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6次元モデル(異文化を理解するフレームワーク)ブログ権力格差(PDI)歩きながら考える

2026.3.27

AIエージェントを使いこなせるかは「部下を育てられるか」と同じ問題になるかも – 歩きながら考える vol.257

渡邉 寧 | 京都大学博士(人間・環境学)

今日のテーマは、中国で爆発的に広がるAIエージェント「OpenClaw」と、日本の文化について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。

こんにちは。今日も歩きながら、最近気になっていることを話そうと思います。今週、AnthropicがClaude Computer Useという機能をリリースしました。PCのデスクトップの操作権限をAIに渡して、アプリを開いたり、ブラウザを操作したり、ファイルを編集したりできるようにするというものです。これをちょっと触ってみて、AIエージェントの導入って、部下の育成とまったく同じ構造なんじゃないかと思ったんですよね。今日はその話をしてみます。

AIエージェント、すごいけど怖い

最近、AIエージェントの話題が盛り上がっています。OpenClawであるとか、Claude Code、Claude Coworkみたいな、チャットで質問して答えてもらうだけじゃなくて、PCの操作権限を渡して自律的に作業させるという方向性のAIですね。

僕自身もいくつか試しているんですが、正直なところ、本格導入にはちょっと踏み切れないというのが率直な感想です。万が一、重要なファイルを消しちゃったらどうしよう。お客さんに変なメールを送っちゃったらどうしよう。そういうリスクが頭をよぎる。実際、OpenClawではAIエージェントがメールの受信箱を暴走して削除しまくったという事例も報告されているそうです。

AI界隈では「全権限を渡して任せれば生産性が爆上がりする」というトーンの話が主流に見えますね。聞いた話では、大きなバグ修正の依頼が来たタイミングでたまたまジムにいたエンジニアが、チャットからAIエージェントに指示を出したら、その場でプログラムを修正してくれて、顧客対応もそのまま完了したと。確かにそういう世界はすごいんだけど、現実には多くの人が「でもちょっと怖いよね」と感じているんじゃないでしょうか。少なくとも僕はそう感じています。

「結局自分でやっちゃう上司」問題

で、この「怖いから任せられない」という状態って、部下の育成が苦手な上司とまったく同じ構造だなと思ったんですよね。

職場でよくある話じゃないですか。部下に仕事を任せたいんだけど、任せるとミスが怖い。かといって細かく指示を出し続けるのも大変。結局、「自分でやった方が早い」となって、全部自分で抱え込んでしまう。その結果、自分のキャパシティがボトルネックになって、チーム全体のアウトプットが頭打ちになる。

AIエージェントでも、まさに同じことが起きそうだと思いませんか。挙動がまだ怪しいから任せられない。かといって、全部自分でやっていたら、AIが登場する前と何も変わらない。AIを使いこなせるかどうかは、部下を育てられる上司かどうかと同じ問題なんじゃないかと。

部下の育成って時間がかかります。最初はとんでもないことをしでかすこともある。お客さんに失礼なメールを送ってしまったり、段取りを間違えたり。でも、だからといって一切任せなければ、その部下はいつまでも一人前にならないし、上司の負荷も永遠に減らない。

二人羽織から独り立ちへ

じゃあどうすればいいのか。ここで一つのヒントになりそうだと思ったのが、今週リリースされたClaude Computer Useの方向性なんですよね。

これは、AIにデスクトップの操作権限を渡すんだけど、AIが何をしているかを画面上でリアルタイムに確認できるという仕組みです。Anthropicによると、Claudeは新しいアプリにアクセスする前に必ずユーザーの許可を求め、ユーザーはいつでも作業を止めることができるとのこと。つまり、全自動で放置するのではなく、監督しながら任せるというスタイルです。

正直に言うと、僕はまだちょっと触った程度なんですが、今のところ動作にはかなり時間がかかる印象です。率直に言って、自分でやった方が早い場面も多いかもしれません。でも、この「見守りながら任せる」という方向性自体には可能性を感じています。

これって、部下育成でいうところの二人羽織のフェーズですよね。新入社員が入ってきたら、最初は後ろからメンターが見守る。「こういう時はこうするんだよ」と教えながら、少しずつ仕事を任せていく。たとえば、Excelへのデータ入力みたいな作業をAIエージェントが巻き取ってくれたら、その分だけ自分の手は空くわけです。最初はたどたどしくても、監督付きで任せる段階から始めるのが現実的な第一歩なんじゃないかなと。

そして、人間の部下であれば3ヶ月、半年、場合によっては数年かけて独り立ちしていく。上司が「もうこれぐらいなら自分でできるな」と判断したら、全権限を渡す。AIも多分、同じプロセスを踏むことになるんだと思います。ただし、AIの学習速度は人間の比ではないから、この独り立ちまでの期間は意外と短いかもしれません。

まとめ:AIを「育てられるか」が競争力になる時代

というわけで、今日はAIエージェントの導入を、部下育成のアナロジーで考えてみました。

いきなり全権限を渡して自律的に動かすのは、確かにすごい未来です。でも、それはいきなり新入社員に重要案件を丸投げするようなもので、現実的じゃない。まずは「監督付きで任せる」ステップから始めて、信頼関係を築いていく。

逆に言えば、「怖いから全部自分でやる」を続けていると、AIが来ても来なくても自分のキャパがボトルネックのままです。部下を育てられない上司と同じように、AIを育てられない人もこの先ちょっと苦しくなるかもしれない。AIエージェントを「どれだけ育てられるか」が、個人にとっても組織にとっても競争力に直結する時代になってきたんじゃないでしょうか。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。この記事が少しでも面白い・役に立ったと思ったら、ぜひいいねやフォローをしてくれると励みになります。また次回の「歩きながら考える」でお会いしましょう!

著者プロフィール

渡邉 寧YASUSHI WATANABE

慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡りマーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い。 経歴と研究実績はこちら

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