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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ女性性・男性性(MAS)歩きながら考える
2026.6.12
勝てる組織は、厳しさと優しさのどちらを取るのか?― 森保ジャパンの男性性と女性性- 歩きながら考える vol.308
渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)
今日のテーマは、サッカー日本代表・森保一監督から考える「男性性・女性性」について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日も歩きながら、森保監督の話の続きをしようと思います。森保ジャパンを題材にした組織文化の話、今回で3回目になります。1回目は権力格差、2回目は個人主義・集団主義を取り上げましたが、今日はホフステードの次元の中でもちょっと分かりにくい、女性性・男性性というレンズで見てみたいと思います。
平日はずっとビデオを見ている監督
きっかけは前回までと同じく、スポーツジャーナリストの木崎伸也さんの『逆転監督 森保一』(文藝春秋)です。
木崎さんの話を見ていて面白いなと思ったんですが、森保監督って、すごいハードワーカーらしいんですよ。
代表チームには、ピッチに立つ11人やベンチに入る選手のさらに外側に、「もしかしたらAチーム・Bチームに入ってくるかもしれない」という候補選手まで含めた「ラージグループ」という大きな選手のプールが想定されているんだそうです。で、森保監督は、このラージグループの選手たちのプレーを、もうめちゃくちゃ見ている。週末に試合があったとすると、平日はずっとビデオを見ているような生活なんだとか。
そして、同じことを当然チームにも求めるわけです。試合におけるハードワークを選手に要求する。実際、日本代表の試合を見ていると、やっぱりプレスが速いなと思うし、手を抜いている感じが全然ない。気持ちいいサッカーをしてるなと私は思って見ているんですよね。
これは、ホフステードの指標で言うと男性性の価値観です。男性性というのは、勝つこと・成功すること・高い目標を達成することに価値を置く文化的傾向のこと。プロスポーツは勝敗がはっきりつく世界ですから、男性性の価値観が重要になるのは当然で、森保監督はそれを「ハードワークをする・してもらう」という行動で実現しようとしている、というわけです。

深夜便で帰る選手を、見送る監督
ただ同時に、森保監督には、なんというか女性性が高そうだなと感じるところもあるんですよ。
木崎さんの話で印象的だったのがこれです。親善試合などで日本代表に選手を呼ぶと、選手はヨーロッパから来ます。スケジュールの関係で、試合が終わってすぐ深夜便で所属クラブに戻って、そのまま試合に出なければいけない、というかなりタフな日程になることもあるそうです。そういうとき森保監督は、選手一人一人に「今回来てくれて本当にありがとう」と感謝を述べて、チームで見送りをしているとのこと。木崎さんの記事でも、早朝に選手を見送る監督の姿が紹介されています。選手たちにとっても、感じるところのある行動なんだそうです。
これ、女性性の価値観ですよね。ホフステードの言う女性性とは、全体の調和や、他者へのケア・思いやりに価値を置く傾向のことです。勝つこと、成功すること、ハードワークという価値観を持ちながら、同時に一人一人への思いやりとケアを行動で示している。
真逆の価値観を、両方持ち込む
面白いのは、この男性性と女性性という真逆の価値観が、別々の人物に分かれているのではなく、森保監督という一人の中に同居していることなんですよね。
これ、どちらかに寄りすぎると、組織はうまくいかなくなると思うんですよ。男性性に寄りすぎれば、あまりにも勝利至上主義になってチームが疲弊し、長期的には持たないかもしれない。逆に女性性に寄りすぎれば、今度は勝ち負けにこだわらない姿勢になって、結果が出ないという話になるかもしれない。
だから、どちらかを選ぶのでも、真ん中で薄めるのでもなく、両方を薄めずに持ち込む。そうすることで価値観の間に緊張感が生まれて、その緊張感が結果につながっているんじゃないか。
この構造、この連載の1回目・2回目で書いた「綱引き」と同じです。権力格差でも、個人主義・集団主義でも、強いチームは両極のどちらかに振り切るのではなく、両方の綱をぴんと張ったまま保っていました。ただ今回少し違うのは、綱の両端が監督と選手の間ではなく、監督一人の内側に張られているということ。森保監督自身も「人を育てようと思ったら、優しさと厳しさは絶対的に必要」と語っているそうで、この両極の同時保持は、どうやら意図的なもののようです。

まとめ:どちらかではなく、両方を
というわけで、今日は森保監督のハードワークと、深夜便で帰る選手の見送りという二つのエピソードから、男性性と女性性の「綱引き」について考えてみました。
勝利と成功を追うのか、それとも調和とケアを大切にするのか。組織のマネジメントでは、つい「どちらか」を選びたくなります。でも森保ジャパンを見ていると、必要なのはどちらかを選ぶことではなく、真逆の価値観を両方持ち込んで、その間の緊張感を引き受けることなのかもしれません。
ちなみに、ホフステードの調査では、日本は世界でも有数に男性性の高い国です。放っておけば、組織は「勝て、完璧にやれ」の方向に引っ張られやすい。だとすると、日本の組織で意識的に張るべきなのは、女性性側の綱のほうなのかもしれないな——そんなことも思います。
この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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