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ブログ歩きながら考える

2026.5.29

440万人の事務職余剰、その時、外国人労働力はどうなる? – 歩きながら考える vol.298

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、AIによる事務職の余剰と、外国人労働力の関係について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は5月22日の日経新聞の記事(元は日経ビジネスの記事)を読んで、ちょっと考えたことを話してみようと思います。歩きながら、ゆるく話してみます。

440万人の事務職余剰という未来

記事で紹介されていたのは、経済産業省が今年3月に公表した「2040年の就業構造推計(改訂版)」の話でした。そこで示されているのが、なかなか具体的な数字なんです。

2040年までに、AI・ロボットの利活用やリスキリングの推進によって、約200万人分相当の労働需要が効率化される。その結果、事務職で約440万人、大学・大学院卒の文系人材で約80万人の余剰が生じる可能性があるとのこと。事務型職種では、労働時間の55%で代替が進むと試算されているそうです。

これに対して、大企業の場合は解雇というよりは配置転換で対応していくであろうという話になっています。ただ、労働市場の流動化を進めるという方向性が進むんじゃないかと個人的には思います。

実は需給のバランスが取れる、という見立て

ここからが、一番面白いと思ったところ。

日本社会全体として見たときに、エッセンシャルワークの需要って足りていないわけですよね。介護とか建設とか物流とか、現場仕事のなり手が少ない。経産省の推計でも、AI・ロボット等利活用人材で約340万人、現場人材で約260万人が不足するとされています。

つまり、デスクワーカーが余剰になって、現場人材が不足する。だったら、普通に考えると、社会全体としては足りないところに労働力が流れていくっていうのが、バランスが取れるって話になるんじゃないかと思うんですよね。

ネックになる要素のうち、やっぱり無視できないのは賃金なんだろうと思うんですよ、良くも悪くも。特に大企業の場合は、中小に比べると生産性が高くなる傾向にあるから賃金が高い水準で保たれていて、待遇も良い。ただ、中身を見てみると、ほとんどブルシットジョブみたいな仕事が、正直、現状としてあったんじゃないかと思うんです。それがAIによって効率化されるのは、今後のホワイトカラーにとっても望ましいことなんじゃないか、と。

問題は、職種転換がなされた人たちが、十分に生活できる所得を得て、結果として社会全体の幸福度が上がるのかどうか。これは、社会設計次第だと思っています。

「安く働いてくれる外国人」を期待する時代の終わり

ここで、もう一つ気になっているのが、外国人労働力との関係です。

在留外国人は2025年6月末時点で約396万人に達して、過去最多になっています。この10年、15年で大きく増えた背景には、人手不足の現場を外国人労働者が支えてきたという側面があると思います。介護、建設、農業、食品製造といったエッセンシャル領域では、技能実習や特定技能を中心に外国人の存在感が大きくなってきた。現場仕事の賃金がなかなか上がってこなかった構造には、もちろん3K(きつい・汚い・危険)のイメージや昇進機会の少なさといった非賃金要因もあると思いますが、安価な労働力としての外国人がそれを下支えしてきた側面も否定しがたいんじゃないかと思います。

ここ数年の研究者やシンクタンクの見立てを見ると、AIで省力化が進んだとしても、やはり外国人労働者は必要だという話があるようです。だから、これは慎重に扱うべき議論だとは感じます。ただ、低賃金で働いてくれる「数」としての労働力を期待するのは、もうやめる時期なんじゃないかなと思うんですよね。

そもそも、現在の円安や日本の経済状況を考えると、そうした労働力の確保自体が難しくなる可能性があります。「安いから日本に行く」という時代は、もう続かないかもしれない。しかも、AIによる事務職の余剰が出てくる、配置転換が起きる、エッセンシャルワークの賃金が上がる構造ができる。そういう中で、外国人を労働力の頭数として頼る前提自体が、構造的に成り立たなくなっていくんじゃないか、と思うわけです。

現場仕事の変化と、外国人材は「量」から「質」へ

じゃあ、これからどう考えていけばいいのか。

私は、ここで起きるべき変化の中心は、エッセンシャルワークなどの現場仕事の待遇とイメージが変わっていくことなんじゃないかと思っています。AIによる事務職の効率化と配置転換が進めば、現場仕事の人手不足はより顕在化する。そうすると、賃金は上がりやすくなる。給与格差がついている状態だと、仕事の格付けみたいなものが無意識のうちに人々の中にできていて、現場の仕事を嫌がるということになりがちですが、そこに差がなくなったり、場合によっては現場の方が稼げるとなれば、話は変わってくる。3Kのイメージそのものも、少しずつ書き換わっていく可能性があると思います。

そして、それと並行して進めるべきなのが、外国人労働力との関係を「量」から「質」へ転換することなんじゃないかと思うんです日本の産業を強くしていくための変革やイノベーションを共創してくれる人、「日本がいい」と思って選んでくれる人。そういう外国人に対しては、逆に手厚く呼び込んでいく。現場仕事の待遇とイメージの変化と、外国人材の量から質への転換は、どちらか一方だけでは成り立たない、セットで進めていくべき話だと思っています。

そういう意味では、日本はもしかしたら、割と恵まれた環境にあるのかもしれません。労働力が豊富にある国だと、AIで仕事の数が減ってしまって、社会不安につながる可能性が高い。でも日本は、うまくやれば、AIによる効率化と、現場への労働力流動化と、外国人との新しい関係性のつくり直しが、同時に進む可能性がある。バランスの取れた状態に着地できるかもしれません。

もちろん、これは「うまくやれば」の話で、社会設計次第なんですけどね。ここがこれからの日本の分かれ目になる気がしています。

もし、この話について何か思うところがあったら、ぜひコメントで教えてください。この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったらぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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