YASUSHI WATANABE.COM

日本語 ENGLISH

Blog

6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える

2026.8.26

マウンティングする人が、なぜか得する世の中の話 – 歩きながら考える vol.360

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、マウンティングについて。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日はちょっと個人的な引っかかりから話を始めようと思います。私の周りに、「この人、すごいマウンティングしてくるなあ」と思う人がいるんですよね。会うたびに、自分の方が上だということをさりげなく、でも確実に示してくる。正直、あまり一緒に仕事をしたいタイプではない。でも不思議なことに、その人は別に社会的に問題になっているわけでもなく、むしろ仕事もプライベートも順調そうなんです。これ、なんでなんだろうなと前から思っていて、歩きながらゆるく考えてみようと思います。

地位に上がる道は二つある

マウンティングという行為は、心理学ではいろいろな理論や枠組みでの説明があり得ます。その中に、地位を得るには二つの経路がある、という議論があります。一つは威信(prestige)の経路。能力や知識を示して、周りから自発的に尊敬を集めるやり方です。もう一つが支配(dominance)の経路。威圧したり、怖がらせたりして、従わせるやり方です。

マウンティングと支配戦略は、もちろん同じものではありません。支配戦略の核は恐れで、典型は上司と部下の関係です。ただ、この研究で支配的な人の振る舞いとして観察されたものには、相手を見下す、自分の重要性を誇示するといったものが含まれていて、これはマウンティングそのものです。言ってみれば、支配戦略の穏やかな版。

私がずっと気になっていたのは、後者の支配戦略ってみんなに嫌われるはずで、それなら長続きしないんじゃないか、ということでした。ところが、2013年に Journal of Personality and Social Psychology に出た Cheng らの研究では、集団で課題に取り組む様子を観察したところ、支配的に振る舞う人も、威信で尊敬を集める人も、集団内での影響力は同じくらい高かったという結果が出ています。支配的な人は周りから好かれてはいないのに、影響力はちゃんと持っていた、ということです。

これを読んで、ああ、あの人のあれは支配戦略で、あれはあれでちゃんと効いているんだな、と妙に腑に落ちてしまいました。

気持ち悪いけど、たぶん本当

この結果、正直なところ気持ち悪いです。でも、たぶん本当なんだろうなとも思います。というのも、思い当たる光景がいくつもあるからです。

会社の中で、やたら細かい知識を問う質問や、答えにくい難しい質問をわざわざ投げてきて、こちらが答えに詰まると「あ、知らないんだ……」という態度をとる人。こちらの持ち物や経歴や成果を、いちいち本人のものと比べてくる人。こちらが何か話をすると、「私はもっと良いのを……」とかぶせてくる人。そういう人が、嫌われながらも、なぜか周りに顔色を見られていて、結局その人の意見が通っている。周りは「あの人はそういう人だから」と言いながら、結局その人の言うことを聞いている。部署が変わっても、会社が変わっても、同じ構図を何度も見てきた気がします。

嫌われているのに、なぜか上に立っている。この二つが同時に成り立っているのを、私たちは日常的に見ているわけです。だから、研究結果を読んで「そんなわけない」とは言えなかった。むしろ、薄々分かっていたことに名前がついた、という感覚に近いかもしれません

なぜ支配戦略が効くのか

では、なぜこうなるのか。

やる側の事情は、わりと単純だと思います。威信戦略は、集団の中で価値があると合意されているもの、たとえば資格とか実績とか知識とかを身につけて、それが認められるのを待つ道です。時間がかかるし、認めてくれるかどうかは相手次第で、自分ではコントロールできない。一方の支配戦略は、今この場で一方的に始められる。そして効く。だから、やる人がいなくならない。

面白いのは、受ける側に何が起きているかの方です。

人は、誰かを常に上に見上げ続けるのは嫌なものです。だから普通は、マウンティングしてくる人からはそっと離れていく。これが本来の支配戦略のコストで、周りが離れていけば、影響力を行使する相手がいなくなります。

