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今日のテーマは、人材育成から「AI育成」へと業界の重心が移っていくかもしれない、というお話。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日も歩きながら、最近ぼんやり考えていることを話してみようと思います。テーマはAIなんですが、技術そのものというより、「組織はこれからAIをどう“育てて”いくことになるんだろう」という話です。
AIに「文脈」を教えるのは、新人育成とよく似ている
AIに良いアウトプットを出してもらうには、コンテクスト(文脈)を設定することがすごく大事じゃないですか。もう、AI開発の中枢にいる人たちには当たり前の話なのかもしれませんが。
で、私たちが仕事の中で意思決定をするときって、けっこう重層的な文脈の中で判断してますよね。「普段ならこうするけど、今回はこういう状況だからこうしよう」みたいな。その文脈をつかんでいるからこそ、的確な判断ができる。当然、AIもそういう文脈を理解しないと、適切なアウトプットは出せないわけです。
そしてこれ、よく考えると人材育成とまったく同じ構造なんですよね。新人にまず基礎的なスキルを身につけてもらうのは大事だけど、上位の仕事になればなるほど、事業に深く関わるほど、重層的な文脈の理解がものを言う。だから結局、OJT(現場での実地訓練)で学んでもらうしかない、という話になる。文脈の知識って、現場に入らないとよくわからないからです。
面白いのは、AIはすでに推論や計算、文書化といった基礎スキルでは人間をはるかに凌駕している、ということ。だとすると、これから差がつくのは「いかにその組織固有の文脈をAIに持たせるか」なんじゃないか。つまりAI育成こそが、これからの肝になりそうなんです。

ところが「文脈を読む力」が何なのか、人間にもわかっていない
ここで、ちょっと立ち止まらざるを得ない問題が出てきます。
そもそも「文脈を読む力」って、一体何なんでしょう。これ、人間についてもよくわかっていないと思うんですよね。IQ(知能指数)に関係しているのか、EQ(感情知性)なのか。メタ認知(自分の認知を客観的に捉える力)なのか、一般知能(g因子)なのか。関係しそうな概念はいくつも思い浮かぶけど、「これだ」と特定できない。
私はこのあたりの認知の専門家ではないので、研究者の間ではもう答えが出ているのかもしれません。でも、おそらくかなり難しい問題なんじゃないかと思うんです。仮にどの能力が効いているのかわかったとしても、「じゃあそれをどう教えるのか」というのは、さらに難しい問いとして残りますよね。
ここが、今日いちばん引っかかっているところでして。定義できないものは設計できないし、設計できないものは教えられない。 人材育成でOJTが代替しにくいのとまったく同じ理由で、AIに文脈を習得させる体系的なやり方を確立するのも、原理的にけっこう難しいのかもしれません。

たぶん、AI育成が「うまい組織」と「そうでない組織」に分かれる
で、ここからが私の見立てなんですが。
人材育成に「育てるのがうまいマネジャー」と「そうでないマネジャー」がいるように、AI育成にも巧拙の差が出てくるんじゃないかと思うんです。うまく育てられる人・環境と、そうでない人・環境に、くっきり分かれていく。
そうなると当然、自分の手に負えなくなった組織は外注に走りますよね。「うちのAI、うまく育たないので専門家にお願いします」と。ところが——ここが面白いところだと思うんですが——AI育成の外注は、構造的にうまくいきにくい気がするんです。
なぜなら、コンテキストって外から持ち込めるものじゃないから。その組織の業務や歴史、判断基準、暗黙知が積み重なったものですよね。外部の専門家は「文脈を入れる器」の作り方は教えられても、「中身」は組織の内側にしかない。これ、人材育成における「外部研修の限界」とそっくりな気がしませんか。研修で型は学べても、現場の機微は現場でしか身につかない、という。
結局、頼りになるのは「文脈を知っている人」かもしれない
そう考えていくと、AI育成は、たぶん外注できる部分とどうしても内製しなきゃいけない部分に分かれていくんだと思います。設計や方法論、ツールは外注できる。でも、コンテクストの中身を更新し続けることは、組織の内側でやるしかない。
そして皮肉なことに、この「AIに文脈を教えられる人/組織の文脈をAIに教えられるように整理できる人」こそが、いちばん希少で、いちばん育てるのが難しいような気がするんですよね。
ここで思うのは、AIが基礎スキルを肩代わりしてくれる時代に、人間に残る最重要の仕事は、むしろ「文脈の番人」みたいな役割になるのかもしれない、ということ。長年OJTで文脈を体に染み込ませてきた、いわゆる熟練の人たち。彼らの価値が、AI時代にこそ見直されるとしたら、なんだか逆説的で面白いなと思います。
とはいえ、じゃあその「内製でしか宿らない力」を、どうやって組織に根づかせればいいのか。正直、ここはまだ私もよくわかっていません。みなさんの職場では、AIを“育てる”うまさみたいなもの、感じることってありますか?
というわけで、今日は人材育成からAI育成へ、というテーマで歩きながら考えてみました。この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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