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ブログ歩きながら考える

2026.6.8

音声入力ツールが「暴走」した日に気づいたこと – 歩きながら考える vol.304

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、AIエージェントのリスク管理と、それが一般人にとっての新しいリテラシーになるという話について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

音声入力ツールが「暴走」した話

で、まずそのきっかけの話から。

私、最近はタイピングの代わりに音声入力を積極的に使っていて、少し前からTypeless(タイプレス)というサービスを使っています。以前はAqua Voice(アクアボイス)を使っていたんですが、乗り換えた理由があって。

Aqua Voiceは、話したことをそのまま正確に文字起こししてくれるタイプのツールです。一方、Typelessは話した内容を「そのまま書き起こす」というよりも、一度整理してきれいにまとめようとする設計になっています。箇条書きにしたり、繰り返して言ったことを1つにまとめてくれたりする。AIへの指示出しやブログのたたき台を音声で話すという使い方をしている私には、Typelessの方が「AIが受け取りやすい形」に整えてくれるので、合ってるなと思って使っているんですね。

ところが、このTypelessの「まとめようとする機能」が、たまに盛大に暴走するんですよ。

専門用語が多かったり、発音がちょっと不明瞭だったり、マイクの調子が悪かったりすると、Typelessが文脈を勝手に設定してしまって、私が言ったこととまったく関係のない文章を生成し始めることがあるんです。しかもこのモードに入ると、何を言い直しても修正されない。そういうときはAqua Voiceに切り替えて、逐次文字起こしで対応するしかない。

で、これを体験しながら、ふと思ったわけです。「AIエージェントを業務フローに組み込んだとき、この手の問題が起こったらどうするんだろう」と。

AIエージェントが「どこで」おかしくなったか、わかるのか

今、自分の業務プロセスにAIエージェントを複数組み込んでいくというやり方が現実的になってきていますよね。それぞれのタスクをこなすエージェントが連なって、一連の業務フローを自動化していくイメージです。

でも、そこに1つ大きな問題があると思っていて。それは「どこかのエージェントの挙動がおかしくなったとき、人間にはわかりにくい」ということです。

それぞれのアウトプットが容易に可視化できるような場合—例えば工場のラインで機械が動いている状況—なら、最終アウトプットがおかしいと気づいたとき、ラインのどこに問題があるかは人間にとっては把握しやすいかもしれない。でも、AIエージェントの連鎖の中で問題が起きた場合、どのエージェントが誤った判断をしたのかを特定するのは、そんなに簡単に出来るのだろうか。

じゃあ、各エージェントの挙動をモニタリングするAIを別に立てればいい、ということになりますよね。実際、そういう設計は「階層型エージェント・システム(Hierarchical Agent System)」と呼ばれているそうで、すでに現実のAI開発の世界では標準的なアーキテクチャの1つになっているそうです。タスクをこなすAI、それを監視するAI、さらにその監視AIを監視する上位のAI……というピラミッド構造です。

ただ、ここで頭が痛くなる問いが出てきますよね。「監視するAIの挙動については誰が確認するのか?」という話です。これ、突き詰めると堂々巡りになりかねない、なかなか根深い問題じゃないでしょうか。

「コードは書けなくていい、でもリスク設計は学ばないといけない」

で、ここから先が、私が最近本当に気になっていることです。

Claude Codeのようなツールが登場したことで、エンジニアでない一般の人でも、複雑なシステムを自分で構築できる時代になってきました。コードの書き方そのものは、もはや一般の人が深く学ぶ必要がない時代になりつつあるのかもしれない。

でも、だとすると逆に怖いなと思うのは、「中で何が起きているかを把握する手段が、ますます失われていく」ということなんですよね。コードが読めないということは、エージェントが誤動作したとき、その原因を自分でたどれないということでもある。Typelessの暴走を「なんか変なことになってる」とは気づけても、「なぜそうなったか」はわからない。

もちろん、この問題に対してソフトウェアエンジニアリングの世界ではすでに「オブザーバビリティ(可観測性)」や「ガードレール設計」といった考え方が発展していて、エージェントの思考プロセスや挙動の足跡をすべて記録・可視化したり、AIの外側に確定的なチェックポイントを設けたりといったアプローチが現実に使われ始めているそうです。ただ、それをどう設計・選択・組み合わせるかの判断は、やはり人間が行う必要がある

そう考えると、これからのAI活用に必要なリテラシーは、コードの書き方ではなく、AIは挙動がおかしくなることを織り込んだうえで、どうリスクを関するか、つまりリスク設計の思想なんじゃないかと思うんですよね。これは、既存のソフトウェア工学やシステム設計が長年かけて積み上げてきた知見なんだろうと思います。私自身、そこをちゃんと勉強しなきゃいけないなと感じ始めています。

リスク設計は「AI時代の必修科目」になった

ちょっとまとめると、こういうことだと思っています。

AIが便利になるほど、ユーザー側で出来ることが増える。同時にリスク対応の責任も増える、ということです。ツールの民主化は素晴らしいことだけれど、「使える」ことと「安全に運用できる」ことは別の話です。

既存のソフトウェア工学が「異常をどう検知し、どう復旧するか」についてどんな哲学を持っているのか。自分なりに勉強していきたいと思っています。

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また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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