ところが、集団を自由に出られない場合はどうなるか。日本の多くの職場や業界は、人間関係の入れ替えがききにくい。取引先も同僚も、簡単には替えられない。離れるという選択肢が使えないまま、その人と付き合い続けることになります。

ここで働くのが認知的不協和だと思うんです。嫌な人の下にいる、という状態は居心地が悪い。だから「あの人は確かに有能だから仕方ない」という意味づけが起きる。実際、Cheng らの研究でも、支配的な人を嫌っていたのは外から観察していた人たちで、同じ集団の中にいた人たちは特に嫌ってはいなかったそうです。出来上がった階層と一緒に生きていかなければならない人は、その階層を受け入れる方向に気持ちが動く、ということなのかもしれません。

この意味づけを後押しするのが、人は他人の能力を正確には見積もれない、という事情です。自信ありげに振る舞う人は、それだけで有能に見えてしまう。支配戦略をとっている人は、まさに自信ありげに振る舞っているので、能力が高いと誤読されやすい。「あの人は有能だから仕方ない」という説明に、都合よく材料が揃ってしまうわけです。

つまり、私が「嫌だな」と感じるのは、私がその人の集団の外にいるからであって、中にいる人たちにとっては、あの人はちゃんと有能な人なのかもしれない。そう考えると、仕事もプライベートも順調なのは、別に不思議ではないわけです。

これから、支配戦略の方が効くようになる?

ここまでで一応の説明はついたのですが、最後にもう一つ、考えて気持ち悪くなった話をします。

私は、マウンティングされるのが本当に嫌いです。もし自分が無意識にマウンティングしてしまっていたら、なんという未熟者かと、本気で反省すると思います。だから、威信戦略の方がまっとうで、支配戦略は未熟な人のやることだ、と思いたい。

ただ、さっきの話の裏返しなのですが、この二つの戦略が効く条件はどうも違うようなのです。威信戦略は、何に価値があるかが共有されている環境で効く。資格や実績に意味があるのは、みんながそれに意味があると思っているからです。一方の支配戦略は、誰の能力もよく分からない環境で効く。何が正解か分からないときほど、人は自信ありげな人についていく。

では、今の世の中はどちらに向かっているのか。技術も仕事も、何が価値なのかがどんどん揺れていて、昨日まで意味があった資格や実績が、明日も意味があるかどうか分からない。誰の能力も測りにくくなっている。そういう環境では、もしかして、威信戦略より支配戦略の方が効くようになるんじゃないか。そう思ったとき、ちょっと背中が冷たくなりました。

そうならないでほしい、とは思います。でも、なんかそういう世の中になっちゃいそうな気もする。

今日はこの辺で。もしこの記事が面白いと思ったら、いいねやフォローをしてもらえると嬉しいです。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

関連ブログ Related Blog

AIが経営会議に入ったら、日本の会社はどう変わるか – 歩きながら考える vol.100

6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ個人主義(IDV)歩きながら考える

2025.8.6

AIが経営会議に入ったら、日本の会社はどう変わるか – 歩きながら考える vol.100

今回は、キリンの経営会議にAI役員が参加するようになった話。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる... more

「ほうれんそう」の本当の意味|昭和に学ぶ経営学

本棚組織文化の作り方

2020.5.12

「ほうれんそう」の本当の意味|昭和に学ぶ経営学

ほうれんそう運動を知っていますか? 先輩社員が後輩社員に向かって「ほうれんそう、しっかりやってくれよ!」ということがあります。報告・連絡・相談の最初の一字をとって「ほうれんそう」。 今年(2020年)は新型コロナウィルス... more

「年下上司」時代に中高年は幸福になれるか? – 歩きながら考える vol.206

6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える

2026.1.13

「年下上司」時代に中高年は幸福になれるか? – 歩きながら考える vol.206

今日のテーマは、50代社員が直面する「年下上司」問題と、その幸福への影響について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや... more