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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ不確実性の回避(UAI)歩きながら考える
2026.7.6 NEW
「不確実性の回避」が機能するとき、しないとき – 歩きながら考える vol.324
渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)
今日のテーマは、組織の書類仕事から考える「機能する/機能しない不確実性の回避」について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日は移動時間を使って、最近ちょっと引っかかっていることを話してみようと思います。組織の書類仕事って、ちょっと変なことになってないかな?と感じることが自分自身でもちょいちょいあるんですよね。歩きながら、ゆるく考えてみようと思います。
書類へのフィードバック、それ自体はすごく大事
他人が作った書類や文章に対して、課題を指摘して修正を求める。これって、組織の中でよくあることですよね。大学でも、民間企業でも、論文の査読でもそうです。
で、このフィードバック自体は非常に重要なわけです。いろんな人の、いろんな観点からの指摘が入ることで、内容の妥当性や安全性、正確性が高まっていく。日本だと伝統的には稟議というやり方で、書類を回覧しながら関係者の確認と修正を重ねていくということをやってきましたし、今もそういう組織は多いんじゃないかと思います。
ただ、先日あるやり取りをしていて、ふと思ったんです。「これ、どこまでやるのが正解なんだろう」と。書類の完成度を極限まで上げようとすると、途中からさちってくる(頭打ちになってくる)んですよ。安全性の確保やリスク低減にはほとんど関係がないのでは?と思うような、非常に細かい修正のフェーズに入っていく。この違和感を、今日は少し深掘りしてみたいと思います。

「不確実性の回避」が支える、良い規律
この話、私の専門であるホフステードの文化的次元の枠組みで捉え直すと、見えてくるものがあります。
ホフステードの言う不確実性の回避とは、曖昧さやリスクに対してその文化がどれだけ不安を感じ、規則や手続きでコントロールしようとするか、という傾向のことです。日本はこれが高い文化(スコア92)とされています。
で、これ自体は全然悪いことじゃないんですよね。リスクをゼロにすることはできないけれど、検討が甘いが故の事故はまずい。だから基準点を設けて、それを下回らないように書類で丁寧にプロセスを確認する。この姿勢が、事故や不正を防ぎ、組織への信頼を支えてきた。いわば機能する不確実性の回避です。決まった手順を丁寧にやり切る力は、日本の組織の仕事の質の高さを支えてきた強みでもあると思います。
目的を見失ったとき、「機能しない完璧主義」が始まる
問題は、この不確実性の回避が、目的とのつながりを失ったときです。
書類を作ること自体は、目的ではないですね。何か目的を達成するために、その記録や確認のプロセスとして書類がある。たとえば研究者なら、質の高い研究を数多く世に出すことが目的で、それを安全に確実に進めるために書類がある。企業なら、良い製品やサービスを届けることが目的で、そのための稟議です。
そして、時間は有限です。だとすると、書類仕事に割ける時間には、おのずとリミットが決まってくるはず。基準点を上回っていれば十分なはずなのに、「より良くしよう」という感覚がそれを許さない。そうなると、本来の目的に投下すべき時間やリソースが、そこから削られていく。ここには明確なトレードオフがあります。手段の目的化とでも言うべき現象で、こうなるともう、機能しない不確実性の回避、悪い意味での完璧主義です。
厄介なのは、これが誰かの悪意によるものではない、という点なんですよね。むしろ「よりよくしよう」「正しくしよう」という善意で出来ている。フィードバックする側の指摘は、一つひとつ見れば間違っていない。確かにその修正をすれば書類の完成度は上がる。でも、正しい指摘を積み重ねた結果として、組織全体の目的達成にとってマイナスになってしまう。

「問い続ける仕組み」を、組織に持てるか
じゃあ、どうすればいいのか。
私は、不確実性の回避や完璧主義という文化的な特性そのものを変えようとする必要はないと思っています。これは日本の組織が長年培ってきた強みでもあるからです。大事なのは、「今、この基準やルールは、本来の目的に対してちゃんと機能しているか」を問い続ける仕組みを、組織の中に持てるかどうか。
書類のフィードバックって、同じコミュニティの中で相互にやり合っているものじゃないですか。だとすると、そのコミュニティの中で「我々は何を目指していて、どういうバランスでやっていくのか」という共通の目的意識が、強く共有されていなければならない。「その指摘は正しい。でも、それをやると共通の目的の阻害になる」という線引きを、折に触れて話し合い、組織の常識として学んでいく。いわば、コミュニティとの関わり方そのものに対するメタなフィードバックです。リーダーがその方向づけの役割を担うこともあるでしょう。
この仕組みがないまま、それぞれが「正しい指摘」を積み重ねていくと、組織はいつの間にか官僚化していく。そんな気がしています。
まとめ:正しい指摘の積み重ねが、目的を遠ざけることがある
というわけで、今日は書類のやり取りから始まって、機能する/機能しない不確実性の回避の話まで、歩きながら考えてみました。一つひとつのフィードバックは正しいのに、全体としては目的から遠ざかっていく。この構造、みなさんの職場にもありませんか?「うちではこうやって線引きしてるよ」という話があったら、ぜひコメントで教えてください。
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また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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