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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える

2026.7.1

そのAIは、ガイドか、コントロールか? – 歩きながら考る vol.321

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、自分を測ってくれるAIは私たちを自由にするのか、ということについて。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は朝の通勤中に、歩きながら考えたことを話してみようと思います。最近ずっと気にしている数字の話から始まって、なんだか少し先の未来の話まで広がっていったので、ゆるく共有してみますね。

よく動く数字ほど、人は引っ張られる

私、Apple Watchをもう5年くらい付けていて、毎朝起きた瞬間に前日の睡眠とか血中酸素とか、いろいろな数値をチェックするのが日課みたいになってるんですよね。

で、その中で今いちばん見てるのがVO2maxっていう指標なんです。これは最大酸素摂取量といって、激しい運動中に1分間で体重1kgあたりどれだけの酸素を取り込んで利用できるかを示す、持久力の総合的な指標なんですね。で、これが結構変動するんですよ。

面白いのは、他の指標があんまり動かないことなんです。心拍とか、HRV(心拍変動)みたいな、ストレスと関係してると言われる指標は、正直、日々のばらつきはあってもベースラインから大きくはずれない。ところがVO2maxは、ランニングを継続的に入れていると、まあまあ明らかに上がっていく。で、サボると下がる。実際、私は今年2月の京都マラソンが本当に最悪だったんですけど、振り返ってみると前年の6月くらいからずっとVO2maxが低下傾向で、2月が底だったんですよね。数字がちゃんと体感と一致してた。

ここで気づくことがあって。よく反応する指標は、フィードバックとして使いやすいんです。自分のやったことが数字で返ってくるから、ついそこに意識が向く。でも、これって裏を返すと結構危ないんですよね。反応のいい数字ほど、人はそれに引っ張られる。VO2maxを上げ続けることを目的にしだすと、その時間を確保するために、仕事のクオリティを落としたり、家族や友達との時間を削ったり、ということが起こりうる。測ることが、いつのまにか生活を支配しはじめるわけです。

AIがウェアラブルに入ると、測れるものが一気に増える

で、ここからが今日考えたかったことなんですけど。

最近、メガネ型のデバイスとか、AIがウェアラブルに入ってくる流れがあるじゃないですか。あれを使っていると、ふと思うんですよね。AIとのやりとりのデータから、これまで取れなかったいろんなことが指標化できそうだなと。

今は身体のバイオトラッカーが測りやすいから、どうしても身体の数字ばかりが指標になる。でも、幸福に関連することって、体以外にもいろいろあるはずなんですよね。今日どれくらい親しい人と深い話をしたか、とか、自然など景色の良いところを歩いたか、とか。こういうのは、普通だったらデータとして取れなかった。でも、日常的にAIを使うようになれば、会話や行動の記録から、こういう「測りにくかったもの」も拾えるようになると思うんです。技術的にはもっと進むでしょう。たとえば会話の内容から認知の状態を推定するような研究は実際に走っていて、語彙の多様性や言い間違いから「物忘れ指標」みたいなものすら作られるかもしれない。

で、ここで本当に面白いのは、指標が増えること自体じゃないんです。複数の指標のデータがたまってくると、「自分の中での指標どうしの関係」が見えてくるということなんですよね。自分の場合、運動を増やすと深い会話が減るのか、それともむしろ機嫌が良くなって関係も良くなるのか。これは万人共通の法則じゃなくて、私だけのパターンとして立ち上がってくる。そして、それを解き明かして「あなたはこういう傾向がありますよ」と教えてくれるAIが現れる。

便利さの裏で、何が削られるのか

これ、一見すると最高の自己理解のガイドなんですよ。自分でも気づかなかった自分のクセを教えてくれるんだから、こんなにありがたいことはない。

ところが、ここでさっきの話が効いてくるんですよね。反応のいい数字にすら、人は引っ張られるんでした。考えてみると、私たちはもう日常的に、それをやっているわけです。スマホの通知が鳴れば反射的に見てしまうし、歩数が目標に届いていないと、ちょっと遠回りして帰ったりする。すでに私たちは、数字や通知にけっこう従って動いている

だとすると、VO2maxという単純な数字一つでもそうなのに、自分専用に最適化された、これ以上なく説得力のある解釈を差し出してくる存在を前にしたら、どうなるか。「今日は会話が足りていません」「もっと自然に触れましょう」——その助言が的確であればあるほど、従うことが心地よくなる。気づいたら、自分の一日を、外部の数値とその解釈者に明け渡している。

ここで削られていくのが、自律性です。何を大事にしてどう生きるかを、自分で決める力。これは心理学では幸福の中核に置かれる要素なんですけど、皮肉なことに、「幸福を測ろうとする仕組み」によってこそ自律性が削られるかもしれない。優秀なガイドは、いつのまにか最も抵抗しがたいコントロールに化ける。同じ一つの仕組みが、ガイドにもコントロールにもなりうるわけです。

自律性を手放さずに、ガイドにとどめられるのか

じゃあ、ガイドとコントロールの分かれ目はどこにあるのか。理屈で言えば、答えははっきりしています。主導権を自分の側に残せばいい。AIが「あなたはどう生きるべきか」というところまで肩代わりして最適な行動を出力してくるなら、それはコントロール。AIが自分のパターンを差し出すところで止まって、それをどう解釈して何を優先するかを人間の側に残すなら、それはガイド。答えを出す装置ではなく、自分で答えを出すための材料を広げる装置として使えばいい。——理屈では、そうなんです。

でも、本当にそんなことができるのか、と思うんですよね。

というのも、私なんて、VO2maxという単純な数字一つにすら引っ張られる。それくらい、よく反応する数字には力がある。だとしたら、自分専用に最適化された、これ以上なく的確な解釈を毎日差し出してくる存在を前にして、「材料はもらうけど、判断は自分でやります」なんて線引きを、人間は本当に保てるんだろうか。優秀なガイドに従うほうが、自分で迷うよりずっとなのに。楽なほうに流れないでいられる人が、どれだけいるんだろう。

つまり、自律性を手放さずに、AIをあくまでガイドにとどめる——そんな都合のいい付き合い方が、そもそも成り立つのか。正直、私の中でまだ答えは出ていません。でも、これはこれからの時代、ちゃんと考えないといけない問いだと思っています。

というわけで、今日はVO2maxの話から始まって、AIに測られる時代の自由について、歩きながら考えてみました。この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。それでは、また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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