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今日のテーマは、従業員のエンゲージメントに資するAIの使い方について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日は、午前中に読んでた論文の話を、歩きながらしてみようと思います。私自身、資料の整理や情報集めにAIをほぼ毎日使っているわけですが、これが働く人の幸福に繋がるのかどうかというのはなかなか難しい話だなと思っています。
効率化のためのAI、その先にある不安
AIの効果的な活用ってどういうものなのか。
いちばん思いつくのは、仕事の効率化に使うやり方ですよね。調べ物をしてもらったり、文章を整えてもらったり、アプリの操作をしてもらってアウトプットを作ったり。仕事が速く、楽になる。確かに助かっています。
ただ、これを組織全体に広げるとどうなるか。業務の一部をまるごとAIに置き換えて、組織として効率を上げていく。コストは下がるかもしれません。でも、これってよく考えると、いま話題のAI失業の話と地続きなんですよね。効率化という軸でAIを突き詰めるほど、行き着く先は「人手をどう減らすか」になっていく可能性が有ります。
つまり、効率化のためのAIは、突き詰めるほど雇用そのものを脅かしかねない。従業員のエンゲージメント(働く意欲や熱意)を高めるどころか、雇用不安を通じてむしろ削いでしまうおそれがある。ここで、最初の答えは行き詰まってしまうわけです。

「効率化」ではなく「聞く」ために使うAI
で、午前中に読んでいた研究が面白かったのは、まったく別の使い方を示していたからなんです。
インドのある企業で、「CEOのバーチャルアシスタント」という名前のチャットボットを導入した事例でした。このAIがやるのは効率化じゃなくて、「聞く」こと。絵文字で「最近どんな気分?」と尋ねて、その理由を対話的に深掘りしていく。感情やコンディションを聞き取る窓口ですね。
結果として、このAIと話した従業員のほうが、エンゲージメントが高かったそうです。しかも面白いのは、その効果が「自分は公正に扱われている」という感覚を経由して生まれていたこと。「組織が自分の声を聞いてくれた」という実感が、頑張ろうという気持ちにつながっていたわけです。
「聞く」と「監視する」は紙一重
ただ、素直に「じゃあAIに聞かせればいい」とはならないんですよね。
同じ仕組みは、見方を変えれば監視そのものでもある。自分の感情をAIに話すということは、それが組織に伝わるということでもあるわけで。実際この研究でも、回答は「上司には共有しない」という約束のうえで成り立っていました。その前提が崩れれば、たぶん誰も本音なんて話さない。むしろ意欲が下がってしまうかもしれません。
結局、AIが信頼の道具になるか監視の道具になるかを分けるのは、技術そのものではなくて、その「聞く」に善意の本気の意図があって、聞いた後にちゃんと行動が伴うかなんだと思います。トップが「本当は一人ひとりの話を聞きたい、でも組織が大きすぎて届かない」と本気で考えているなら、AIはその思いを増幅してくれる。逆に、管理のためや、聞くだけで何もしない言い訳に使えば、何もしないより速く信頼を壊してしまう。

ここで私の専門の文化の話も少し。ホフステードの枠組みで言うと、日本は権力格差や集団主義の傾向があって、職場では直属の上司や同僚に本音を言いにくいところがあるんですよね。面子や、集団のなかでの自分の立場が気になってしまう。だとすると、あいだにAIを一枚かませたほうが、かえって本音を出しやすいのかもしれない。今回の事例のインドも、権力格差が大きく集団のつながりが強い文化なので、案外似た事情があったのかもしれません。
同じAIでも、効率化の軸に乗せれば人を減らす方向へ、関係の軸に乗せれば人を繋ぐ方向へ。日本の職場でも、こういう「聞く」ためのAIは、うまく使えば働く人の従業員のエンゲージメントを上げる可能性が有るな、と思います。
というわけで、今日は「効率化じゃないAIの使い方」について歩きながら考えてみました。AIを、人を減らす道具としてではなく、人を繋ぐ道具として使えるのか。なかなか面白いテーマだと思いませんか。
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著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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