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2025.9.1

日本の研究力を世界3位に?その前に考えるべきこと – 歩きながら考える vol.117

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、自民党が「トップ10%論文」の数を世界3位にする目標を掲げていることについて。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は駅から家に帰りながら、最近読んだニュースについて考えたことを話してみようと思います。

8月27日の日経新聞によると、自民党が「トップ10%論文数を10年以内に世界13位から3位に引き上げる」という目標を打ち出したそうです。2026年度からの科学技術・イノベーション基本計画に反映させて、2035年までに科研費を倍増させたり、若手研究者に重点配分したりするとか。

これ読んで最初に思ったのは、「そもそもなんで13位まで落ちちゃったの?」ってことなんですよ。原因分析をきっちりやらないと、また同じ失敗を繰り返すんじゃないかって心配になります。お金つけたり、PDCAサイクル回したり、報告書を増やしたり…まさかそういう方向に行くんじゃないだろうなって思いながら、歩いてます。

トップ論文を増やすための「因数分解」

で、ちょっと考えてみたいんですけど、トップ10%論文を増やすって言っても、いきなりトップ論文だけ狙い撃ちで出せるわけないですよね。

良い論文を出すためには、その予備軍になる質の高い論文の数を増やす必要がある。学術論文は、ジャーナルインパクトファクターって言って、引用回数に基づいて雑誌がランク付けされてるんです。トップ10%論文を増やしたいなら、まずは上位半分とか、上位25%の雑誌に載るような、質の高い論文の総数を増やす必要がありますよね。

で、その論文数を増やすためには何が必要かっていうと、研究資金を一定としてシンプルに考えれば:

質の高い論文数 = 質の高い研究者数 × 1人当たりの研究時間

ということになるじゃないですか。そうすると、質の高い研究者数を増やすか、1人当たりの研究時間を増やすか、どちらか、もしくは両方が必要になります。

質の高い研究者数を増やすっていうのは、結構難しい話ですよね。海外から優秀な研究者を呼んでくるとか、教育課程をどう変えていくかとか、そういう長期的で複雑な話になっちゃう。

だから、まず手をつけやすいのは後者の方。1人当たりの研究時間をどう増やすかっていう方が、明確にテコ入れをして変化を起こしやすいんじゃないかと思うんです。

研究時間は本当に確保されているのか?

ここで疑問なのが、これまでの大学運営や大学改革って、本当に研究時間を増やす方向で進められてきたのかなってことです。

なぜなら、現場を見ていると、研究に使える時間が十分確保されていない先生がごろごろいるんですよ。極端な話、正規の教職ポジションで大学に勤めているのに、研究に使える時間が自分の時間の10%もないっていう先生もいる。じゃあ何してるかっていうと、大学の組織運営とか、会議とか、各種委員会とか、入試業務とか、そういう研究以外の仕事にほとんどの時間を占められちゃってるんです。

確かに、大学という組織に所属している以上、組織運営に関わることは必要だと思います。でも、どんなに多くても4割までじゃないですか? 6割は研究や論文執筆に使えるようにするべきだと思うんです。

研究時間を奪う「見えないコスト」

研究時間が減ってる原因って、いろいろあるんですけど、例えば業績評価とか、倫理審査とか。これ、研究者同士でやり合ってるんですよ。

確かに専門的な内容だから研究者じゃないとわからないっていうのはある。でも、これって明らかにトレードオフですよね。評価や審査に時間を使えば、その分研究時間が減る。最終的な目標が「世界トップレベルの研究成果を出す」ことだとしたら、どっちを優先すべきかって、答えは明らかじゃないでしょうか。確かに研究者にお願いすれば仕事の質は高くなるかもしれないけど、そこはトレードオフなんだから、研究者でなくても出来る仕事は、厳密に切り分けて専門職に任せるべきだと思います。

こういう「見えないコスト」の積み重ねが、日本の研究力を削いでいるんじゃないかと思うんです。

まとめ:まず時間、次に質

というわけで、今日は日本の研究力強化について歩きながら考えてみました。

トップ10%論文を世界3位にするっていう目標は良いと思います。ぜひやりましょう。

でも、そもそもなぜ13位まで落ちたのか、その原因をちゃんと分析しないと、また同じ轍を踏むんじゃないでしょうか。

研究成果を上げるには、まず研究時間を確保することが不可欠。現実は、大学の先生たちは研究以外の業務に忙殺されている。この構造的な問題を解決しない限り、いくらお金をつけても、いくら目標管理を強化しても、本質的な改善は望めないと思います。

時間の問題を最適化した後で、次は研究者の質の問題に手を付けるという順番じゃないかと思います。まずは今いる研究者が研究に専念できる環境を作る。その上で、より質の高い研究者を育成したり、海外から呼んできたりする。この順番を間違えちゃいけないんじゃないでしょうか。

政策立案者の皆さんには、ぜひ、研究者が研究に専念できる環境づくりを進めてほしいなと思います。

みなさんはどう思いますか? 日本の研究力を本当に上げるには、何が必要だと思いますか? ぜひSNSでシェアして、コメントで意見を聞かせてください。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。家に着いたので、今日はこの辺で。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

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