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ブログ歩きながら考える

2026.6.25

ワールドカップに見る「いい競争」の作り方 – 歩きながら考る vol.316

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、チーム内競争について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日はお昼休みを使って、歩きながら考えてみようと思います。今ちょうどワールドカップの真っ最中で、観ている方も多いんじゃないでしょうか。今日はそのサッカーをきっかけに、「チームの中の競争」について考えてみたいんです。

きっかけは、今週、私の博士論文の指導教官だった内田由紀子先生の、そのまた恩師にあたる北山忍先生のお話を聞く機会があったことです。北山先生は、相互独立的・相互協調的自己観という概念を1991年に提唱した、文化心理学という分野を築いた方の一人です。

その北山先生が、最近アフリカの研究をされていて、ちょっと意外な話をされていました。相互協調的・集団主義の社会では、ふつう仲間内の「協力」が大事にされると考えられますよね。ところがアフリカのいくつかの国の文化では、家族や友人といった一番身近な人こそがライバル、いわば「敵」として意識されているというんです。集団への帰属意識が強い人ほど、身内を競争相手とみなす。私たちが「集団主義=みんな仲良く協力」とイメージするのとは、ずいぶん違う。

ここで面白いと思ったのは、ひとくちに「集団でまとまる」と言っても、その中身にはいろんなパターンがあるんだな、ということです。協力でまとまる集団もあれば、競争を抱えたままのまとまり方もある。ここで思うのは、集団の中の競争は、集団を壊すことも、逆に強くすることもあるということです。じゃあ、その分かれ目はどこにあるのか。今日はそこを掘ってみたいんです。

競争はチームを強くするのか、それとも壊すのか

まず素直に考えると、チーム内の競争は、チームを強くする可能性が有ります。ちょうどワールドカップ中なので、北山先生は、これをサッカーチームに喩えていらっしゃいました。

サッカーにはポジション争いがありますよね。みんな試合に出たいから必死に上手くなろうとして、結果的にチーム全体のレベルが上がる。チームが強くなれば、選手一人ひとりもその恩恵を受けられる。健全な切磋琢磨が、個人とチームの両方を引き上げてくれる。理想的な話です。

でも、そんなに上手くいくでしょうか。

というのも、集団の中で自分が抜きん出る一番手っ取り早い方法は、しばしば「ライバルの足を引っ張ること」だったりするんですよね。自分が成長するより、相手を蹴落として相対的に順位を上げるほうが、簡単で確実なことも多い。この誘惑は、かなり強い。

会社で考えるとわかりやすいと思います。出世争い派閥争いの中で、ライバルの悪い噂を流したり、対立するグループの仕事を妨害したり。残念ながら、よく見かける光景ですよね。政治の世界を見ても、内輪の競争がいい結果ばかり生むわけではないのは明らかです。「競争すれば人は伸びる」というのは、けっこう牧歌的な話で、放っておけば競争はかんたんに足の引っ張り合いに堕ちていく可能性があります。

カギは「二択で考えない」こと

さて、競争はチームを強くするという話と、競争はチームを壊すという話、正反対の二つが出てきました。じゃあ競争はあったほうがいいのか、ないほうがいいのか。

私が思うのは、この二択で考えないことが大事だ、ということなんです。競争をなくすのでも野放しにするのでもなく、競争を保ったまま、それが個人にもチームのためになる仕組みを作る。競争を消すのではなく、協調と競争を両立させる。これが今日いちばん言いたいことです。

ポイントは、「まっとうに競争したほうが、結局は自分の得になる」というリアリティを、メンバーが実感できる設計になっているかどうか。

またサッカーで考えてみましょう。たとえ自分が2番手、3番手でも、シーズンは連戦が続くし、レギュラーメンバーの怪我もある。だから、チャンスは必ず巡ってくる。その時に目を見張る活躍をすれば、評価は確実に上がる。こういうシナリオがリアリティを持って感じられる環境であること。しかもチャンスは、自分の本来のポジション以外でも生まれます。いろんなスキルを身につけて複数のポジションをこなせるようにしておけば、出番を掴む確率はさらに上がる。だったら、人の足を引っ張っているより、自分を磨いたほうが得だ――そういうリアリティが、ちゃんとそこにあることが大事だとまず思います。

制度を支える「文化」が要る

ただ、仕組みだけでは足りないと思うんです。人間どうしても「自分が、自分が」となるものだし、個人主義に馴染んだ若い世代ならなおさらです。競争相手の失敗を願う魅力は結構強力です。だから、競争と協力を両立させる文化もセットで必要になる。

今回のワールドカップで象徴的だったのが、ベテラン選手の振る舞いでした。サポート役としてチームに帯同している吉田麻也選手と南野拓実選手が、試合後のロッカールームで、出場した選手の汚れたスパイクを磨いたり、使ったユニフォームを片付けたりしていた――そんなエピソードが報じられていました。本来、あれだけの実績を持つ選手がやる仕事ではありません。でも、影響力のある人があえて率先して裏方に回ることで、「ここでの競争は、協力が前提だ」というメッセージが、チーム全体に静かに伝わっていく。競争そのものは悪じゃない、ただし全員が成長できる競争にしよう――そんな方向づけが、文化として根づいていくうえでベテランの振る舞いは非常に大きいと思います。

「自分の得になる」と実感できる制度と、それを支える文化。この両輪が揃ったとき、チーム内の競争は、足の引っ張り合いではなく、本物の切磋琢磨に変わるんじゃないか。森保ジャパンを観ていると、そんなことを考えます。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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