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2026.4.24
30年変わらない日中米の工場摩擦、たどると田んぼに行き着く – 歩きながら考える vol.277
渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)
今日のテーマは、30年以上離れた2本の映画を続けて観て驚いた話。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日は移動時間を使って、最近観た2本の映画の話をしてみようと思います。先週、アメリカン・ファクトリー(2019年)というNetflixのドキュメンタリーを観たんですよ。で、それが面白かったんで、そういえば似たような話でガンホー(1986年)っていう映画があるよって聞いて、1週間後の今日、続けて観てみたんですね。で、この2本、驚くほど話が似ていた。30年以上離れているのに、描かれている摩擦の構造がほぼ同じで、これは何なんだろうっていうのが、今日の話です。
30年離れた2本の映画が、驚くほど似ていた
まず、2本の映画の共通構造から。
アメリカン・ファクトリーは、中国のガラスメーカー・福耀(フーヤオ)が、オハイオ州デイトン近郊のモレインで閉鎖されたGM工場を買収して、2,000人規模で雇用を再開する話。スティーヴン・ボグナーとジュリア・ライカート監督によるドキュメンタリーで、第92回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞しています。
ガンホーの方は、ロン・ハワード監督、マイケル・キートン主演のコメディ映画。舞台はペンシルベニア州の架空の町ハドリービルで、閉鎖された自動車工場を、日本の架空の自動車メーカー「アッサン・モーターズ」が買収して再稼働する話。
で、この2本、工場で起きる文化摩擦の構造がほとんど同じなんですよ。トップダウンの指揮系統、集団行動への要求(体操や整列のシーン)、生産性への強い要求、そして「アメリカ人労働者は働きが悪い」という東アジア側の認識。これが両作品で瓜二つ。中国と日本って、別の国だし、制作時期が30年も離れた映画なのに、アメリカで工場を運営する時にぶつかる壁の形が、ほぼ同じだったんですよね。
で、これ、なんでだろうって考えてたんです。
これ、稲作と似ていませんか
ここで一つ、仮説として思い浮かんだのが、工場という場所の要請と、稲作の要請が似ているということ。
工場という生産様式には、独特の要請があるじゃないですか。大勢の人が同じ時間に同じ場所で協力して働く必要があり、品質と安全のために手順の厳格な遵守が求められ、ライン全体の生産性が個人のパフォーマンスより優先される。事故を防ぐため指揮系統が明確であることも必要。これって、稲作の要請とかなり似ているんですよね。
シカゴ大学ブース校のトーマス・タルヘルムは「Rice Theory(米理論)」というものを提唱しています。ざっくり言うと、稲作が東アジアに集団主義的な文化を育てたという理論。
タルヘルムによると、稲作はヘクタール当たり小麦の約2倍の労働力を必要とし、農家は労働を共有する慣習を作ったそうです。稲作はまた、田を水で満たしたり排水したりする灌漑システムに依存する。水を管理するようになると、各農家にどれだけ水を分配するか、いつ田に水を入れるか、水路の修繕の労働をどう分けるかを調整する必要が生まれたとのこと。結果として、人々が互いに依存し、個人の移動の自由が少ない、緊密な社会が生まれたんですね。
で、ここからが今日の話の核心なんですけど、稲作が要請した文化パターン——大勢での協働、共同設備の管理、タイミングを合わせた作業、村全体がうまくいかないと個もうまくいかない感覚——って、そのまま工場の要請と重なるんじゃないかって思うわけですよ。

ハマりがいい、ということ
この仮説で読み直すと、色々なことが繋がってくるんですよね。
稲作文化の系譜にある東アジア(日本も中国も)は、工場という次の生産様式にもハマりがよかった。このことは戦後日本の製造業の成功の一つの要因だったのではないかと思うし、今の中国の製造業も強さの一因にもなっているのではないかと思うわけです。
そして、日本と中国は同じ稲作文化の系譜にあり、同じ工場という生産様式を運営していて、同じ個人主義のアメリカに進出した。だから、30年経っても摩擦の形がほぼ同じだったんじゃないかと。
ここで面白いのが、アメリカン・ファクトリーの中に、アメリカ人労働者が中国での宴会で突然涙を流すシーンがあるんですよ。個人主義文化で育った人が、中国式のトップダウンで集団主義的な組織文化の中で、思わず涙する。
明確な指揮系統があり、集団への帰属があり、全体の福祉を気にかけてくれる権力者がいる——これは、自分で全ての判断をしなくてよい安心感を生む。個人主義文化で育った人でも、そこに反応しうるということを示したシーンだったのではないかと思います。
ただ、稲作に由来する集団主義的な組織文化が常にうまくいくわけでもない。ガンホーの中に、日本人マネージャーが「日本式こそベスト」と主張した時に、アメリカ人である主人公から「じゃあなんで戦争で負けたんだ」と切り返されるシーンがあります。1986年時点で、この組織文化が精神論と結びついた時の限界を、映画は突いていたように思います。

次のラウンドは、機械の勝負かもしれない
で、ここまで考えてきて、最後に思ったこと。
稲作 → 工場という生産様式の系譜で、高権力格差・集団主義的な文化は東アジアの強みを支えてきた。でも、次の生産様式では、この文化的基盤は強みであり続けるんだろうか。
フィジカルAIと工場自動化が進めば、「大勢の人が協力して工場で働く」という要請そのものが消えていく。人のいない工場では、これまで適応的だった組織文化が、もはや適応的ではなくなるかもしれない。
そうなると、次のラウンドは組織力の勝負ではなく、機械とAIに関するテクノロジーの勝負になる。稲作を背景とした文化がテクノロジー競争と相性が良いのかというのは、やはりちょっと懐疑的に感じてしまいます。だから、稲作農村由来の文化とは明確に異なるサブ文化を国の中で作っていくことが重要になると思っています。
僕が観たのはN=1の映画2本なので、これで何かを結論づけられるわけではないんですけど、生産様式と文化の適応っていう視点で眺めると、なんか、今、歴史の大きな節目にいる気がするんですよね。
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著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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