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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える

2026.8.10

「あなたにとって幸福とは?」に何と答えるかという話 – 歩きながら考える vol.348

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、幸福の感じ方は人によってどう違うのかについて。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は歩きながら、ひとつ質問から始めてみたいと思います。

あなたにとって、幸福とは何ですか?

こう聞かれたら、何と答えるでしょうか。満ち足りた、満足のいく人生でしょうか。それとも、意味や目的を感じられる人生でしょうか。実は最近、この問いには「第三の答え」があるという話を聞いて、色々考えちゃったんですよね。今日はその話をしてみようと思います。

幸福研究に現れた「第三の答え」

きっかけは、シカゴ大学の大石繁宏先生が来日された際の講義でした。幸福研究の第一人者である大石先生が話されていたのが、「サイコロジカル・リッチネス(心理的豊かさ)」という概念です。

これまでの幸福研究には、大きく二つの潮流がありました。一つは、自分の人生に満足しているか、肯定的な感情を多く持てているかという「ヘドニア(Hedonia)」。一般的に「ハピネス」と言われるときにイメージされる幸福で、主観的ウェルビーイング研究の中心にあった考え方です。もう一つは、人生の意味や目的を感じているかという、哲学的アプローチを中心とした「ユーダイモニア(Eudaimonia)」。快か、意味か。幸福はだいたいこの二つの軸で捉えられてきたわけです。

でも、これだけではどうしても抜け落ちてしまうものがある、というのが大石先生の分析のお話でした。それが心理的豊かさ。「様々な新しいことや、奥深いことを経験し続けている状態」を指すとのことでした。

面白いのは、これが思弁ではなくデータから導き出された「第三の次元」だという点です。世界の様々な国で「あなたにとっての幸福とは何か」を尋ねてテキスト分析を行うと、満足でも意味でもない「経験」に関する話が一定の規模で出てくるのだそうです。つまり、幸福の調査をしたり幸福について考えたりすれば、必ず出てくるテーマだということ。詳しくは大石先生の著書『Rich Life まだ知らない景色が人生を豊かにする』でも展開されています。

私からは「経験」という言葉は出てこない

この話を聞いて、面白いなと思うと同時に、ちょっと戸惑ったんですよね。

というのも、私自身の話をすると、幸福の要素として「経験」というのは、分からないでもないものの、それほど大きなウェイトを占めていないんです。もし冒頭の質問を自分がされたら、私の口から「経験」という言葉は出てこないだろうな、と。

でも一方で、「自分にとっての幸福は、興味深い経験や学び、何か新しいことを経験し続けていることだ」と確実に答える人も、間違いなく存在します。性格特性でいう「経験への開放性」が高い人には、特によく見られる傾向かもしれません。

考えてみれば、幸福度の尺度として最初に普及した「人生満足度」も、「幸福の定義は人それぞれ違う」という前提の上に作られていました。だからこそ、各自の定義と照らして「自分の人生に満足していますか」と聞けば、共通のものさしになるはずだ、と。幸福研究は最初から、幸福の中身が一つに集約できないことを知っていたわけです。

ただ、改めてこうして「人によって幸福な状態が異なる」ことを突きつけられると、考え込んでしまいます。私は企業や地域の幸福度調査に関わっている立場なのですが、では、この「幸福」を政策や施策との関係でどう扱えばいいのか。これ、改めて考えると結構難しいんですよね。

特効薬はない。だから包括的にやる

今の時点での私の考えを整理してみます。

幸福感のタイプごとに、必要な施策はかなり違ってきます。ヘドニア重視の人、つまりポジティブな感情を多く感じられていることが幸福だという人にとっては、不快の除去や快の最大化を目指すアプローチが効くのかもしれません。ユーダイモニア重視の人には、人との関係性、成長する機会、より大きな社会的文脈とのつながり、社会で活躍できる場が至る所にあること。そういう環境を整えることが大事になるかもしれません。そして心理的豊かさ重視の人には、イベントへの参加、新しい人との出会い、場合によっては会社や街の外に出て全然違う環境を体験してまた戻ってくるといった、多様な経験ができる場や仕組みが必要になるのかもしれない。

つまり、大きな集団の幸福を考えるとき、「これをやれば全員の幸福度が上がる」という単一の特効薬はまずない。データから見えてくるこうした大きな塊に紐づく施策を、包括的に積み重ねていくしかないんだと思います。

平均スコアより「マッチング」

そしてもう一つ、大事な観点があると思っています。

全体の平均スコアがどうなったかを追いかけても、実はあまり意味がないかもしれない。全員に聞けば数値は薄まってしまうからです。それよりも見るべきは、それぞれの人が、自分にとっての幸福を感じられる条件や状況にアクセスできているか。ヘドニア重視の人に快適な環境が、意味重視の人に活躍の場が、経験重視の人に新しい体験の機会が、ちゃんと届いているか。

要するに、マッチングの視点です。「適切な人に、適切なものが届いているか」に大きく目配せをすること。組織づくりや街づくりで幸福を扱うというのは、平均点を上げる競争ではなくて、このマッチングの網をどれだけ細やかに張れるかという話なんじゃないか。今はそんなふうに考えています。

とはいえ、そうなると今度は「幸福度を測る」とは一体何をしていることなのか、という問いが出てきます。平均スコアでないとしたら、何をどう測ればマッチングの状態が見えるのか。これはこれで一筋縄ではいかないテーマなので、また改めて考えてみたいと思います。

というわけで、今日は「あなたにとって幸福とは?」という問いについて、歩きながら考えてみました。みなさんは、何と答えますか? 快の人、意味の人、経験の人。ぜひコメントで教えてください。この記事が面白いと思ったら、いいね・フォロー・SNSでのシェアもうれしいです。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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