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ブログ歩きながら考える

2026.5.26

エネルギーから考える、リベラルに足りない物語 – 歩きながら考える vol.295

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、なんでリベラルがこんなに嫌われるのかと言う話。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日は、京都の飲み屋でこの間あった会話から考えたことを話してみようと思います。僕は、自分とは政治の考え方が全然違う人と話すのがけっこう好きで、その店にはちょいちょい通ってるんですよね。今回はその店主との会話から、産業政策価値観の関係について、歩きながら考えてみたいと思います。

飲み屋の店主から見えてきたこと

その店主は、どっちかというと右寄りで、ちょっと陰謀論的なところもあるんですけど、面白い人で、よく話を聞かせてくれる。で、この間「なんでリベラルがそんなに嫌いなのか」って聞いたら、なるほどなと思う話をしてくれたんですよね。

まず、彼は既存政党全般を信用していない。政治家はみんな裕福な家に生まれたボンボンで、自分みたいに余裕のない生活をしている人間の感覚がわからない。大企業や一部の恵まれた層に利益を誘導するような政策ばかりだ、というわけです。

で、その中でも特にリベラルが嫌いだと。リベラル系の人たちは、自分も恵まれた環境で質の高い教育を受けて一流大学を出ているような人たちで、その特権的な立場から「人権」や「正義」を振りかざして目につくものを批判ばかりしている。結局、国全体をどう豊かにして、その恩恵をみんなに行き渡らせるかという視点が完全に欠落しているように見える、というんですよね。

これを聞いて、なるほどな、と思いました。もちろん、リベラル系の政党にも「こういう社会にしたい」というビジョンはあるはずなんですけれども、経済的な基盤として国をどう運営して豊かにしていくかという説得力のあるビジョンが、少なくとも店主のような人には全く届いていない。ここはすごくもったいないなと思ったんですよね。

資源のない国の生存戦略としての産業政策

僕は、これからの日本にとって決定的に大事なのは、やっぱりエネルギーだと思っています。

近現代史を勉強してきて、しみじみ思うのは、日本は資源のない国がどうやって豊かさを獲得するかという問いを、ずっと突きつけられてきたということなんですよね。結局、石油を止められたことが太平洋戦争に向かう大きな引き金になったわけで、エネルギーの自立は単なる経済問題じゃなくて、国の選択肢そのものに直結する話なんです。

しかも、エネルギーの重要性は今後ますます高まると言われています。製造業の競争力は電力価格に直結しますし、賃金格差が縮小していく中でロボットやAIが中心になっていけば、なおさらエネルギーコストが効いてくるはずです。実際、これからの世界の電力需要増の大きな部分をデータセンターが占めることになり、しかもそれは鉄鋼やセメントといったエネルギー集約型産業全体を上回るほどの規模になると言われているようです。

さらに、現代の食料生産は、もはやエネルギー産業の一部と言ってもいい状態になっているんだそうです。1カロリーの食料を食卓に届けるために、その何倍もの化石燃料が投入されているとのことで、これだともう化石燃料を食べているような感じですね。肥料も、機械も、輸送も、ぜんぶエネルギーで動いている。そして日本のエネルギー自給率も食料自給率も、先進国の中ではかなり低い水準にある。これは大きな脆弱性と感じざるを得ません。

そして最近、イラン情勢の急変でホルムズ海峡の通航に深刻な懸念が出ている。「他国に頼っていて、そこを止められたら一瞬で生活が成り立たなくなる」というのは、戦前の話じゃなくて、まさに今のリアルな話ですよね。

ワクワクできる「地産地消」のビジョン

じゃあ、どうすればいいのか。

ここで僕が今、すごく魅力を感じているのが、再生可能エネルギーと小規模な生産モジュールを組み合わせて、地域ごとにエネルギーや基幹物資を自給するという方向性です。

例えば、化学肥料の原料になるアンモニア。今までは天然ガスから作る巨大プラントが主流だったんですけど、最近は東工大発ベンチャーが、低温・低圧で動作する触媒を使って、ぐっと小型化したモジュールでアンモニアを合成する技術を開発しているそうなんですよね。普通の巨大プラントに比べると、ミニチュアサイズ。「スケールを追求するのではなく、完全に逆張りの発想」だそうです。これを再エネと組み合わせれば、地域ごとに肥料を自給できる時代が来るかもしれない

新型の地熱発電や太陽光発電と、こういう小規模モジュールを組み合わせて、外からエネルギーや原料を買わなくても永続的に回せる小さな生産ユニットを、日本中に分散して作っていく。これって、なんかワクワクしませんか?「中東から石油を買わなくてもいい社会になるかもしれない」「国としての足腰がしっかりする」っていう物語は、政治信条を超えて、多くの人が「いいな」と思える話だと思うんですよね。

価値観は「土台」として語ろう

で、ここからが今日いちばん言いたかったことなんですけれども。

リベラル側の価値観、つまり自由差別のない社会といったものは、僕は本当に大切だと思っています。ただ、それを単独で「人権!」「差別反対!」って前面に出して、それに反するものを攻撃するように使ってしまうと、この間話した飲み屋の店主みたいな人には「特権的な立場からの正義の押し付け」に見えてしまうんじゃないかと思うわけです。

でも、これってもったいない使い方だと思うんです。本来こうした価値観は、豊かで自立した社会の調和を作るための土台として位置づけられるべきものなんじゃないかと。

つまり、産業政策のグランドデザイン、エネルギー自立のビジョン、地域分散型の経済モデル、そういう国の産業の足腰の話があって、それを実現するためには、自由に意見が言えて、誰もが能力を発揮できて、差別なく機会が開かれている社会が必要だ、という流れで語る。そうすると、「人権」も「平等」も、攻撃のための武器じゃなくて、みんなで豊かな社会を作るための共通の土台として、すっと受け入れられるんじゃないか。

経済のグランドデザインと、それを支える価値観。この両方をセットで物語として語れる人が出てきたら、たぶん政治はだいぶ変わるんじゃないかな、と思いますね。リベラルが嫌われてるんじゃなくて、この物語をうまく語れる人がまだ出てきていないだけなのかもしれません。

まとめ

というわけで、今日は飲み屋の店主との会話から始まって、エネルギー自立と価値観の関係まで歩きながら考えてみました。自分と全然違う考えの人と話すと、自分の側に何が足りないかが見えてくる。これは本当にありがたい時間だなと思います。

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最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

プロフィール詳細

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