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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ不確実性の回避(UAI)女性性・男性性(MAS)歩きながら考える

2026.7.28

PDCAが本当に楽しくなる条件 – 歩きながら考える vol.339

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、事業計画などのPDCAが楽しくなる条件について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日も歩きながら、最近考えていることを話してみようと思います。テーマはPDCA。「またその話か」と思われた方、ちょっと待ってください。今日の話は、「細かすぎる計画づくりが、なぜか楽しかった」という私の実体験から始まる、ちょっとした謎解きです。

世界一細かい「P」が、なぜか楽しい

きっかけは、いま進めている調査の**事前登録(プレレジストレーション)**という作業です。

事前登録というのは、データを集める前に「どんな方法でデータを取り、どんな分析を行うのか」をあらかじめ決めて、公に登録しておく仕組みです。事前に決めておかないと、集めたデータをあれこれ分析して、たまたま統計的に有意になった結果だけを取り出すことができてしまう。本当はデータを見てから見つけた結果なのに、「最初からこの仮説を検証するつもりでした」と見せることもできてしまうんですよね。それを防ぐために、仮説も分析手法もサンプルサイズも、先に手の内をすべて宣言しておく。研究の信頼性を担保するための仕組みです。

つまり事前登録とは、いわば**世界一細かい「P(計画)」**です。使う分析手法の条件を確認し、検出力分析で必要なサンプルサイズを弾き出し、想定より多いと分かれば設計を見直す。限られた予算の中で、必要な分析をパズルのように組み合わせていく。

で、実際にやってみて意外だったのですが、この作業、ものすごく楽しいんです。知らなかった分析手法を学び、現実の計画に落とし込んでいく「学習している感覚」がたまらない。ここで、ふと昔の仕事を思い出しました。会社で事業計画や年度計画を細かく詰める作業は、こんなに楽しかっただろうか?と。

会社の細かい「P」は、なぜつまらないのか

もちろん、研究計画と事業計画はまったく別物です。ただ、「目的に向かって計画を詰める」という意味では似ているところもあるので、ここからは一つの思考実験として、この2つを並べて考えてみたいと思います。

多くの企業で「PDCAの形骸化」はよく聞く話じゃないですか。C(評価)やA(改善)に取り組む人は少なく、計画と実行を繰り返す「PDPD」で終わってしまう。最悪のケースでは、一年中計画ばかり立てている「PPPPPP」のような会社もあります。

この形骸化のパターン、なんだか日本文化の嫌な部分が現出しているように見えるんですよね。ホフステードの文化次元で言うと、日本は「不確実性の回避」が世界的に見ても非常に高い国です。不確実な状況が苦手で、事前に細かく手順を決めておきたい。だから実行前からPだけがやたらと細かく詰められる。さらに日本は「男性性」も高く、高い目標の達成が重視される文化なので、目標は当然のようにストレッチさせられる。細かく詰めさせられる計画と、届くかどうか分からない目標。この組み合わせがつまらないのは当然に思えます。

……と、ここで謎が生まれます。細かい計画がつまらないなら、なぜ世界一細かい事前登録は楽しいのか。 細かさ自体は、どうやら楽しさを殺す犯人ではないようです。

犯人は「自律性」と「有能感」の不在

考えてみると、違いは2つあるように思います。

1つ目は、得られる成果が自分が本当に欲しいものかどうか。今回の私には「この研究を形にしたい」という、心から欲しい目標があります。だからこそ、そこに至る手順を細かく詰めること自体が楽しい。一方、会社では、利益や売上といった目標が上位で決められ、ブレイクダウンされて降りてくる。「この数字のために、あなたは何をしますか」と問われる。同じ細かさでも、自分の欲望から出発した細かさと、他人の目標から逆算させられた細かさは、まるで別物なんですよね。

2つ目は、「これをやれば、だいたいこうなる」という自分なりの読みを持てるかどうか。「この分析とこの分析を組み合わせれば、思った以上の成果に化けるかもしれない」。そう頭の中でシミュレーションし、実行して答え合わせをし、見積もりの精度を上げていく。この読みが当たるかどうかを試すこと自体が、自分の力の確認作業になっている。逆に、ストレッチ目標は最初から自分の読みの外側に設定されるので、この確認作業が成立しにくい。

これは、デシとライアンの自己決定理論と重なる話です。人が意欲的に行動するための基本的な心理欲求として、自律性・有能感・関係性の3つが挙げられています。今回は一人でのプランニングの話なので関係性はいったん脇に置きますが、細かい計画づくりを楽しくするのは、まさに自律性(自分で選んでいる感覚)と有能感(自分の読みが通用する感覚)なのだと思います。細かさは、この2つがあれば「戦略」になり、なければ「作業」になる。

PDCAは、本来もっと面白いものかもしれない

そう考えると、PDCAとは本来、自分で行動を選び、自分の読みを試し、その結果から学んでいくプロセスのはずです。日本の会社のPDCAがつまらないのは、サイクルを回しているからでも、Pが細かいからでもなく、不確実性の回避と男性性という文化的な圧力の中で、自律性と有能感が抜き取られた形でPDCAが運用されがちだから、なのかもしれません。

とはいえ、組織で働く以上、個人の欲求と組織の目標が一致しない局面は必ずあります。だからこそ、目標を降ろすときにそれが個人の欲しい成果とどこでつながり得るのかを一緒に考えることや、少なくとも手段の選択と振り返りに「自分の読み」を持ち込める余地を残すことが、組織の側の設計課題になるのだと思います。

みなさんの職場のPDCAは、「戦略」になっているでしょうか、それとも「作業」でしょうか。「うちはPPPPPPだな」と思った方も(笑)、ぜひコメントで教えてください。いいねやフォローをしてくれると励みになります。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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