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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える
2026.5.19
感情とどう付き合うか――言葉にならないチャンネルの話 – 歩きながら考える vol.290
渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)
今日のテーマは、言葉を使わずに感情を表現することに関して。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日は移動時間を使って、ちょっと変わったテーマで話してみたいと思います。先週、仕事のお姉様方とワインを飲んでた時に出た話なんですけど、考えれば考えるほど大事なテーマだなと思えてきたので、歩きながら整理してみようと思います。
「何目指してんですか?」と聞かれて
僕、これまで何度かキャリアチェンジをしているんですよね。会社員から独立して、大学院に戻って、また仕事を変えて、みたいな。で、そういう話になると、「何目指してんですか?」って聞かれるわけです、たまに。
でも、僕、別に何も目指してないんですよね。じゃあ何を基準に進む方向を決めてるのかというと、ワインを飲みながらたどり着いた答えがあって。それが、「なんかいい匂いがする方向に進む」というものなんです。
これ、比喩なんですけど、結構リアルな感覚で。仕事を変える判断をするときに、こっちの方向はなんか淀んでて、いい匂いがしないなと感じる。一方で、向こうの方はなんかいい匂いがするなと感じる。だから、いい匂いがする方を選んでいく。言葉にしてしまうとなんかしっくりこない、でも確かに自分の中で働いている判断のチャンネルっていうのが、世の中には結構あるんじゃないかなと思うんですよね。
象と象使い、決めているのはどっちか
なぜ言葉にできない判断チャンネルが、これほど大事なのか。
ここで思い出すのが、社会心理学者のジョナサン・ハイトが『しあわせ仮説』などで使っている「象と象使い」という比喩なんです。人間の心を象と象使いに分けて考えるという話で、象使いが意識的・言語的な思考、象が感情や直感を表しています。
ポイントは、象使いがどんなに賢くても、象は圧倒的に大きくて力が強いということ。だから、物事を決めるときには、結局、象が動く方向に進んでいくことになる。象使いはあとから「なぜこっちに進んだのか」を理屈で説明しているにすぎないというのがハイトの主張です。
これが本当だとすると、人間の判断において、言語化される前のレイヤーが圧倒的に重要だということになります。「いい匂いがする」という僕の感覚は、おそらく象の動きを言語化しようとしているささやかな試みなんだろうな、と。

卓球少年の二種類の涙
象の動きは、判断だけじゃなくて表現にも現れます。
この間、YouTubeのショート動画で、小学校低学年くらいの少年が卓球の試合で大泣きしている動画を見たんですよ。マッチポイントまできていて、負けてる状態で、もうこの世の終わりかぐらいの勢いで大泣きしてる。で、最後のプレイで負けが確定すると、また大泣きするんですね。
面白かったのは、マッチポイントの時の大泣きと、負けた後の大泣きが、明らかに違うものを伝えていたことなんです。どっちも言語ではない。でも、伝わってくる感情が違う。マッチポイントの時は緊張や怖さに結びついた泣きで、負けた後は悔しさや悲しさに結びついた泣きだったのかもしれない。
これって、言葉以外のチャンネルが、言葉よりもダイレクトに感情と結びついているということだと思うんですよね。言葉にしてしまうと、その瞬間に何かが削ぎ落とされて、陳腐になってしまう。
ダンスを言語のように分解する試み
で、ここからが今日の本題なんですけど。
昔、青山学院大学のワークショップデザイナー育成プログラムに通っていた時に聞いた話で、ずっと頭に残っているものがあります。それが、アメリカの振付家ウィリアム・フォーサイスの「Improvisation Technologies」という取り組みです。1990年代にフランクフルト・バレエ団のダンサー向けに作られた教育用のCD-ROMで、バレエの身体の動きを語彙と文法のように分解して、それを組み合わせることで振付ができる、という発想なんですよね。
フォーサイスがやっているのは、「言葉ではないチャンネル」を言葉のように分析し、再構築する試みです。これって、僕が「いい匂いがする」というキーワードで自分の判断プロセスを捉えようとしているのと、構造的にすごく似ている気がするんですよね。言葉にならないけれど確かにそこにあるものを、言葉とは違うチャンネルで、しかし言葉のように扱えるところまで持っていこうとする。
象の動きを豊かに扱える表現チャネルで表出させると、象にどのようなフィードバックが返っていくのか、そもそも象が変化することはあるのかなど。これを真剣に追求していくのは、研究なのか実践なのかわかんないですけど、すごく面白い領域なんじゃないかなと思っています。AIとの対話研究をやっている身としては、こういう話をAIのサポートで追及出来ないかと思ってます。

まとめ
というわけで、今日は「言葉にならない思考と表現」について、歩きながら考えてみました。象使いの言葉だけで象を扱おうとするのは無理がある。だとすれば、象の言語とは何なのか。「いい匂いがする」という感覚も、卓球少年の涙も、フォーサイスのダンス分析も、たぶん同じ問いを別の角度から照らしているんじゃないかなと思います。
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著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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