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ブログ歩きながら考える

2026.6.1

幸せは「増やす」より「減らさない」?──市民の幸福を考える話 – 歩きながら考える vol.299

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、市民の幸福をどう高めるか、について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は休憩時間を使って、ちょっと考えていることを話してみようと思います。私はいま京都市の幸福度調査に関わっていて、今年で2年目になるんですが、その中で「そもそも市民の幸福って、どうやったら上がるんだろう?」ということを、改めて考えているんですよね。

市民の幸福は「足し算」で増やせるのか

幸福度を上げる、という話になると、たいてい「何を足すか」を考えますよね。公園を増やす、イベントをやる、給付をする。要するに、いいものを足していけば幸福は上がるはずだ、という発想です。

ただ、ここで一つ引っかかることがあって。人を幸せにする要因って、一人ひとりバラバラなんですよね。ある人は人とのつながりで、ある人は仕事で、ある人は趣味で幸せになる。もちろん分析すると共通項は出てくるわけですが、その中身は多様で、打ち手を考えるのはなかなか難しい

一方で、人を不幸にする要因の方は、意外と共通しているんじゃないか、とも思うんです。例えば、年を取って体が思うように動かなくなる。病気になる。子どもが独立して、配偶者を亡くして、ひとりになる。こういう幸福度がガクンと下がり得る場面は、人生で割と誰にでも訪れる。つまり、幸福に関係するイベントは多様で個別的だけれど、不幸に関係するイベントはある程度人に共通して訪れるので予測できる。だとすると、「足す」よりも「先回りしてそれが起こったときにどう対処するか」を準備しておく方が、幸福度にとっては効くんじゃないかと思うわけです。

でも「防ぐ」だけでは、ゼロに戻るだけ

……と、ここまで考えて、すぐに反論も浮かんできました。

不幸を防ぐって、要するにマイナスをゼロに戻す話かもしれないですよね。孤独や不安を取り除いても、それで人が積極的に「生きがい」や「楽しさ」を感じられるかというと、別の話。リスク管理としては正しくても、それだけだと、幸福の本丸である「いきいきと生きている感じ」までは届かない。

しかも、「あなたはこの年齢で孤独になりやすいから」と先回りされるのって、ちょっとお節介にも感じませんか。人生のパターンを予測して手を打つというのは、裏を返せば、一人ひとりの多様な生き方を型にはめてしまう危うさもある。よかれと思った先回りが、かえって本人の自律性を奪うことだってありうる。ここは、けっこう悩ましいところなのかもしれません。

鍵は「人生を動画で見る」という考え方

で、たぶん答えは「増やすか/防ぐか」の二択じゃないんですよね。鍵になるのは、どんな人生の動画を予想するのかだと思うんです。

人生って、不幸が連鎖して雪崩を起こす瞬間がある。たとえば、配偶者を亡くす→孤独になる→外に出なくなる→健康を崩す、みたいに。この分岐点を見極めて、そこにだけセーフティネットを置く。これは不幸を消すことでも幸福を配ることでもなくて、その人がもう一度、自分らしい幸福を自力で取り戻せる足場を支えることなんじゃないかと。

そのためには、幸福度を「ある時点のスナップショット」ではなく、人生の軌跡=動画として見る必要がある。よくある幸福度ランキングって、結局は静止画なんですよね。そうじゃなくて、「どういう経路をたどると、高い幸福度のまま年を重ねられるのか」を、時間軸ごと見ていきたい。

AI市民に人生を語ってもらう、という発想

ここで最近面白いと思っているのが、AIを使って仮想の市民(AI市民)を作る、という方法です。これは社会科学では「シリコンサンプリング」と呼ばれていて、実在する調査回答者のプロフィールをAIに与えると、その人になりきって回答してくれる、という研究が元になっています。

これを使うと、「10年前に戻ってください。当時どうでしたか? 今は? これからは?」と問いかけて、AI市民に自分の人生の移り変わりを語ってもらえるかもしれない。もちろん、それは事実のデータではなくて、あくまでシミュレーション(つくりもの)でしかない。

でも、それでもなお面白いとも思うんです。正確さのためじゃなくて、人生を動画として観る想像力を働かせるための道具として、あえてフィクションを使う。

こんなことを考えながら、今年も幸福度調査に関わりたいと思います。

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著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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