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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える

2026.8.11

AIに期待していた私が、「AI依存」の研究を始めた話 – 歩きながら考える vol.349

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、幸福の感じ方は人によってどう違うのかについて。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は少しご報告も兼ねた話です。私たちの研究チームの新しい論文が、Computers in Human Behavior: Artificial Humans という学術誌に掲載されました。テーマは、AIからのフィードバックが「AI依存」をどう形作るのか。オープンアクセスなので、どなたでも無料で読めます

で、今日はこの論文の中身を紹介したいのですが、単なる研究解説というより、この研究の背景にある私自身の心境の変化と合わせて話してみようと思います。

去年まで、私はAIに期待しかしていなかった

正直に言うと、去年まで私はAIのポジティブな面をかなり強調して考えていました。ブルシット・ジョブ、つまり無駄な仕事がなくなるという期待もありましたが、中でも大きいと思っていたのが、フィードバックの民主化です。

何か新しいことを始めるとき、新しい技術を学ぶときのことを思い浮かべてほしいんですが、独学って難しいじゃないですか。どういう考え方で、どういう順番で進めていけばいいのか。今の自分のやり方は、できているのか、できていないのか。それを教えてくれる存在がいるかどうかで、学びの質は大きく変わります。学生なら先生、職場なら上司や先輩がその役割を担うわけですが、そういう人たちのリソースは限られている。しかも大人になると、考え方や価値観が固まってくる上に、そもそも外部からフィードバックをもらう機会自体が減っていきますよね。

でも、AIならそれができる。しかも昔であれば、個人的なチューターやトレーナー、エグゼクティブコーチって、一部の裕福な人しか雇えなかったわけです。それがAIの登場によって、誰でも安価に「自分専属のコーチ」を持てるようになる。何歳になっても個人が良い方向に発達していくことを、強力に手助けしてくれるはずだ。そう期待していました。

使い込むうちに感じた「ちょっと違う側面」

ところが、自分自身が日々AIを使い込んでいくうちに、「あれ、ちょっと違う側面があるな」と感じるようになったんですよね。

便利なんですよ。便利なんですけど、便利であればあるほど、AIなしで考えることが億劫になっていく感覚がある。気がつくと、自分で考える前にAIに聞いている。この感覚は何なんだろう、と。

これが、今回の「AI依存」研究を始めたきっかけであり、背景です。AI依存というのは、単にAIをよく使うことではなくて、自律性が下がり、自分で考える力が削がれた状態での習慣的・自動的なAI利用のことを指します。役に立つはずのAIとの付き合いが、いつ、どんな条件で「依存」に転じるのか。それを別の目的で行っていた実験データの2次的な分析の中で確かめてみようと思ったわけです。

5日間の実験でわかった、直感に反する結果

実験の概要はこうです。日本のオフィスワーカー294名に、5日間(月〜金)、毎日AIチャットボットと仕事の振り返りセッションをしてもらいました。まさに「AI上司との1on1」みたいな設定ですね。参加者は3つのグループに分かれていて、AIが強みを認めるポジティブフィードバックをするグループ、改善点を指摘するネガティブフィードバックをするグループ、そしてフィードバックなしで話を聞くだけのグループ。最終日の1週間後に、AI依存の度合いを測定しました。

結果は2つ。

まず、褒めるAIは、誰の依存も高めました。職場で同僚や上司からのサポートに恵まれているかどうかに関係なく、一律に、です。

そして面白いのがネガティブフィードバックの方で、全体としては依存を高めなかったんですが、職場で豊かなサポートを受けている人に限って、依存を高めていたんです。特に効果が集中していたのは、同僚から実際に手を貸してもらえる「道具的サポート」が豊かな人たちでした。

これ、直感に反しませんか?普通、「AIに依存するのは職場で孤立している人で、人間関係の穴埋めとしてAIに頼るんだろう」と思いますよね。でも結果は逆だった。人間関係に恵まれている人こそ、依存が進む場合があるということをデータは示していたんです。

なぜか。一つの解釈は、心理学のストレス緩衝モデルで説明できます。耳の痛い指摘って、本来は自分への脅威なんですよ。だから孤立している人は防御的になって、指摘を受け流してしまう。でも、周囲の支えがある人は「何かあっても助けてもらえる」という安心感があるから、指摘を脅威ではなく使える情報として受け取れる。そして使えるからこそ、AIとの付き合いが深まり、依存が育っていく。

ただし断っておくと、これは5日間の短期実験で、自己報告に基づく探索的な分析です。効果の大きさも控えめなので、「確立した結論」ではなく「そういう傾向が見えた」という段階の話です。

便利さと依存は、同じコインの裏表

この結果を踏まえて改めて思うのは、AIが役に立つことと、依存が育つことは、同じメカニズムの表と裏なんだということです。

私が期待していた「フィードバックの民主化」は、実験の中でちゃんと機能していました。AIは毎日、丁寧に振り返りに付き合い、強みを認め、改善点を示してくれた。そして、まさにそのように機能したからこそ、依存が形成された。つまり副作用は、AIの「間違った使い方」から生まれるのではなく、正しく便利に使えているところから生まれる。だからこそ「使い方に気をつけましょう」という個人向けの注意喚起だけでは済まない話だと思うんです。

だとすると、AIの活用が社会に広がっていくにつれて、AI依存の問題は、これから現実のものとして出てくる可能性がある。そして、この問題にどう対策を講じていくのかを、真剣に考えなければならないと思っています。

今回の研究でわかったのは、あくまで「依存がどんな条件で形成されやすいのか」というところまでです。なので今年は、この続きとして2つのことに取り組んでいきたいと思っています。1つは、そもそもこの「依存」は、本当に問題になるのかどうか。依存が働く人のウェルビーイングや成長にどう影響するのかは、実はまだわかっていません。もう1つは、どういう環境や条件があれば、「AIをうまく使いこなしつつも、依存には陥らない」という状態をつくれるのか。この2つが、私の次の研究テーマになります。

というわけで、今日はAIへの期待から始まった「AI依存」研究の話を、歩きながら考えてみました。みなさんは、AIなしで考えるのが億劫になる感覚、ありませんか?もし思い当たることがあったら、ぜひSNSでシェアして、コメントで教えてください。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねフォローをしていただけると励みになります。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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