「国が消滅する」レベルの危機ですよね。戦争で国民が何百万人も死んでしまうことを防ぐために防衛費をかけるように、本当は生まれてくるはずだった何百万人もの人が生まれてこれる体制を作るために社会保障費を手厚くする。防衛費に何兆円か使うのと同じように、未来の納税者である子どもへの費用も重要なのではないでしょうか。

40代からの子育てという「もう一つの道」

でも、もう1つ、違う角度からの解決策もあるんじゃないかって思うんです。

それは「生活基盤が固まる中年期に子どもを持つ」っていう選択肢。

40代半ばで仕事が安定して、貯蓄もできて、定年までの道のりも見えてきた。そのタイミングで、人生後半の一大プロジェクトとして子育てを始める。これ、意外とアリなんじゃないでしょうか。

もちろん、こういうことを考えられるような所得や貯蓄状況の人は多くはないかもしれません。でも、キャリアを築くことに全力投球してきた人にとって、40代半ばって人生を振り返るタイミングでもあります。「仕事はある程度形になった。でもこれで良かったのか?」って考えたとき、「子育て」が選択肢にあれば、選ぶ人もいるはず。

これには生殖技術の進歩が不可欠です。卵子凍結、体外受精、そういった技術がもっと一般的になって、費用も下がって、社会的にも「普通の選択」として認められる必要があります。

まとめ

というわけで、今日は先進国共通の少子化問題について、歩きながら考えてみました。

「お手本」だったはずの国々の苦戦は、従来の発想の限界を示してるのかもしれません。「若いうちに結婚して子どもを産む」っていうモデルが崩れているなら、新しいライフコースを設計する必要がある。

みなさんは、どう思いますか? 社会全体で子育て、40代での初産、どちらが現実的だと思いますか?

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

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