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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ不確実性の回避(UAI)個人主義(IDV)歩きながら考える

2026.5.27

やっぱりAIで置き換えるべきは「上司」。日本では。 – 歩きながら考える vol.296

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、トランプが毎週ゴルフをできる理由から考える、日本企業のAI活用について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は移動時間を使って、最近気になっている話をしてみようと思います。テーマは「日本企業の意思決定が遅い」という、もう何十年も言われ続けている問題。これに対する処方箋として、AIへの権限移譲だな、と僕は思っているんですけど、なぜそうなのかという話を、歩きながら考えてみたいと思います。

トランプはなぜ毎週ゴルフができるのか

きっかけは、トランプ大統領のゴルフの話でした。

トランプ大統領、めちゃめちゃゴルフしてるらしいんですよね。第二期就任から最初の1ヶ月で、3分の1の日にゴルフをしていたとのこと。月によっては毎週末ずっとゴルフ、みたいな状態が続いているそうです。

で、これ、別にトランプ政権の良し悪しの話をしたいんじゃないんですよ。「サボってる」とか「だからトランプ政権は・・・」とかいう議論はちょっと置いておいてください。僕が興味を持ったのは、世界で最も責任が重いと言われる仕事の一つに就いている人が、なぜそれだけの頻度でゴルフをすることが「可能」になっているのか、という構造の方なんです。

一方で、日本の首相を見てください。たぶんめちゃくちゃ忙しいんじゃないですかね。分刻みでいろんな人と会って、情報に目を通して、討論準備をして、意思決定をして……みたいな日々を送ってるんだろうな、と想像します。

これ、首相だけの話じゃなくて、日本企業の経営者や管理職も同じ構造だと思いません?会議、会議、会議の連続で、お昼を食べる暇もない。そんな方、たくさんいらっしゃるんじゃないでしょうか。

なぜ、こんなに違うんだろう。

不確実性回避92の国で起きていること

ここで登場するのが、ホフステードの文化次元論です。

特に今回注目したいのは「不確実性回避(Uncertainty Avoidance)」という次元。これは、ある社会が「曖昧さや不確実性をどれくらい嫌うか」を表す指標で、日本のスコアは92、アメリカは46。日本は世界で最も不確実性回避が高い国の一つです。

不確実性回避が低いアメリカみたいな社会では、上のマネージャーの役割は「大きな戦略の絵を描くこと」であって、「細部を確認すること」ではないというのが当たり前になる。どっちに向かうか、どこに資源を集中させるか、何を捨てるか、みたいな大きな方向性の判断がシニアマネージャーの仕事で、細かいオペレーションの確認は現場の責任、という分業がされているわけですね。

しかも、アメリカは個人主義の度合いも非常に高い(スコア91)国です。だから、それぞれの担当者が結果に対する責任を明確に負った上で、自分の能力を発揮してその仕事をやり切る、というのが当たり前。上司がいちいち細部に介入してこないし、される側もそれを望まない。

だから、アメリカ大統領は方向性の判断は必要になりますが、あとは責任を負った担当者たちが回す。詳細の全てに目を通すことは求められないから、結果として毎週ゴルフをする余裕がある、ということになる。

一方、不確実性回避が高い文化だと、トップマネジメントも上の管理職も、日々のオペレーションの細部まで都度都度確認するのが当たり前になる。つまり、首相や日本企業の経営者が分刻みなのは、文化的に「全てを把握して判断する」ことが期待されているからなんですね。

人間の能力限界を超えた期待

でも、ここで根本的な問題があると思うんですよ。それは、人間の能力には限界があるということ。

上に上がっていく人って、当然優秀な方が多いと思います。でも、いくら優秀でも、組織全体の細部まで全部把握して、すべての論点で適切な判断を下して、何か問題があったらすぐ気づいて指摘する、なんていうのは、相当に稀な能力を持った人でないと、現実的に無理ゲーですよね。

なのに、組織の構造として、上の人にこういう役割を期待してしまっている。「日々のオペレーションの細かいところまで認識してください、責任を取っていただく必要があるからゴーかノーゴーか判断してください、悪いところがあったら全て気づいて指摘してください」みたいな。

そうなると、何が起きるか。意思決定が進まなくなるんです。

「ちょっと待ってくれ、これじゃ判断できない、判断できる適切な情報を持ってきて」となる。でも、上司から「判断できる適切な情報を」と言われた下の人は、何を持っていけばいいのか分からないですよね。だから、とりあえずより細かい情報を集めようとする。さらにその下の階層に確認して、データを増やして、資料を厚くして……みたいな話になる。

結果として、どんどん枝葉末節の話に突っ込んでいって、組織全体としては膨大な時間を使っているのに、肝心の意思決定にはたどり着かない、という状態に陥る。

これ、日本の組織でよく見るパターンだと思いません?「日本の会社は動きが遅い」と言われるときの文化的な元凶の一つは、ここにあるんじゃないか、と思っているわけです。

やっぱりAIで置き換えるべきは「上司」

で、ここからが今日の本題なんですけど、この構造、AIで解決できるんじゃないかと僕は思っているんです。

以前にも、AIで置き換えるべきは部下か、上司か?という記事で書いたんですけど、僕の主張は「日本の組織では、AIは部下の仕事を代替するんじゃなくて、上司や経営層の仕事を代替する方に使った方がいい」というものです。

なぜか。非常に細かい詳細な情報を全て記憶した上で、最適解を探し出すという作業は、AIがめちゃくちゃ得意な領域だからです。人間の能力限界の問題を、AIが構造的に解決できる可能性がある。

日本のような不確実性回避が高い文化の経営のボトルネックは、上位のマネジメントに細かいオペレーションへの参加を無自覚に期待してしまうことにあります。しかも上位のマネジメントは、役割上、最終的な意思決定も求められる。細部の把握と意思決定を同じ人間に同時に背負わせているから、おかしなことになっているわけです。上司は別にスーパーパンじゃないんだから、こんなのは無理な話です。ここをAIが補強できれば、構造的に詰まっていた部分が動き出すんじゃないか、と。

もちろん、今のAIがそのまま経営判断をできるわけではありません。最終判断は人間が行うべきだと思います。ただ、複数の観点からの分析を取りまとめたり、膨大な情報を集約・要約したりするところは、AIに任せる。その上で、人間が「どれくらいの速度で意思決定するか」という意思決定のリズム自体を、あらかじめ決めておく。そんな使い方が、日本の文化的特性に合った形なんじゃないかと思います。

まとめ

不確実性回避が高い文化におけるAIの使い方は、低い文化での使い方とは違っていい。むしろ違うべきだ、と。これが今日の僕の結論です。

そして、これがうまくいけば、日本の経営者も毎週ゴルフができるようになるかもしれないし、そうでなくても少なくとも、より迅速で強い組織になっていくんじゃないか、と思っています。

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著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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