こんにちは。今日は、いま書いている論文の話をしようと思います。今月中に仕上げて投稿したいと思っているもので、書きながら「人間ってやっぱりこういう生き物なんだな」としみじみ感じたことがあったので、歩きながらゆるく話してみます。
何回やっても同じ結果が出るパターン
ここ2、3年、AIからの仕事のフィードバックが働く人のモチベーションやウェルビーイングにどう効くのかを、いろいろな角度から実験してきました。その中で、何回やっても同じような結果になるパターンがあって、それが「ポジティブとネガティブ」の違いなんですよね。
フィードバックには切り口がいくつもあるのですが、強みや出来ていることに焦点を置くのか、弱みや改善点に焦点を置くのかという切り口は、質的に違う効果につながる大事なものの一つです。人間同士のフィードバック研究でも、大括りに言えば、強みに焦点を置いたポジティブなフィードバックの方が、改善点に焦点を置いたネガティブなものよりモチベーションやウェルビーイングに効く、と言われています。そしてAIでやっても、やっぱり同じ結果が出ます。
ただ、ここで考えなきゃいけないのは、ネガティブフィードバックにはそれ自体の情報価値があるということです。どこを直せばいいのか、どこを伸ばせばいいのかを教えてくれるのはネガティブフィードバックであって、「ここが出来ているよ」と伝えるポジティブフィードバックとは役割が違う。だから私は「強みに目を向ければいいですよ」という話をしたいわけではなくて、ネガティブフィードバックの情報をどうすればうまく使えるのかを考えたいんです。研究の言葉で言えば境界条件、つまりどういう条件ならダメ出しがモチベーションや幸福感につながるのか、その条件を探しにいっている、という感じですね。

論文で検証した「間のプロセス」
今回の論文で注目したのは、ワーク・エンゲージメントです。これは仕事に対する熱意、没頭、活力のことで、要するに「仕事に前向きなエネルギーを注げている状態」を指す、働く人の幸福を考える上でかなり重要な概念です。仕事の出来栄えや状況についてフィードバックすると、それがうまく効けば、フィードバックは資源(リソース)になって、このワーク・エンゲージメントを高め得る。では、その「うまく効く」とはどういうことなのか。フィードバックとエンゲージメントの間に何が起きているのかを、今回は細かく見ていきました。
具体的には、受け手がフィードバックをどういう支援として受け取り、それが「自分はできる」という感覚、つまり自己効力感を高め、その自己効力感がエンゲージメントを押し上げるのか、という経路です。
結果として、ポジティブもネガティブも、どちらも「支援」としては受け取られます。強みに焦点を置いたポジティブフィードバックは、「自分を認めてもらえた」「ちゃんと見ていてくれた」という感情支援として受け取られつつ、「どこがうまくいっているのか」という情報支援としても機能する。改善点に焦点を置いたネガティブフィードバックは主に「どこに改善点があるのか」という情報支援として受け取られますが、同時に少しだけ感情支援としても受け取られます。自分の状況に対して真摯に向き合ってくれた、と感じられること自体が、ケアされたという感覚につながるからではないかと思っています。
面白いのはここからです。感情支援と情報支援のそれぞれが自己効力感につながるかを見ると、感情支援はつながるのに、情報支援はつながらない。そして自己効力感はエンゲージメントにつながる。図にするとこんな感じです。
○ 感情支援 → 自己効力感↑ → ワーク・エンゲージメント↑
× 情報支援 → 自己効力感は変わらない
つまり、フィードバックからエンゲージメントへの道は、感情支援のルートしか通っていなかったということです。

情報は届くのに、なぜ動けないのか
これはもしかしたら直感に反する結果かもしれません。というのも、ネガティブフィードバックでは「ここをこう直せばいい」と具体的に教えて貰えることもあるわけで、その情報をもらえれば、改善出来る気がしてきても良いかもしれません。でも、データを見る限り、その情報だけでは「自分はできる」という感覚は動かない。
動かしているのは、情報そのものではなくて、感情支援の方。つまり、ダメ出しの背景から滲み出てくるケアの感覚の方と言っても良いかもしれません。「自分のことを考えてくれた」「自分の状況を見てくれた」「自分の成長を本気で考えてくれている」という感情的な部分だけが、自己効力感を経由してエンゲージメントにつながっていく。
裏を返すと、「できている、できていない」「ここがダメだ」という純粋な評価の部分だけを渡しても、その人の仕事への熱量は上がらない、ということです。職場では、入門者や若手に「そのやり方じゃないんだよ」「ここはこうやるんだよ」と伝えなければいけない場面が山ほどあります。あれは情報としては正しい。でも情報だけでは、人は動かない。人間というのは、やっぱり感情が土台にある生き物なんだなと、論文を書きながら実感しています。

評価者ではなく、ケアラーとして
だから私は、ダメ出しをするときこそ気持ちを込めるというのが、すごく大事な観点なんじゃないかと思っています。
後輩や教え子にフィードバックをするとき、つい「評価者」になってしまうことがあります。どこができていて、どこができていないかを正確に伝えることが仕事だと思ってしまう。でも今回の結果を見ると、評価者としての正確さは、相手のエンゲージメントにはほとんど寄与していない。効いているのは、ケアする人として関わっているかどうかの方です。
なので、ネガティブフィードバックは、情報として伝えるというより、気持ちとして伝えるイメージなんだと思います。ダメ出しをしながらも、「こうすればこうできるじゃん」「そうなったら嬉しいし、うまくいくじゃん」という、出す側の気持ちが乗っているかどうか。最終的にはそこがネガティブフィードバックの効果を左右しているんだろうなと感じています。
今回の実験でフィードバックを出していたのはAIでしたが、これは人間がフィードバックを出す場合でも、おそらく同じことが言えるんじゃないかと思っています。この先は、AIと人間でケアの感じ方がどう違うのか、あるいは違わないのか、そのあたりの比較をしていきたいと考えています。
というわけで、今日は「ダメ出しが効く条件」について、歩きながら考えてみました。もしこの記事を読んで「うちの職場のフィードバック、情報だけになってるかも」と思った方や、「こんなダメ出しは効いた」という経験がある方がいたら、ぜひSNSでシェアして、コメントで教えてください。論文が出たら、またこのブログで続きを話せたらと思います。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!