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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ個人主義(IDV)歩きながら考える

2026.6.29

SF映画で出てきたエイリアンがやたら集団主義っぽかった話 – 歩きながら考る vol.319

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、一本のSF映画から考える、個人主義と集団主義について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は移動時間を使って、最近観た映画の話をしようと思います。ただの感想ではなくて、観ているうちに「これって、個人主義が迷走しているって話だよな」と思えてきた、という文化の読み解きの話です。歩きながら、ゆるく話してみますね。

「岩のエイリアン」が、やたらと集団主義的だった

観たのは『プロジェクト・ヘイルメアリー』という映画です。そろそろAmazonプライムでも観られるようになるみたいなので、興味があったらぜひ。私が大好きなクリストファー・ノーランの『インターステラー』にちょっと雰囲気が似ていて、それで気になって観たんですよね。

ざっくり言うと、太陽のエネルギーを吸い取ってしまう「アストロファージ」という微生物が宇宙で増殖して、太陽が弱り、地球が寒冷化の危機に瀕する。その解決のヒントを求めて、たった一人で探査船に乗せられた主人公ライランド・グレースが、宇宙の彼方で、同じ問題に悩む別の星から来たエイリアンと出会う、という話です。

このエイリアン、岩石みたいな見た目なので、主人公が「ロッキー」と名付けるんですが、このエイリアンの心の仕組みが、観れば観るほどすごく集団主義的なんですよ。

まず、距離の詰め方がやたら近い。意思疎通ができるようになった途端、主人公の生活スペースにズカズカ踏み込んできて、「汚いな」だの何だの、ああだこうだ言ってくる。プライバシーとか個人の領域という感覚が、どうも希薄なんですね。

極めつけが寝方でした。エリディアンと呼ばれるこの種族は、眠ると体が完全に麻痺して無防備になってしまうので、誰かが必ずそばで見守っていなければならない。だから仲間同士、重なり合うようにして眠り、交代で見張りをする文化を持っている。「一人で眠る」という発想が、そもそも存在しないんです。

「誰と寝るか」には、文化が表れる

この寝方のシーンを観た瞬間、「あ、これは集団主義の話だ」と確信しました。というのも、添い寝には文化がくっきり表れる、という研究を思い出したからです。

アジア圏では、親と子が「川の字」になって寝ますよね。日本も昔はそうだったし、今でもそういう家庭は多いと思います。兄弟や親、場合によっては親戚も含めて、同じ部屋で寝る。一方アメリカは個室文化で、生まれる前から子供部屋が用意されていて、赤ちゃんのうちから親とは別の部屋で一人で眠る。

これ、その後の個人主義的・集団主義的な価値観と結びついているんじゃないか、という議論が古くからあるんです。実際、17か国・約3万人の乳幼児を対象にした大規模な国際比較調査でも、ベトナムなどアジア諸国では親との添い寝率が80%を超える一方、ニュージーランドやカナダでは5〜6%にとどまる、という結果が出ています。

考えてみれば、アジア圏に留学した日本人が驚く話って昔からよくありますよね。学生寮に入ったら、自分の持ち物と友達の持ち物の境目が曖昧で、気づいたら友達が自分のTシャツを着ている、みたいな。「これは私のもの、これはあなたのもの」という所有の境界が曖昧になる。プライベートな空間や情報の線引きが緩くなる。寝床から所有まで、集団主義の方が個人主義に比べるとこのあたりの境界線が曖昧です。ロッキーがまさにそうで、もう完全に集団主義の住人なんですよ。

個人主義の作り手が、集団主義に心を打たれる不思議

ネタバレになるので核心は伏せますが、この映画には、主人公が大きな心理的変化を迎えるシーンがあります。そしてそれが、集団主義的な献身、自己犠牲としか言いようのないものなんですね。

「自分一人の生存だけを考えたら、合理的には絶対に選ばない選択」。こういう振る舞いは、集団主義の文脈でこそ色濃く語られてきました。自分の命を落としても、集団が、仲間が生き延びるなら、名誉が保たれるなら惜しくない――時代劇なんかでおなじみの感覚です。そして主人公は、その献身的な振る舞いに、確かに心を打たれる。

ここに、私はちょっと面白いねじれを感じたんです。

今の世界は、基本的に個人主義がマジョリティです。産業化が進み、市場経済が世界を覆い、個人が自分の利益を最も合理的に追求すれば、市場のメカニズムを通じて全体の利得も最大化される――そういう前提の上に、私たちの豊かさは築かれてきた。この価値観からすると、集団主義的な自己犠牲なんて、一見すると非合理で、周縁に追いやられた古い価値観に見えるわけです。

ところが、です。その個人主義のど真ん中にいるはずのハリウッドが、巨額を投じて、「集団主義的な献身に心を打たれる物語」を作って、世界中に届けている。これって、個人主義社会が、自分たちに欠けているものを無意識に探し始めている、ということなんじゃないか。そんなふうに思えたんですよね。

では、個人主義は「進歩」だったのか

そう考えると、ひとつの問いが浮かんできます。個人主義って、人類にとっての「進歩」だったんだろうか?

長らく、答えはほぼ自明とされてきました。個人の自由や自律、権利の尊重は、世界が向かうべき普遍的な到達点だ。集団主義は、そこへ至る前の、いずれ卒業すべき段階にすぎない――と。

でも、個人主義を突き詰めた先に見えてきたのは、アメリカの深刻な社会的分断であり、地球温暖化に象徴される「全体としての持続可能性」への疑念でした。みんなが自分の利益を最適に追求した結果、全体が立ち行かなくなる。個人主義は、到達点に着いたというより、どこか道に迷い始めているように見える。

ただ、ここで「だから集団主義に戻ろう」と言いたいわけではないんです。そもそも「進歩か後退か」と一直線で考えること自体が、極めて個人主義的な発想なのかもしれない。大事なのは、個人主義が勝ち取った自由や自律を手放さずに、集団主義が守ってきた相互依存や献身、持続性のエッセンスを、どう編み直すかということだと思うんですね。

そして、その手がかりは、価値観の「中心」ではなく、むしろ周縁にあるんじゃないか。世界の主流から見れば、日本の相互協調的な文化は、マイノリティ中のマイノリティです。でも、だからこそ、グローバルな未来に向けて、周縁地から発信できるメッセージがあるんじゃないか。サッカーの日本代表を観ていても、私はそんなことをよく考えます。

というわけで、今日は一本のSF映画から、個人主義と集団主義について歩きながら考えてみました。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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