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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ歩きながら考える
2026.4.13
推し活の幸福感の正体を、文化心理学で考えてみた – 歩きながら考える vol.267
渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)
今日のテーマは、推し活がなぜこんなに人を幸せにするのか、文化心理学の観点で考えてみるという話。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日は移動時間を使って、最近ちょっと気になったテーマについて話してみようと思います。先日、会社の中で雑談してたときに推し活の話が出てきたんですよね。推し活って、やってる人はみんなすごく楽しそうだし、エネルギッシュに見える。で、「あの幸福感って一体どこから来てるんだろう?」という話になって。ちょっと面白いなと思ったので、歩きながら考えてみます。
推し活はウェルビーイングの「全部乗せ」
推し活の幸福感って、まずわかりやすいところから言うと、当然感情的な快楽の体験がありますよね。アーティストのライブに行って盛り上がるとか、スポーツチームの試合を見て熱狂するとか。あの瞬間の興奮や高揚感は、心理学で言うところのヘドニックな幸福、つまり快楽に根ざした幸福感そのものです。推し活をしてる人なら誰でも、あの「うわーっ!」っていう感覚はわかると思います。
でも、推し活の幸福感って、それだけじゃない気がするんですよね。
心理学者のキャロル・リフが提唱したサイコロジカル・ウェルビーイングのモデルでは、人の心理的な幸福感には6つの次元があるとされています。自律性、環境制御、人格的成長、他者との良好な関係、人生の目的、自己受容。で、推し活ってこの6つのうち、驚くほど多くに同時にヒットするんですよ。
推し活をすること自体が自律的な行為で、誰にも強制されていない。推す対象があることで生活に目的が生まれる。推し活のために生活を工夫するようになると、環境制御の感覚が高まる。ファン仲間との交流は他者との関係性にプラスに働く。
つまり、推し活はヘドニックな快楽と、リフが言うところのユーダイモニックな幸福(意味や目的に根ざした幸福)の両方に同時に効く。これはかなりすごいことです。いわばウェルビーイングの「全部乗せ」に近い活動なんじゃないでしょうか。

「好きだからやってる」だけじゃない、関係性の中から立ち上がる自律性
ただ、ここでもうちょっと突っ込んで考えてみたいことがあるんですよ。
文化心理学では、自己のあり方を相互独立的か相互協調的かに分けて考えることがあります。北米のような文化では、自己と他者の境界がはっきりしていて、「自分は自分、他人は他人」という感覚が強い。一方、日本のような文化では、自己と他者の境界がもともと曖昧で、自分と周囲の状況が切り離しにくいことがある。
で、この違いが推し活の自律性の感じ方に関わってくるんじゃないかと思うんです。
推し活ってどうやって始まるかは人それぞれなんだけど、たとえばあるアーティストを見た瞬間にすごく好きになって、その人を支援することを自然に始める。それが自分の役割のように感じる。なんかこう、関係性の中で自律性が呼ばれる感覚というか。「自分がやりたいから内発的にやっている」ということでもあるんだけど、「この人を応援したい」という気持ちが関係性の中から立ち上がってきて、それが自律的な行動になっていく。
これは、相互独立的な文化における自律性——自分の内側から湧き出る動機づけに基づいた自律性——とはちょっと違う気がするんですよね。湧き出るのか、呼ばれるのか。その違いは微妙だけど、推し活の幸福感を理解する上では大事なポイントなんじゃないかと。
しかも、推し活はファンの一人でやっているわけじゃないことが多い。ファンコミュニティの一員として、みんなで推してる。そうすると、推しが成功したりより良い状態になっていくのを拡張されたコミュニティの一員として目撃するという体験が生まれる。自分1人の貢献は実際にはものすごく小さいかもしれないけど、拡張された自己を通じてそれを「自分たちの成果」として感じられる。この集合的な自己の感覚も、推し活の幸福感に上乗せされているのかもしれません。

K-POPが世界に輸出した「推し活モデル」
ここで面白いなと思うのが、BTSのファンコミュニティであるARMYのような現象です。
推し活が日本だけの話じゃないのは明らかで、ARMYは世界中にいる。でも注目したいのは、K-POPのファン文化って、もともと東アジア的な「支援育成型」のファン活動がベースになっているように見えるわけです。「スターのステージを楽しむ(消費する)」というよりも、「自分たちの力でスターを世界一にする」という、その効力感に根ざしたファン活動。ファンが戦略的に投票したり、ストリーミング回数を組織的に回したり、チャリティ活動を推しの名前でやったりする。
この「自分たちが育てて、自分たちが押し上げる」というモデルが、K-POPを通じて世界中に輸出されて、ある種のユニバーサルな現象になっている。もとは韓国発の、わりと相互協調的な文化に根ざしたファン活動のモデルが、個人主義的な文化にも広がっているわけです。これ、文化の伝播として見てもすごく興味深い。
で、もう一つ考えたいのが、こうした推し活的なものが広がっている背景には、個人主義の孤立主義化という問題があるんじゃないかということです。個人主義が進むと、人間関係のしがらみから解放されるという面はある。でも同時に、一人ひとりが単に孤立しているだけになるリスクもある。実際、社会統計を見ると、孤独感や精神衛生の悪化、若年層の自殺といった問題が表面化してきています。
「強い個人が自律的に成長して幸福になる」というのが個人主義的な幸福感の基本モデルだと思うんですが、誰もがそれをできるわけではない。そういう時に、オルタナティブな幸福の追求の仕方として推し活的なものがあるのかもしれない。関係性の中に自分を埋め込むことで、一人では得られない幸福感を得る。推し活の世界的な広がりは、そういった孤立への処方箋としての側面もあるんじゃないかなと思います。
まとめ
というわけで、今日は推し活の幸福感について歩きながら考えてみました。推し活はヘドニックにもユーダイモニックにも効く、ウェルビーイングの「全部乗せ」である。そして、その幸福感の核心には、相互協調的な自己のあり方——関係性の中から呼ばれる自律性と、ファンコミュニティを通じた自己の拡張——がある。しかもそのモデルは、K-POPを通じて世界に広がり、個人主義の孤立化に対する一つのオルタナティブになっているかもしれない。
今のところ、単なる仮説なんで、いつか実証研究してみたいですね。
この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。最後まで読んでくださり、ありがとうございます。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!
著者プロフィール
渡邉 寧YASUSHI WATANABE
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら。
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