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2025.4.7

マイクロソフトの会議に見る文化の秘密 – 歩きながら考える vol.17

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

「歩きながら考える」

今日のテーマは「ナデラCEOの会議スタイルと文化」について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎朝お届けしています。

 

こんにちは。今日は歩きながら、4月1日の日経新聞の記事で読んだマイクロソフトのCEO、サティア・ナデラの会議スタイルについて文化の観点から考えてみます。この記事、ナデラCEOの会議で「なぜ」を追求するやり方が面白いと思ったんですが、それをホフステードの文化次元で分析すると、再現性のあるモデルとして意識できるのではないかなと思います。ちょっとその話をシェアさせてください。

ナデラの会議は「なぜ」だらけ

まず、記事で紹介されてたナデラのシニアリーダーシップチーム(SLT)の会議が興味深かったです。16人の重役が集まる金曜日の会議、朝から夕方までびっしりなんだそうで、そこでナデラCEOは、「なんでこうなってるの?」「それで勝てるの?」「その根拠は?」と「なぜ」を問いかけて、全員で議論をしているのだそうです。

面白いなーと思ったのが、彼は叱らないし褒めないと評されている点。普通のリーダーだと、評価をしそうですよね。「それはいまいち」とか「いいね」とか。これに対してナデラCEOは「なぜ」を投げて、シニアリーダーシップチームとして議論で答えを探すスタイル。この「フラットで対話的」な感じ、なるほどね、と思ったんですけど、ここでピンときたのが、ホフステードのモデルで分析したらどうなるか、ということ。

ホフステードの次元でナデラを解く

ホフステードの文化次元って、国の価値観を6つの軸で指標化したモデルなんですが、ナデラの会議スタイルをこれで分析すると、面白いと感じます。

まず、「権力格差(Power Distance)」。ナデラCEOが上から命令するのではなく、みんなで答えを探す姿勢って、権力格差が低い(アメリカのスコアは40)特徴に感じますね。次に、「個人主義(Individualism)」。16人の重役がそれぞれ自分の領域で納得感のあるプレゼンスを出す必要があるから、個人主義が高い(アメリカは91)環境とフィットが良いんだろうと思います。そして、「男性性(Masculinity)」。勝ちにこだわるロジカルな議論が求められるから、男性性が強い(アメリカは62)感じがします。

さらに、「不確実性の回避(Uncertainty Avoidance)」。ナデラが「分からないなら学びに行こう」って姿勢を推してるのは、不確実性を恐れず受け入れる文化(アメリカは46)だし、「短期志向(Short-term Orientation)」も、オープンAIへの素早い投資(2019年に10億ドル)などを見ると、短期的な動きを重視してる(アメリカは26)のが分かります。

つまり、この会議スタイル、ホフステードで見ると、アメリカ文化のパターン(権力格差低、個人主義高、男性性高、不確実性回避低、短期志向)そのものなんではないかと感じるわけです。ナデラCEOがインド出身でも、アメリカ企業を率いるのにこの価値観を体現してるのが、ユニークで面白いと感じます。

「Learn-it-all」をホフステードで深掘り

で、この会議文化の中で、私が特に面白いと思ったのが、ナデラの「Learn-it-all(全てを学びに行く)」文化。「Know-it-all(全てを知ってる)」じゃなくて、学び続ける姿勢を重視するってやつです。ホフステードで言う「不確実性の回避が低い」という価値観は、まさにこの標語が体現しているように感じます。

ホフステードのレンズで見ると、変化の速いイノベーションが重視される業界では、「不確実性を受け入れる」ことが必要で、そうした文化を持っていることが強みになる傾向がありますが、これが、ナデラの会議スタイルとリンクして、イノベーションを加速させてる気がしました。

 

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SLTの「なぜ」が組織の下まで落ちていく?

で、ここからは僕の推論なんですが、このSLTの会議スタイルって、そのまま組織の下に落ちていくんじゃないかって思うんです。なぜなら、リーダーが「なぜ」に答える準備をする必要があるから。16人の重役がナデラの問いかけに備えるには、自分の部署の状況をロジカルに把握してないといけない。でも全部を知ってるわけじゃないから、部下に同じ「なぜ」を投げて、議論しながら答えを探すしかないですよね。

そうすると、上から下まで「なぜ」を問い続ける文化が浸透して、部署ごとでも「Learn-it-all」が根付いていく。ホフステードの不確実性が低く、権力格差が低い特徴が、こういうフラットな対話の連鎖を生んでるのかもと感じます。

組織規模が大きくなると官僚主義的な管理の仕方の弊害が出ることがあり、それはホフステードの次元で言うと、「不確実性が高く」「権力格差が高い」文化が機能しない形になってしまうということとも言えます。マイクロソフトくらい大きな会社では、どうしたって官僚主義の弊害が出るものではないかと思いますが、SLTの会議スタイルが下まで落ちてくるとすると、そうした弊害に対するカウンターとして機能するのではないかとも思います。

文化フィットが成果を生む鍵?

さらに、もう一つ推論を加えると、この会議スタイルや「Learn-it-all」が、アメリカの文化とフィットしてることも重要なのではないかと感じます。つまり、働く側が「自然」で「適切」と感じる組織文化があると、一人一人が働きやすくなりますよね。インド出身のナデラがこのアメリカ的なパターンを体現してるのも面白いけど、ナデラCEOのマネジメントが上手く行っているとしたら、こういう「文化フィット」が組織をスムーズに動かしてるからかも。多様性とグローバル競争が加速する中で、文化とマネジメントのマッチってやっぱり大事だなって、歩きながらしみじみ思いました。

まとめ:ホフステードでナデラCEOの会議を読み解く楽しさ

というわけで、今日はナデラCEOの「なぜ」だらけの会議を、ホフステードの文化次元で分析しながら歩いて考えてみました。みなさんはどう思いますか?「自社の会議はこんな感じ」とか「うちの会社の組織文化もホフステードで見てみた!」みたいなアイデアがあったら、ぜひSNSでシェアしてコメントください。

最後まで読んでくれて、ありがとうございました。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

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