Blog
今日のテーマは、AIの進化は止まりつつあるのか?について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日は週末の散歩をしながら、最近使っているAIの話をしようと思います。Claudeの最上位モデルのFableがまた使えるようになって、使っているわけなんですね。で、使いながら「あれ、AIの進化ってこういう形で進むのか」ということに気づいたので、歩きながらゆるく話してみます。
最上位モデルなのに、あんまり感動しなかった話
まず正直な感想から言うと、私、このFable、実はそんなにメリットを感じないんですね。少なくともコストに見合うかというとちょっと微妙。
もちろん、コーディングでガシガシ使う人にとってはすごくいいのかもしれません。でも、私の場合、AIの主な用途は文章作成なんですよね。英語で論文を書かなきゃいけないというような問題があって、文章をわかりやすい英語にするところはAIの方が得意だなと昔から思っていて、Claudeは文章生成がいい感じだったのでずっと使ってきました。
で、Fableになって何が変わったかというと……そんなに大きなメリットは感じないんです。文章の生成ならOpusでも十分かな、という気がしています。
というのは、論文を1本書くときって、考えなきゃいけないことがいっぱいあるんですよね。一部分の文章を直すと、他の部分も連動して整合性をつけなきゃいけない。そもそもロジックが成り立っているかを考えなきゃいけない。読者目線で読み直したときにどうか、も考えなきゃいけない。こういう全体を統合する判断に関しては、残念ながらFableになっても、人間のジャッジメントやインプットがないといいアウトプットが作れないなという感覚です。
モデルの賢さの限界効用が逓減している、ような気もするわけです。実際、私の用途ではそう感じる部分があります。

でも、別の場所ではすごく進化していた
ところが、です。同じタイミングで「これはすごく良くなったな」と思ったアップデートがあるんですよ。それが音声モードです。
音声会話ってかなり手付かずというか、多分開発の優先順位としては後回しにされてるんだろうなと思っていたんですが、最近アップデートがあって。。1つは、わかりやすいところで言うと、英語のアクセントが選べるようになったことです。ブリティッシュ、アメリカン、インド英語といった様々なアクセントが選択できるようになって、これはすごく面白いなと思って見ています。
そしてもう1つ、私にとって大きかったのが、プロジェクトのコンテキストを踏まえた会話がより精緻にできるようになったような気がすることです。以前もプロジェクト内で音声モードを使えたのですが、音声モードだとプロジェクト内の文脈をなかなか理解して話してくれなくて、賢い回答が欲しければテキストチャットじゃないとどうにもならなかった。それが、プロジェクト内のメモリーにハンドオフのような形でコンテキストの設計ができていれば、それに基づいた会話ができるようになったように感じるわけです。
つまり、歩きながらちょっとした打ち合わせがより効果的にできるようになった。これ、私にとってはFableへのモデルアップデートよりも、はるかにインパクトが大きい変化でした。
アイデアが生まれる場所に、AIが入ってきた
なんでこれがそんなに嬉しいかというと、昔から言われる「三上」の話があるからです。中国の欧陽脩という文人が、文章を考えるのに良い場所として「馬上・枕上・厠上」、つまり馬の上、布団の中、トイレの中を挙げたという話。移動中や散歩中にいいアイデアを思いつく、というのは多くの人が実感していることじゃないですか。この「歩きながら考える」というシリーズ自体、まさにそれです。
で、ここがポイントなんですけど、音声モードの進化って「AIが賢くなった」話ではないんですよね。そうではなくて、「アイデアが生まれる場所に、AIが入ってこられるようになった」話なんです。
モデル本体の賢さは、正直そんなに変わっていないかもしれない。でも、音声というインターフェースが良くなり、メモリーというコンテキスト管理が良くなり、それらが掛け算になることで、「歩きながらAIと壁打ちする」という新しい体験が成立した。個々の機能の進化は地味でも、組み合わさると体験としては大きく変わる。

AIの進化は「螺旋状」に進む
ここまで考えて思ったのが、AIの進化の形についてです。
世の中のAIをめぐる議論って、「次のモデルはどれだけ賢くなるか」という一軸で語られがちですよね。モデルのベンチマークスコアが伸びたとか、伸び悩んでいるとか。その軸だけで見ると、確かに最近は「停滞してるんじゃないか」という見方もあるんじゃないかと思います。
でも、実際にユーザーとして使っていると、進化はもっと多面的に起きているんです。モデル本体のアップデートがいまいち進まないなと思っている間に、音声モードみたいな違うところの機能が上がっていく。メモリーが良くなる。インターフェースが良くなる。それが順繰り順繰りに、螺旋状に上がっていって、AIの総合的なレベルが上がっていく。
だから、「AIの進化は止まりつつあるのか?」という問いへの私の今の答えは、「賢さという一軸で見れば鈍って見えるが、体験という面で見れば進化は良い感じで続いている」です。そして、AIの進化を実感するために見るべきなのは、モデルのベンチマークではなく、「自分の生活のどの場面にAIが入ってきたか」なんじゃないかと思います。私の場合、それは「散歩」でした。
まだまだ足りないなと思うところはいっぱいあります。でもそれは、AIに対する期待値が上がっちゃってるということでもあるんですよね。そういうところを1つ1つ確認しながら、使い方を変えていくといいのかなと思っています。
というわけで、今日はClaudeの新モデルから始まって、AIの螺旋状の進化について歩きながら考えてみました。
この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
関連ブログ Related Blog
6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える
2025.9.9
AI時代だからこそ、日本型雇用に意味がある?早期退職1万人時代に考える新しい働き方 – 歩きながら考える vol.123
今日のテーマはAI時代の次世代の雇用における当たり前を探る件について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心... more
6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ不確実性の回避(UAI)個人主義(IDV)女性性・男性性(MAS)歩きながら考える
2025.6.6
若手の早期離職を防ぐには? ホフステードの視点で考えるキャリア設計 – 歩きながら考える vol.58
今日のテーマは、文化的価値観の観点から見る若手のキャリア意識について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心... more
6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える
2025.10.27
AI時代の日米格差:若者の失業率は低いのに、日本企業が危ないと思う理由 – 歩きながら考える vol.155
今日のテーマは、AIによる若年失業率の日米差の今後について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる... more