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ブログ歩きながら考える

2026.8.31

移動時間をインプットからアウトプットに変える、小声という方法 – 歩きながら考える vol.363

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、電車やバスの中でAIと音声でやり取りすることについて。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は移動時間を使って、久しぶりに音声入力の話をしようと思います。

「歩きながら考える」なんてタイトルでやっているこのシリーズですが、正直この夏は暑すぎて、歩きながらAIと話すのが無理でした。で、研究室から家まではバスに乗るようになったんですけど、バスの中でスマホでニュースをチェックしているだけの時間が、なんかもったいないなと思い始めたんですよね。今日はそこから始まった話です。

移動時間はインプットの時間だった

電車やバスの移動中って、これまでは基本的に受動的なインプットの時間だったと思うんです。音楽を聴く、本を読む、ニュースを見る。ウォークマンの時代からずっとそうで、スマホになってもその延長線上にある。

一方で、公共の場でアウトプットしたり議論したりするのは難しい。友達同士の会話なら、大声でなければ許容されますが、電話は基本的にNGじゃないですか。

でも、AIが出てきたことでここが変わる可能性があると思っています。移動中でも、AIと話しながら考えをまとめたり、文章を書いたりできるわけです。で、そのときテキスト入力なら周りからは「LINEでもしてるのかな」くらいにしか見えない。ところが音声入力になった途端、「電話してる人」に見えてしまう。ここが課題です。

とはいえ、議論をまとめたり文章を書いたりするなら、圧倒的に音声のほうが速い。座っていればまだしも、立ったままの移動中にタイピングするのはかなり厳しい。スマホ一台で音声入力できれば手軽にアウトプットできるのに、というもどかしさがずっとありました。

めちゃくちゃ小声で話してみた

それで今、周りに許されるのかどうかを考えながら試しているのが、「めちゃくちゃ小声で話す」という方法です。

やってみて驚いたんですけど、今のiPhoneのマイク性能って本当にすごいんですよ。本体の下のマイク部分を口元にほとんどくっつけるくらいに近づけると、自分の耳にも何を言っているか聞こえないくらいの小声でも、かなり正確に認識してくれる。囁くというより、唇を動かして息を出しているだけ、に近い声量です。

周りから見ると「スマホに向かって唇を動かしているな」くらいで、言っている内容は音としてほぼ聞こえません。隣に立っている人にも聞こえていないと思います。それでもしっかり文章になる。

つまり、音の問題はもう解決しているんです。電車で電話がNGなのは、要するに音がうるさいからですよね。でもこの方法なら、迷惑になる音はそもそも出ていない。専用のデバイスがいるのかなと最初は思っていたんですけど、スマホ本体、あるいは口元に寄せられる小型マイクがあれば十分でした。

残っているのは「見慣れなさ」だけ

じゃあ何が問題として残っているかというと、見た目なんですよね。

端から見ると電話しているようにも見えるし、そもそもこんなことをしている人はまだほとんどいない。だから私自身、やりながら「これ、大丈夫かな」という感覚がずっとあるんです。

でも冷静に考えると、誰にも迷惑はかけていない。音は出ていないし、場所も取っていない。それでも「大丈夫かな」と感じてしまうのは、周りと同じように振る舞うという規範が自分の中にしっかり内面化されているからだと思います。日本のように集団の同調を重んじる文化で育つと、「迷惑かどうか」より先に「見慣れないことをしていないか」が気になってしまう。文化の話を仕事にしている人間が、自分でそれを実演しているわけで、ちょっと笑ってしまいます。

男の日傘のように

ただ、これはたぶん時間の問題だと思っています。思い出すのは男性の日傘です。

ほんの数年前まで、日傘をさしている男性はかなり珍しくて、さしている本人もどこか恥ずかしそうでしたよね。私も最初はなんか周りの目が気になりました。2018年くらいの話ですが。それくらい「最初のひとり」になるのは難しかったわけです。でも猛暑が続いて、やる人が増えて、今では誰も気にしない。

公共の場での小声の音声入力も、同じ経路をたどる気がしています。迷惑ではない、便利である、でも見慣れない。この三つが揃ったものは、最初の何人かが我慢してやり続ければ、あるとき普通になる。問題は、誰がその最初の何人かになるか、で、私は今おそるおそるそのひとりをやっているところです。

で、ネタ晴らしですが、この記事も、大学の研究室から家に帰るバスの中で、立ったまま、スマホを口元に当てて小声で話して書いています。もし同じバスに乗り合わせて、スマホに向かって唇だけ動かしている怪しい人を見かけたら、それはたぶん私です。

もし「私もやってみた」という方がいたら、ぜひ教えてください。この記事が良かったら、スキやフォローもよろしくお願いします。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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